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昼過ぎ。
塔の空気が張り詰めていたーー
窓の外には王家の紋章を掲げた馬車。
塔の扉が重く開く。
先頭に立つのは国王。
その後ろには見慣れない男。
豪奢な衣装。
だが顔色は土のように悪く、体は車椅子に沈んでいて年齢すら分からない。
その背後には従者と護衛。
王は片手をあげると、従者と護衛は一礼し塔から出て行く。
塔の静かな空気が、一気に濁る。
アシェルは立ち上がり、深く頭を下げた。
「父上。」
国王は軽く目をやるだけだった。
「挨拶はいい。」
その声は冷たい。
「すぐに始めろ。」
アシェルは目を瞬かせる。
「……?」
ゼノンが一歩前へ出ようとする。
しかし国王の視線が向く。
「騎士は外だ。」
短い命令。
ゼノンの拳がわずかに握られる。
キキが静かにアシェルの隣へ立つ。
車椅子の男が前へ出された。
男はゆっくりとアシェルを見上げる。
その瞳には、どこか打算の光があった。
「彼に触れろ。」
国王が言う。
そして――
戸惑うアシェルの手を掴み
そのまま無理やり、患者の手に触れさせる。
突然のことに、アシェルは息を呑む。
「……!」
だが、次の瞬間。
瞳の赤い光が弾けた。
部屋の灯りとは違う、強い光。
空気が震える。
アシェルの体がびくりと揺れる。
「っ……」
声にならない息。
次の瞬間。
力が抜け、アシェルの体が崩れ落ちる。
キキがすぐに支える。
「アシェル様!」
その横で、車椅子の男がゆっくり手を動かす。
指を開く。
閉じる。
何度も。
感触を確かめるように。
そして口元が歪む。
「……見事だ。」
立ち上がる。
先ほどまでの衰弱は、もうない。
「陛下、感謝いたします。」
国王は満足そうに頷いた。
「うむ。約束は覚えているな。」
「もちろん。」
男は笑う。
「塔が建つほどの謝礼に加え、我が領の金。
今後は破格の値で交易いたしましょう。」
国王の口元がわずかに歪む。
「それは良い。」
男は一礼する。
そのまま国王と共にさっさと部屋を出ていく。
去り際。
国王は振り返りもしない。
扉が閉まる。
重い音。
キキの腕の中で、アシェルの体が震えた。
「……はっ……」
息。
だが浅い。
呼吸がうまくできていない。
「………っ」
空気を取り込もうとする。
だが肩が上下するだけ。
喉が鳴る。
「……!」
顔色が急速に青くなる。
キキの表情が変わる。
「呼吸が……!」
意識はない。
体だけが必死に空気を求めている。
「坊ちゃん!!!聞こえますか!」
キキはすぐにアシェルの体を起こし、背中を支える。
「呼吸を……!」
背を叩く。
トン、トン。
だが呼吸は整わない。
「っ……っ……!」
顎が上下する。
だが空気が入らない。
顔色がさらに悪くなる。
その時――
扉が開いた。
ゼノンだった。
「どうした!」
状況を見て、顔色が変わる。
すぐに駆け寄る。
「代わります。」
ゼノンはアシェルを抱える。
キキの腕から受け取る。
少年の体は熱い。それなのに顔色は悪い。
だが冷たい汗が滲んでいる。
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