221 / 650
本編
522 平穏な日々、平穏な日常、平穏な……
しおりを挟む浮遊結晶の実験から、約2週間ほどの時が経った。
その間、俺は自宅、学院、研究所へと通う日々。
外に冒険に出かけるなんてことは全くない日常であった。
学院へと向かい、なんか雑務や業務を行う。
宿直がある日はそのまま学院に泊まり込み。
なかったらライデンを連れて研究所へと向かいお手伝い。
資材の移動とか、研究設備の移設とか。
本格的にデカいものを作り出すには色々と準備が必要だからね。
そして家に帰って、みんなでポチの料理を食べる。
思えば、人数も増えたなあ……。
俺、ポチ、ゴレオ、コレクトのいつメン。
イグニール、ジュノー。
マイヤー、南蛮、リクール、ピーちゃん。
新しく世話することになったピーちゃんは、ゴレオと薬草栽培をしてもらっている。
ハイオークは森の奥深くで、自然とともに暮らす魔物。
浄水の池のほとりにある、太陽の樹の暖かい場所は彼のお気に入りの場所となった。
こうしてみんなと過ごせる時に、約束していたみんなでのお出かけもこなした。
特に語る部分とかないので、この辺は割愛。
さて、いかにも平和な日常が続くのだが……。
相変わらずきな臭い動きをしている輩もいた。
こうして研究所によく顔を出すようになってからである。
周りを嗅ぎ回る存在がチラついていた。
恐らくC.Bファクトリーの連中だろう。
辺境伯の力添えのもと、ちまちまとギリスの魔導機器販売の中に参入していた。
販路があれば、オスローとオカロ、そして彼らに引き抜かれた研究者は強い。
俺たちを脅威的だと思いつつある、そんな傾向なのかと思った。
しかしながら、ちょろちょろ嗅ぎ回られるのは果てしなくうっとおしい。
ただでさえ、デプリが本格的にちょっかいかけ始めてきた状況。
誰がどの陣営にいるのか、それがはっきりしないことには始まらないと思った。
最近どこにも行かずに家、研究所、学院を往復している所以。
目を離して誰かが危害を加えられたってことにはしたくないからな……。
んでもって、そう思ったが故に、実はね。
すでに密偵役としてロイ様率いる王室諸君をギリス首都のあちこちに散らしといた。
向こうが探りを入れてくるってんなら、逆にやり返してやれってこと。
下水とか、川の中とか、水が存在するいたるところに潜り込んでもらっている。
そんで、常にC.Bファクトリーとかその他怪しいやつを探ってもらっていた。
「盟主よ、定時連絡を行う」
「悪いな、使いっ走りみたいな真似引き受けてもらって」
首都と港町の間にある森の中にて、ロイ様と話す。
「よい。主の召喚は3体までが原則」
「助かるよ」
同時召喚3体までという制限の中で。
強力なスライムの王種を呼び出せるロイ様はやはり有能だ。
「で、どんな感じ?」
「石造オブジェに偽装しているストーンキングからは、交代制で張り込む白衣の姿を確認している」
第一の監視役の一つが、ドドンと研究所の前の台座に置かれた石タイプのスライムキング。
通称石王さん。
図鑑の中のキングさんの助言にて、大胆不敵に守り神としての役割を担ってもらっていた。
「ってことは、C.Bファクトリーの連中だな」
「いや、実は面倒なことに、白衣を着ている中に、魔力の高いものも混じっていた」
「マジか」
高レベルになると、それだけMPの保有量も増えていく。
故に、それを感じ取れる個体は、相手の強さをある程度推測できるらしい。
ステータスの成長度合いには個人差がある。
しかし、レベルが上がればある程度のラインは超えるのだ。
ロイ様の報告は、そんな高レベルに至るほどの存在がいたことを表している。
「ってことは、この状況に便乗して監視してるってことだな……」
「その通り。確実に盟主とつながりのある人物の顔は知られているだろう」
「うわぁ……面倒なことになったなあ……」
俺が能力を隠して、あんまり深い関わりになりたくないと思っていた理由。
それが、こうした状況に巻き込んでしまうってことだった。
一人で背負い込むのも間違いだったと気づいて、こうして徐々に色々な人を受け入れ始めたというのに。
このタイミングで暗殺者がちょっかいを出してきて、周りを嗅ぎ回る連中が増えてきた。
これはいったい何の因果応報なんだろうな?
俺が何事もにケジメをつけずに、ただ逃げて逃げてを繰り返した応報か?
うーん、逃げてきたことは否定できない。
でも、だったらどうすりゃええねんって話だよなあ……。
「ここは一つ、早期決着案を私は提案しよう」
「早期決着案?」
「嗅ぎ回る奴らを全て根こそぎ始末、もしくは殺さないまでも監禁していく」
「……物騒なアイデア過ぎるだろ!」
「まあ最後まで聞け」
他にも言いたげなので、とりあえず最後まで聞くことにした。
実行に移すか移さないかはさておいて、な。
「王室諸君が誰にも気付かれない様に相手の潜伏先を特定し闇討ち。そうすることで、相手はすぐに新たな人員をこちらに送るはずだ。定時連絡がないこと、それは任務に失敗したことを指すからな」
無沙汰は無事の便りと言うが、闇社会では無沙汰は死んだ証拠みたいなもんだよね。
「馬鹿ではない限り、すでにこちらが何らかの対策を講じていると気がつく。その場合、取れる手立てはより強い存在を送り込み継続するか、強硬策へと転じると私は読んでいる」
「なるほど、相手をさっさと削り散らかす案ってことね?」
「その通り。盟主はそう言うの得意だろう?」
「いやでも……ダンジョン相手なら得意だけど、人とかになるとまた話は別というか何というか……」
「まあ、今更その腑抜けた根性を叩き直すつもりもない。とにかく、私が言っていることの本筋は、大変なことが早く来るか普通に来るか、それだけだ」
「遅く来るとかはないんだ……?」
「逆に後々に来るものが一番面倒くさい可能性を秘めているぞ。それだけ相手が準備を整え、絶対に揺るぎない勝てる手法を実行に移す段階へと相成ったという意味を指し示すだろう」
「確かに」
面倒ごとを後回しにして、大ごとにならなかったことなんて歴史上あまり存在しないかもしれない。
大ごとにならなかったものは、そもそもが大ごとではなかったと言うことなのだ。
「転じて攻勢に出ることこそ、私個人としては一番被害が少ないのではないだろうか、と思っている」
「……うん」
ロイ様の言う通り。
あと1週間ほどしたら、学院の行事ごとでリゾートアイランド・オデッセイへと引率しなきゃならん。
その時、ギリスから離れたトガル方面に俺は居て、何かがあった時の対処が遅れてしまう。
生徒であるライデン、マイヤー。
そして一緒について来るイグニールやジュノーは心配いらないと思うのだが……。
教団とC.Bファクトリーの繋がりもあることだし、オカロとオスローが心配だ。
みんなまとめて連れていくことはどうだろうか?
社員旅行だ。
研究所を荒らされないように、全ての荷物をインベントリ内に入れてダンジョンに隠す。
そしてダンジョンを締め切ってしまえば、それだけで堅牢な要塞となるのだ。
あー、ダメか。
オデッセイへと入るには許可がいるからな、間に合わないだろう。
「うーむ……」
「私の策は、初手で相手の戦力を早々に削るもの。やっておいて損はない」
「そうだな」
ギリスに長期滞在しなきゃいけない以上、逃げることは叶わない。
ロイ様の言う通り、さっさと面倒ごとを片付けるしかないのだ。
「よし、いっちょやってみっか」
82
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。