装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

文字の大きさ
203 / 650
本編

504 宿直と学院七不思議・その7 怒涛の七不思議

しおりを挟む
「うふふふふふふふふ」

「……!」

 ローディと模型像が迫ってくる。
 見た目がえげつない、単純明快に言えば超怖い。
 やばい、怖い、やばい、怖い。
 それぞれの顔を見た感想がこれである。

 熱の篭った視線を向けながら、模型像をガッチリホールドするローディ。
 それを見ていると、どうやら模型像の方が振りほどきたくて必死っぽい。
 捕まえて踊るはずが、ガッチリ捕まえられて離れられない様だ。

「……ッ! ……ッ!」

 模型像は、今にも泣きそうな悲壮な顔をしながら首を振っている。
 模型像ォ……。

「トウジ! このままだと七不思議がバッティングしちゃうし!」

「待て、考えさせて!」

 強いて言うなら、抱き合ったままランナウェイして欲しい。
 処刑されて、鏡の世界に愛の逃避行してくれたら非常に助かる。
 万事が収まる。

 しかしだな……彼女も一応、研究所の従業員。
 イグニールとの繋がりから、みんなの職場立ち上げに関わってくれた一人なのだ。

 媚薬っつーか、惚れ薬で自爆して、模型像見てトリップしてるけど。
 そんな彼女でも、いなくなっちゃイグニールが悲しむんだよな……。

 イグニールは、ローディを面倒見てやらなきゃいけない妹分だとしている。
 トガルから急遽俺の元へと来てくれたイグニールのギリスでの友人だ。
 みすみすこんなところで死なせてしまう訳にはいかないのである。

「トウジ! もう時間がないし!」

 ジュノーが叫ぶ。

「全部悪魔とか精霊が取り憑いてるなら、霧散の秘薬を使うし!」

「いや待て! そしたらローディも正気に戻るだろ!」

 確かにジュノーの言う通り、憑き物には霧散の秘薬が一番だ。
 しかし、俺の脳内に一つの可能性がチラつく。

 今のローディは自分の作った変な薬でトリップしているが……。
 霧散の秘薬はそれすらも解除し、正気に戻す。

 そして、正気に戻ったとしても、その正気がバグっているのだ。
 イグニールへの手紙を思い返すと、今の方がマシなレベル。

「水島ァ! とりあえずヌルヌルだ! 上がらせんな!」

「キュイ!」

 そこで俺のとった選択肢は、階段を上がって来させないという方法。
 なんとも子供じみた手法だが、上への退路が開ければどうにでもなる。
 この袋小路の状況がなんとかなればいいのだ。

「斥力!」

 さらにスキルの斥力によって、無理矢理にでも遠ざける。
 階段の摩擦は、水島のヌルヌル体液でほぼ無い。
 そこに斥力の力が加われば、あとは簡単にヌルヌルヌルンと滑り落ちていく。

「ジュノー! 今のうちに霧散の秘薬を踊り場に撒いてくれ!」

「うん!」

 こういう時こそ、みんなで力を合わせて危機を脱するんだ。
 俺と水島が斥力とヌルヌルで模型像の接近を阻みつつ。
 ジュノーがギロチン階段と踊り場合わせ鏡の悪魔に秘薬を撒く。

 霧散の秘薬によって取り憑いた正体が出て来たところで、今度はそっちに引力。
 逃げられる前に右手に片手剣持って、そのまま引力によって自ら斬られに来てもらう。

 そのまま悪魔だけを引き寄せることはできないのか、って疑問もあった。
 しかしながら、それができたらやってると言うことである。

「──……ッッ!」

「ト、トウジ! 模型像が、模型像が……飛んだし!!」

「ちょ!」

 執念を感じた。
 インベントリから取り出した霧散の秘薬をジュノーに渡す前に。
 ヌルヌルまみれになった模型像が、大跳躍をかましたのだ。

 ロ、ローディは? 変態は?

 模型像だけ飛び上がったのを見て、すぐに彼女を探すと階段の下をカーリングみたいに滑っていた。
 どうやら、俺の引力は彼女に作用していたらしい。
 選択できる対象が一つだけというデメリットが、ここに来て模型像をフリーにしてしまった。

 ちゃんと模型像を押し戻せていると思ったのだけど。
 深層心理の中で、俺はローディの方を拒否していた様だ。

 ヌルヌルによってローディの腕の中からツルンと解放された模型像は、必死の形相で階段を駆け上がる。
 驚異の5段飛ばしで、約2歩。

 圧倒的早さで階段を駆け上がり……ザンッ!!
 ──処刑された。

「トウジ! 模型像の首が!」

「わかってる!」

 しかし、模型像への災難はまだ終わらない。
 処刑された後に、踊り場の合わせ鏡が控えているのだ。

「トウジ! 模型像が吸い込まれていくし!」

「だからわかってるって! つーか模型像は備品じゃん!」

 どーすんだよこれ!?
 首チョンパくらいだったら接着剤でなんとかなるけど。
 鏡に取り込まれてしまったらどうにもならんぞ!

「弁償か?! さすがにこれは言い逃れできないよな?!」

「トウジ落ち着くし! 事情を話せばなんとかなるし!」

「馬鹿言ってんじゃねーよ!」

 なんて事情を話せばいいんだ。
 七不思議にある合わせ鏡に持ってかれましたってか?
 悪魔が住み着いてて、それにやられましたってか?

 七不思議ってただの噂で、最近被害とかなかったんだから信じる訳がない。
 逆に「まだそういうの信じてるんですか……?」って職員室で浮いちゃう。

「水島ァ! そっちの変態は頼むぞ! クイック!」

「キュイ!」

 気を失って廊下を転がっていくローディは水島に任せて俺は飛んだ。

「うおおおおおおッ!! 模型像ーッ!!」

 飛びながら引力を使って、模型像を引っ張る。
 途中で首筋に鋭い痛みが走った。
 何度もなんども首筋に痛みが走るけど、気にしちゃいられない。
 今は備品が大事だ、HPの減りは1だから問題ない。

「トウジ! 霧散の秘薬使うし!」

「サンキュージュノー!!」

 後ろから、霧散の秘薬を振りまくジュノーの援護を受ける。
 飛び散った秘薬が、踊り場にいた悪魔たちを引きずり出した。

 俺をしつこく襲っていた処刑台の刃が消える。
 今にも吸い込もうとしていた合わせ鏡が消える。
 模型像も、今にも泣きそうな表情が元に戻る。

「うおおおお!」

 ギリギリのところで模型像をキャッチして、すぐインベントリに収める。
 傷は胴体と首が離れ離れになったのみで、あとは問題ない様だった。

「トウジ! ナイスキャッチだし! えらい!」

「うおっしゃあああ!」

 なんだか無駄に達成感に打ち震えてガッツポーズしてしまう。
 少し恥ずかしくなった。

「……よし、あとは悪魔どもだけだな」

 気を取り直して、ジュノーくらいの大きさの悪魔2体を見据えて立ち上がる。

「……散々悪さしてくれやがって」

 容姿は、ゴブリンの顔にさらにおぞましくしてコウモリの羽を生やした感じ。
 悪魔どもは処刑台無傷の俺に太刀打ちできないと思ったのか、すぐに逃げようとする。
 しかしクイックによって素早い俺はすぐに正面に回り込んだ。

「ギギギ!?」

「ギギッ!?」

「逃がさんぞ、絶対仕留めてやる」

しおりを挟む
感想 9,839

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。