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本編
526 第三勢力の正体を知る
しおりを挟むドシンと、チビの巨体が目の前に着地し、少し地面が揺れた気がした。
ウィンストは、チビの頭から気を失った女を抱えて俺の前に飛び降りる。
チビはすぐにポンッと子竜状態に戻ってウィンストの頭の上に乗った。
「ウィンスト、今までどこで何やってたんだ?」
「少しばかりトガルの様子を見に戻っていた」
「なるほど」
俺と交わした約束をしっかり守ってくれていたようである。
だったら、何でこんなところに戻ってきたというのだろうか。
つーか、お前が抱えている女はいったい誰なんだ。
状況に色々と疑問があるのだが。
それを尋ねる前に、ウィンストが先に話す。
「私がギリスへ戻ってきた理由は、伝えるべきことがあったからだ」
「伝えるべきこと?」
「トガルへ戻る途中、海で軍勢を結集させる海賊達を見た」
その時、ウィンストはチビとともに攻撃を仕掛けたらしい。
賊はこの場で海の藻屑にしておいた方が面倒が少ないと。
哀れ海賊達。
海の密会を小さな賢者と使役するガイアドラゴンに見つかるとは……。
「何のために集まっていると尋問を行なった結果……」
「結果?」
「エルカリノという海賊にトウジが狙われていることが判明した」
「えー……」
エルカリノと言えば、ギリスに初めて渡る時に激突した海賊達だ。
あの時はワシタカくんのデビュー戦。
俺もポチやゴレオとともに必死こいて戦って、実は初めて直接的に人を殺めた日でもある。
結局、嵐の渦中にいる海地獄のおかげで、戦いはうやむやに終わった。
ケリをつけていなかったばっかりに、今になって来たというのか……。
「はあ、何で今頃になって……」
首都に潜んでいる盗賊みたいな奴らからも嗅ぎ回られているというのに。
陸地の対応に追われて、海にまでは気が回らんのだが?
ため息をついていると、ウィンストは説明を続ける。
「私が知り得た情報だと、怨嗟の鎖と戦った時に殺した盗賊たちがいただろう?」
「ああ、グレイトなんちゃらさんだっけか?」
結局、怨嗟の鎖が強烈すぎて、盗賊達は出落ち以下の存在だった。
グレイト天パーとか、そんな感じだったけなあ……忘れた。
「それがどうしたんだよ」
「エルカリノとそのグレイトなんちゃらは繋がりの深い人物だったらしい」
「……ってことは」
「お礼参りだな。グレイトなんたらの残党、傘下、それにプラスして海賊が来るかもしれんぞ」
「ああー……」
デプリやC.Bファクトリー以外の連中が嗅ぎ回っていた理由。
そこで繋がった。
俺が、どこに潜んでいて、誰と繋がりがあるのか。
やってることはデプリたちを変わらんな。
まったく、はた迷惑過ぎる状況になって来たなあ!
あっちもこっちも、首都中敵だらけやんけ。
俺一人に対して、いろんな奴らがタイミング良く来てしまっている。
ぐぬぬ。
いったい俺が何をしたってんだ!
「なら、お前が抱えてる女はその海賊の一人ってこと?」
その話の中で、何となく抱えられている女の話を移す。
すると、ウィンストは首を横に振った。
「いや違う、こいつはここに来る途中なんだか怪しそうな雰囲気だったから捕まえただけだ」
彼の言葉を聞いて、スライムキングが一歩前に出て告げる。
『盟主、王室の主、こいつが逃げ出した女である』
「ってことは、先回りするまでもなく逃げ出した女を確保できてたってことか」
相手もタイミングが神がかっているが、こっちもタイミングばっちりだな。
互いに譲らないタイミング合戦のようなものが繰り広げられている、水面下で。
一応、集まっていたであろうエルカリノの一部はウィンストが始末していた。
相手も何か情報を握っているが、俺もとっ捕まえた敵から情報を吐かせれば一泡吹かせることができそうである。
「やはりこの女は怪しいやつだったか、処分しておくか?」
「いや、重要な情報提供者ってことにして、うちで手厚く接待させてもらうよ」
「了解した。敵を接待するとは、つくづく優しいやつだな、トウジは」
ウィンストはそう言うが、別に接待は良いことばかりではない。
有り余る食材を用いて永遠にダンジョン内部に拘束する牢獄。
密偵ゆえに、捕まった時のことを想定して鍛えているかもしれないが……。
娯楽も何もない場所でずっと過ごすのは苦痛である。
知能が大きく発展した人間には、そういった精神的な苦痛が一番効くんだ。
ゆえに、俺の提案は実はまさに外道レベルなのである。
「さて、約束したトガルの安全も確認し終えたから、今の私は自由に動けるぞ」
「そうなの?」
「うむ、何やらトウジも大変な様子だからな、ぜひ私の力を使ってくれ」
小賢とガイアドラゴンが戦力に加わるのならば、百人力だな。
ワシタカくんを出さずとも、制空権は俺にあると言ってもいい。
「ありがとうウィンスト。ちょうど手伝って欲しいことがあったんだ」
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