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本編
438 閑話・魔国のとある一室にて
魔国北方のとある部屋にて、一人の女兵士が腕を胸の位置に当て敬礼しながら報告をする。
「マーリス様、カオスイーターと守護者の衝突を確認しました」
内容は、先日行われたカオスイーターの運用演習についてのことだった。
魔国の一部上層派閥が呼び出すことを決めた、対勇者用の切り札である。
「で、どうでした?」
「バインド後、竜樹を守る二人の守護者を一瞬にして飲み込みました」
「さすがは混沌の力を受けし魔物ですね」
報告を受けるマーリスと呼ばれた軍人は、満足そうな表情で報告に頷く。
混沌の力を受けたカオスイーターは、仕上げる前から巨大。
長い時間をかけて準備する必要が無い。
しかし、成長コストが掛からない分。
召喚コストとその後の維持費が膨大という欠点も存在していた。
だからこそ、その対価を支払うために森へと派遣した。
どの程度の力を持っているのか。
そして腹を満たす獲物を与えるために。
「カオスイーターは他の守護者、そして他の魔物を圧倒後、ダンジョンコアによって直接倒されましたが、上層部はこの結果に大変ご満足いただけている様です」
「それはそれは、良いことですね」
目を細くニコニコとさせたまま、マーリスは問いかける。
「一つ守護者以外の魔物の存在が気になりますね」
「はい、ロック鳥とスライムキングになります。あのカオスイーター相手に怯むことなく果敢に立ち向かうほどの練度を持った魔物だったと、報告にあります」
「なるほど、それは新たな守護者ということでしょうか?」
「どうでしょうか……そこまで判別はできませんでした……」
しかし、と一人の兵士は続ける。
「付近で戦いに巻き込まれた冒険者が野営地に運び込まれたという報告もあります」
「ふむふむ、あの場に部外者がいたということですね?」
「はい。その後、その冒険者はロック鳥の上に守護者とともに乗っているのを私の部下が確認しております。故に、おそらくその冒険者の従魔という形に捉えても良さそうです」
「もしかして、従魔の数は3体だけだったりしますでしょうか?」
「確認されているのはスライムキングとロック鳥の2体のみです。……なぜ3体と?」
「いえ、少し気になることがありまして。まあ、特に深く考える必要はありませんよ」
「了解です」
やや首を傾げながらも頷いた兵士は「そうだ」と言い忘れていたことを告げる。
「3体であってるかもしれません」
「ほう?」
「その後、撤退中に山のような大きさを持ったスライムの姿を見た、という兵士達がいます」
「山のような……?」
「はい、マーリス様の目論見通り、暴れ出した暴食が森をぐちゃぐちゃにかき乱している最中、急に出現したのです」
兵士は言う。
遠目から見た、王冠のシルエットから察するに、スライムのキング種。
だが、見たことも聞いたこともないクラスの大きさ。
暴食のダンジョンコアにも引けを取らない戦闘力を秘めていた……と。
「そうですか、それが切り札ですかね……」
「切り札?」
「あ、いえこっちの話です」
マーリスはカップに注がれたコーヒーを一口飲み、言葉を濁しながら続ける。
「そうだ、竜樹の方は確保できていますか?」
「抜かりなく。守護者を討伐し、カオスイーターがへし折った竜樹の一つは確保済みとなっております」
「そうですかそうですか。かなり高価な代物なので、良い手土産ができて良かったですね」
「では指示通り、戦果物として公表するようにご連絡いたしますか?」
「……いえ、秘密にしておきましょう。裏から他国に流してお金を稼ぐのも良いと思いませんか?」
「私の一存ではなんとも言い難いです。マーリス様の指示に従います」
「ではダウトさん。あなたの方でお隣さんにお流しいただけますか?」
「了解致しました。実はどうされます? 奇跡的に一つ手に入りましたが」
「それはこちらで有効利用しましょう。新たな触媒として召喚に使っていただく形で」
「では上層部に流しておきます」
「よろしくお願いします」
綺麗な動作で180度、体を切り返すと、ダウトと呼ばれる女兵士は部屋を後にした。
それを見送って、マーリスは立ち上がる。
「ふああ……」
あくびを一つして体を伸ばしながら、窓の外から南西の空を眺めた。
そびえる山脈の向こうには、デプリと呼ばれる国が存在する。
少し前に勇者召喚を行なって、各国の間で物議を醸し出した国だ。
「勇者召喚には、魔王召喚」
その方角をじっと見据えながら、マーリスは少し口角を上げて呟く。
「──これが世界の習わしですよね?」
くすりと笑うその表情は、なんとも悪戯心に溢れていた。
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