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本編

522 平穏な日々、平穏な日常、平穏な……

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 浮遊結晶の実験から、約2週間ほどの時が経った。
 その間、俺は自宅、学院、研究所へと通う日々。
 外に冒険に出かけるなんてことは全くない日常であった。

 学院へと向かい、なんか雑務や業務を行う。
 宿直がある日はそのまま学院に泊まり込み。
 なかったらライデンを連れて研究所へと向かいお手伝い。

 資材の移動とか、研究設備の移設とか。
 本格的にデカいものを作り出すには色々と準備が必要だからね。

 そして家に帰って、みんなでポチの料理を食べる。
 思えば、人数も増えたなあ……。

 俺、ポチ、ゴレオ、コレクトのいつメン。
 イグニール、ジュノー。
 マイヤー、南蛮、リクール、ピーちゃん。

 新しく世話することになったピーちゃんは、ゴレオと薬草栽培をしてもらっている。
 ハイオークは森の奥深くで、自然とともに暮らす魔物。
 浄水の池のほとりにある、太陽の樹の暖かい場所は彼のお気に入りの場所となった。

 こうしてみんなと過ごせる時に、約束していたみんなでのお出かけもこなした。
 特に語る部分とかないので、この辺は割愛。

 さて、いかにも平和な日常が続くのだが……。
 相変わらずきな臭い動きをしている輩もいた。

 こうして研究所によく顔を出すようになってからである。
 周りを嗅ぎ回る存在がチラついていた。
 恐らくC.Bファクトリーの連中だろう。

 辺境伯の力添えのもと、ちまちまとギリスの魔導機器販売の中に参入していた。
 販路があれば、オスローとオカロ、そして彼らに引き抜かれた研究者は強い。
 俺たちを脅威的だと思いつつある、そんな傾向なのかと思った。

 しかしながら、ちょろちょろ嗅ぎ回られるのは果てしなくうっとおしい。
 ただでさえ、デプリが本格的にちょっかいかけ始めてきた状況。
 誰がどの陣営にいるのか、それがはっきりしないことには始まらないと思った。

 最近どこにも行かずに家、研究所、学院を往復している所以。
 目を離して誰かが危害を加えられたってことにはしたくないからな……。

 んでもって、そう思ったが故に、実はね。
 すでに密偵役としてロイ様率いる王室諸君をギリス首都のあちこちに散らしといた。

 向こうが探りを入れてくるってんなら、逆にやり返してやれってこと。
 下水とか、川の中とか、水が存在するいたるところに潜り込んでもらっている。
 そんで、常にC.Bファクトリーとかその他怪しいやつを探ってもらっていた。

「盟主よ、定時連絡を行う」

「悪いな、使いっ走りみたいな真似引き受けてもらって」

 首都と港町の間にある森の中にて、ロイ様と話す。

「よい。主の召喚は3体までが原則」

「助かるよ」

 同時召喚3体までという制限の中で。
 強力なスライムの王種を呼び出せるロイ様はやはり有能だ。

「で、どんな感じ?」

「石造オブジェに偽装しているストーンキングからは、交代制で張り込む白衣の姿を確認している」

 第一の監視役の一つが、ドドンと研究所の前の台座に置かれた石タイプのスライムキング。
 通称石王さん。
 図鑑の中のキングさんの助言にて、大胆不敵に守り神としての役割を担ってもらっていた。

「ってことは、C.Bファクトリーの連中だな」

「いや、実は面倒なことに、白衣を着ている中に、魔力の高いものも混じっていた」

「マジか」

 高レベルになると、それだけMPの保有量も増えていく。
 故に、それを感じ取れる個体は、相手の強さをある程度推測できるらしい。

 ステータスの成長度合いには個人差がある。
 しかし、レベルが上がればある程度のラインは超えるのだ。

 ロイ様の報告は、そんな高レベルに至るほどの存在がいたことを表している。

「ってことは、この状況に便乗して監視してるってことだな……」

「その通り。確実に盟主とつながりのある人物の顔は知られているだろう」

「うわぁ……面倒なことになったなあ……」

 俺が能力を隠して、あんまり深い関わりになりたくないと思っていた理由。
 それが、こうした状況に巻き込んでしまうってことだった。

 一人で背負い込むのも間違いだったと気づいて、こうして徐々に色々な人を受け入れ始めたというのに。
 このタイミングで暗殺者がちょっかいを出してきて、周りを嗅ぎ回る連中が増えてきた。

 これはいったい何の因果応報なんだろうな?
 俺が何事もにケジメをつけずに、ただ逃げて逃げてを繰り返した応報か?

 うーん、逃げてきたことは否定できない。
 でも、だったらどうすりゃええねんって話だよなあ……。

「ここは一つ、早期決着案を私は提案しよう」

「早期決着案?」

「嗅ぎ回る奴らを全て根こそぎ始末、もしくは殺さないまでも監禁していく」

「……物騒なアイデア過ぎるだろ!」

「まあ最後まで聞け」

 他にも言いたげなので、とりあえず最後まで聞くことにした。
 実行に移すか移さないかはさておいて、な。

「王室諸君が誰にも気付かれない様に相手の潜伏先を特定し闇討ち。そうすることで、相手はすぐに新たな人員をこちらに送るはずだ。定時連絡がないこと、それは任務に失敗したことを指すからな」

 無沙汰は無事の便りと言うが、闇社会では無沙汰は死んだ証拠みたいなもんだよね。

「馬鹿ではない限り、すでにこちらが何らかの対策を講じていると気がつく。その場合、取れる手立てはより強い存在を送り込み継続するか、強硬策へと転じると私は読んでいる」

「なるほど、相手をさっさと削り散らかす案ってことね?」

「その通り。盟主はそう言うの得意だろう?」

「いやでも……ダンジョン相手なら得意だけど、人とかになるとまた話は別というか何というか……」

「まあ、今更その腑抜けた根性を叩き直すつもりもない。とにかく、私が言っていることの本筋は、大変なことが早く来るか普通に来るか、それだけだ」

「遅く来るとかはないんだ……?」

「逆に後々に来るものが一番面倒くさい可能性を秘めているぞ。それだけ相手が準備を整え、絶対に揺るぎない勝てる手法を実行に移す段階へと相成ったという意味を指し示すだろう」

「確かに」

 面倒ごとを後回しにして、大ごとにならなかったことなんて歴史上あまり存在しないかもしれない。
 大ごとにならなかったものは、そもそもが大ごとではなかったと言うことなのだ。

「転じて攻勢に出ることこそ、私個人としては一番被害が少ないのではないだろうか、と思っている」

「……うん」

 ロイ様の言う通り。
 あと1週間ほどしたら、学院の行事ごとでリゾートアイランド・オデッセイへと引率しなきゃならん。
 その時、ギリスから離れたトガル方面に俺は居て、何かがあった時の対処が遅れてしまう。

 生徒であるライデン、マイヤー。
 そして一緒について来るイグニールやジュノーは心配いらないと思うのだが……。
 教団とC.Bファクトリーの繋がりもあることだし、オカロとオスローが心配だ。

 みんなまとめて連れていくことはどうだろうか?
 社員旅行だ。
 研究所を荒らされないように、全ての荷物をインベントリ内に入れてダンジョンに隠す。
 そしてダンジョンを締め切ってしまえば、それだけで堅牢な要塞となるのだ。

 あー、ダメか。
 オデッセイへと入るには許可がいるからな、間に合わないだろう。

「うーむ……」

「私の策は、初手で相手の戦力を早々に削るもの。やっておいて損はない」

「そうだな」

 ギリスに長期滞在しなきゃいけない以上、逃げることは叶わない。
 ロイ様の言う通り、さっさと面倒ごとを片付けるしかないのだ。

「よし、いっちょやってみっか」
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