この冬を超えたら恋でいい

天気

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窓を開けると、風の匂いが違っていた。

 冷たさの奥に、かすかな柔らかさが混じっている。
 凪は、その変化に気づいて、ふっと息を吐いた。

 「……春ですね」

 キッチンに立つ鷹宮が、こちらを見る。

 「そうだな」

 短い返事。
 それでも、その声はどこか穏やかだった。

 冬が、終わった。

 凪は、大学へ一人で向かう準備をしている。
 まだ少し怖さは残るが、足は前に出る。

 玄関で靴を履きながら、凪は振り返った。

 「……行ってきます」

 鷹宮は、少しだけ目を細める。

 「行ってこい」

 それだけで、十分だった。




 帰宅は、夕方。

 鍵を開けると、部屋にはコーヒーの香りがしていた。

 「おかえり」

 その声に、凪の胸が、自然と温かくなる。

 「ただいまです」

 凪は、コートを脱ぎながら、言った。

 「……あの」

 鷹宮が、こちらを見る。

 「この前、言ってたこと……」

 凪は、少しだけ緊張した顔で続ける。

 「ぼく、ちゃんと……立ててますか」

 鷹宮は、凪を見つめ、しばらく考える。

 そして、静かに頷いた。

 「十分だ」

 その言葉に、凪の喉が詰まる。

 「……じゃあ」

 凪は、一歩近づいた。

 「……約束、ですよね」

 鷹宮は、小さく息を吸い、凪の前に立つ。

 「……そうだ」

 間違いなく、答えた。

 「改めて言う」

 低く、確かな声。

 「凪。好きだ」

 凪の目に、涙が滲む。

 「……ぼくも、です」

 今度は、はっきりと。

 鷹宮は、ゆっくりと手を伸ばす。

 触れる前に、一瞬、間がある。

 「……いいか」

 凪は、迷わず頷いた。

 「はい」

 抱きしめられた腕の中は、変わらず、あたたかい。

 けれど、今は違う。

 守られているだけじゃない。
 選ばれている。

 凪は、胸元に顔を埋め、小さく笑った。

 「……名前、呼んでもいいですか」

 「もう、呼んでるだろ」

 少し照れた声。

 凪は、はっきりと言った。

 「……鷹宮さん」

 「凪」

 互いの名前を呼び合うだけで、
 春は、ここに来たのだと分かる。

 長い冬を越えて。

 二人は、恋を始めた。



ー 完 ー
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