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本編
513 冒険者は底辺ですか?
しおりを挟む「冒険者っていわゆる底辺ですよね? いったい何を目的としてその職業に就かれたんですか? 私たちは研究所に所属し、ゆくゆくはアーティファクトに変わる魔導機器を作っていくという目的があり、そこからさらにキャリアアップもしていけますけど、冒険者はランクを上げて何をするんですか? どうなるんですか? そのキャリアはいったいどこで今後活用されていくんですか? まずはそこを教えていただきたいのですが?」
ワンブレスによって矢継ぎ早と放たれた質問。
教室のみんなが置いてけぼりになる中だ。
皮肉にも、ガレー慣れしていた俺は聞き取れて理解できた。
ふむ……なんとも……。
アーティファクト研究に国を挙げて取り組むギリスの学生らしい意見である。
魔導機器は、安価となり今かなり流行ってきているものだ。
だから、この国で就きたいとされる職業。
それはC.Bファクトリーのような魔導機器商会なのである。
確かに、時代の最先端ってすごくカッコ良い。
しかし、その全てが研究者になれるかは、わからない。
「冒険者に限らず、すべての仕事に底辺なんてないぞ?」
これが、先生らしい回答だろう。
俺の世界でもブルーカラーとか、介護士とか、警備員とか。
底辺だとみなされている仕事はたくさんあった。
しかし、どの仕事も俺は底辺ではないと思っている。
え?
自分で底辺だとか言ってなかったかって?
うん、俺はまごう事なき底辺だよ。
性根が本物の底辺。
だから行き着く先で禊いどる訳だ。
「すいません、私は冒険者が底辺だと述べたまでで、他の職業が底辺であるとは言っていないのですが? 漁業、農業、林業、鉱業、私たちの生活の中ではとても欠かせない職業で、むしろそれと冒険者を同様に扱っている先生こそ、底辺だとバカにしていますよね?」
「ぐっ」
女子学生に論破されてしまった。
最近論破されっぱなし。
委員長はメガネをくいくいしながら続ける。
「護衛も、魔物の討伐も、すべて軍がやればいいのに……冒険者という職業があるから、その辺がまったく活かされていないと思うんですが? そこに関してはどう思ってるんでしょうか?」
し、知らないよそんなこと。
冒険者は依頼があれば行くだけなんだから……。
いちいち、うぜーな。
隙間産業だってことは、誰だって理解してるんだ。
それこそ、職員だってな。
「あのさ、未開地域とか危険な場所が世界にいくつあるか知ってる? 君?」
「安全な街で生活していますから、知る必要はありませんよ」
安全な街で生活してるからいる必要はない、か……。
なんとも上から目線な一言なのだろうか。
それこそ、研究者を愚弄している言葉なんだと気付かないのか?
あのストーカー女もそうだったが……。
別に、研究者は所属する研究所にこもりっきりじゃない。
材料が足りないと、自分で材料を取りに行くもんだ。
さらに材料が事足りていても。
新しい産地が見つかれば、そこを視察に行く。
知る必要はない?
いいや、違うね。
こういうのは知ってこそ。
お前みたいなのがいるからな、上と現場が揉めるんだ。
「ギリス首都は確かに安全かもしれないが、その他の場所はどうするんだ?」
「ギリス首都に住んでいるので、私には関係ないです」
「お前の小さな目線でそこを語るなよ。研究者としても失格だぞ」
「な!?」
拗らせてそうな委員長には、ちゃんと告げておく。
ムカつく気持ちもあるけれど、生徒なんだからね。
「そもそも落ち着いて考えてみろ。冒険者がいらないなら、冒険者って職業は成立しない」
「……」
「なぜ今、冒険者があって、俺がここに話に寄越されていると思う? そこを考えろアホ」
「アホッ!? し、失礼な!! わ、私は無駄を省く話をしているのであって!!」
「その無駄を省いた形が今の冒険者だ」
隙間産業だと言ったが、そういうのはなくてはならない存在なのだ。
どんな職業にもなりたくないと色々と言われることはある。
しかし、それがなくなってしまったら、困るのは自分たちだということを知らん奴が多い。
「全部兵士に任せて、どうするんだ? 兵士の給料は国から出てるだろ? その分税金を高くするのか?」
「……」
「まあ、それで良いかもな?」
黙る委員長に伝えてやる。
「だが、中央山脈には厄介な魔物がまだまだたくさんいる。今は山脈へ行く冒険者も多く、村を経由してくれるおかげで、誰かしらの冒険者はいて後付け依頼で前金払って頼み事を聞いてくれたりするぞ? それを無くしてしまったら、村には兵士が常駐しなきゃいけなくなるな?」
「……それが必要なら、そうすれば……」
「うん、必要とあれば兵士は来てくれるだろう。そうすれば、確かに冒険者はいらなくなる。だけどな、安全な首都に住んでるお前はどう思う? いや安全な場所に住んでる人たちはどう思う? 大方、関係ないから、そこにかけるお金は無駄だって意見を言って、その村を見捨てる人が多いだろうな」
「そ、それは……」
明確な人類の敵として、魔物がいるこの世界では、外は危険極まりない。
そんな中だからこそ、流動的に各地を移動する冒険者が存在するのだ。
国が体、お金が血液だとすれば、冒険者は白血球かな。
いや、このたとえは違うか?
変なたとえだとこんがらがって来そうなのでやめておこう。
「ここは島国だから判り辛いけど、大陸国は国境の山脈とかはほぼ未開拓だぞ?」
「……」
「そんなところに、兵士なんか送ってみろ。国際問題になる」
だからこそ、国またぎの集団である冒険者ギルド。
そしてそこに所属する冒険者という職業が成り立つのだ。
国とずぶずぶなところもあるけど、基本的には中立。
「冒険者が危険な場所に行き魔物を倒してくれるおかげで、兵士は国を、街を守れる」
隙間にうまく入って、ギクシャクする部分を円滑にする役目を担っているのだ。
とてもじゃないが、底辺ではないね。
本物の底辺とは、ついている職業とか人生が底辺なのではなく。
精神面が底辺な奴のことを言うのだよ、俺みたいな。
「それに、みんながやりたくないことだって冒険者はやるぞ。もともといたトガルのサルトって都市は大きな下水があって、たまたま魔物の活性化で管轄の兵士が他に回ってる時は、俺が依頼を受けて下水道清掃をやった。すっげー臭かったし汚かったけど、依頼を受けたらやるのが冒険者だからね」
いつの間にか、俺の話をじっと聞く学生たちがいた。
「あと、最後に一つ聞くけど委員長」
「は、はい……」
「世にあるアーティファクトを発見したのは誰だと思う?」
「そ、それは……っ」
息を飲んだ委員長は、その質問でハッと気づいたような表情をする。
そう、冒険者の誰かだ。
「危険な未開地域に行く奴なんて、一攫千金を夢見るアホな冒険者くらいだ」
国を挙げてダンジョン攻略をしようという試みも無いことはない。
しかし、そこに兵士を使うならば、街を守らせるだろう。
税金使って、ダンジョンなんて、非生産的なことはやらないもんだ。
「さらなるアーティファクトを探して、メーカーだって高ランクの冒険者に探索依頼を出すんだ」
新発見ってのは、基本的にアホが奇跡的に持って帰ってくるもんだ。
いろんな屍の上で、たまたま見つけた奇跡のルートを辿って。
「だから、冒険者を底辺だとは思っちゃいけない」
そう言葉を締めると、パチパチパチと自然に拍手が上がっていた。
「……わ、わかりました」
委員長は自分の思い違いを少し恥ずかしいと感じたのか。
「こ、これからは冒険者を底辺だとは思わないようにしますっ!」
顔を赤らめさせながらそう言って席に座った。
「うん、多少なりしも関わりがあるんだから、少しでも知ってくれたら嬉しいよ」
ふう、とりあえずなんとか拗らせ委員長を説得できた。
これで論破された分を返したって訳である。
「おお~! 思わず私も聞き入ってしまいましたよ~! トウジさ~ん!」
「まあ、そう言ってもらえるとありがたいですよ」
「ではでは、この調子で他の質問いっちゃいましょー! 質問ある方ー!」
「はーい!」
ばばばばっと手が上がる。
なんとも、教室内に受け入れられたって感覚がした。
「どうぞー!」
「トウジ先生が一番辛かった依頼ってなんですかー?」
「あー、あるぞ。Cランクに昇格する時の話で──」
=====
冒険者豆知識
冒険者の税金は依頼のマージンとして一緒に抜かれています。一律です。
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