この冬を超えたら恋でいい

天気

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翌朝の空気は、昨日よりも冷えていた。

 凪は、マフラーを巻きながら玄関に立つ。
 大学へ行く支度は、もう習慣になっていた。

 「今日は……迎え、いいですよね」

 恐る恐る尋ねると、鷹宮は即座に頷いた。

 「当然だ」

 その言葉に、凪は小さく安心する。

 大学に着き、車を降りる直前。
 鷹宮が、凪の手首を軽く掴んだ。

 「……何かあったら、すぐ連絡しろ」

 「はい」

 それだけで、安心できた。




 講義が終わり、校舎を出ると、知らない男性が声をかけてきた。

 「君、凪くんだよね?」

 凪は、びくりと肩を震わせる。

 「……はい?」

 「この前の講義でさ」

 同級生らしい。
 悪意はなさそうだ。

 「ノート、きれいに取ってたから」

 凪は、どう返せばいいか分からず、曖昧に笑った。

 「……あの…えと……」

 その瞬間。

 「凪」

 低い声が、割り込んだ。

 振り返ると、鷹宮が立っていた。
 予定より、かなり早い。

 「迎えに来た」

 凪の肩に、自然に手が置かれる。

 同級生が、目を瞬かせる。

 「……保護者、ですか?」

 その一言に、空気が凍る。

 「違う」

 間髪入れず、鷹宮が答えた。

 「俺の」

 一瞬、言葉が止まり。

 「……大事な人だ」

 凪の思考が、真っ白になる。

 同級生は、気まずそうに笑い、そそくさと去っていった。

 車に乗り込むと、凪は小さく息を吐く。

 「……すみません」

 「何がだ」

 「……さっきの」

 鷹宮は、ハンドルを握ったまま、視線を前に向ける。

 「近づきすぎる必要はない」

 凪の胸が、ちくりと痛んだ。

 「……ぼく、邪魔でしたか」

 鷹宮の足が、ブレーキを踏む。

 赤信号。

 鷹宮は、凪を見た。

 「違う」

 声が、少し低い。

 「凪に、触れられるのが……嫌だ」

 凪は、息を呑む。

 「……嫌?」

 「俺が」

 鷹宮は、一度目を閉じてから続けた。

 「俺以外に、だ」

 その言葉の意味が、ゆっくりと凪に落ちてくる。

 心臓が、強く鳴った。

 「……それって……」

 問いかけは、途中で途切れた。

 鷹宮は、信号が青になると、車を走らせる。

 「……考えなくていい」

 それは、凪に向けた言葉であり、
 自分自身に向けた言葉でもあった。

 凪は、窓の外を見つめる。

 胸の奥に、今まで知らなかった感情が芽生えていた。

 ――触れさせない距離。

 それは、守るためなのか。
 それとも。

 凪は、その答えを、もう少しで知ってしまいそうだった。





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