装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

527 敵は勇者ではなく、その周りだ

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 そんなこんなで……。
 収容された奴らを見せながらウィンストに状況を説明することになった。
 チビを頭に乗せ、A収容所に放り込まれた暗殺者たちを見ながら彼は言う。

「ダンジョンを用いた絶対に逃れられない監獄とは……さすがだなトウジ」

「別にこいつらには罪なんてないから、監獄じゃなくて収容所だよ」

 その辺の体裁は崩さない。
 襲って来るから、一旦こちらで拘束し、後で引き渡すための場所なのだ。

「で、こいつらをいったいどうするつもりなのか?」

「それもさっき説明した通り」

 C.Bファクトリー研究者は籠絡、紛れていた雇われ暗殺者はぶっころ。
 デプリの暗殺者はまとめで本国へと強制送還、メッセージ付き。
 そのメッセージと輸送に、一つ手を貸していただくことこそ、俺の頼みごと。

「俺もお前も、散々迷惑をかけられたんだ……」

 だから、一つ見せつけてやろうじゃん。
 意趣返しってやつだ。

「それだと大きな禍根を残すことになりかねないと思うが?」

 ウィンストは続ける。

「私は怨嗟のしがらみからトウジに救ってもらった」

 だからこそ、それを繰り返すべきではないとのことだった。
 盗賊を壊滅させるのと、国を相手にするのでは大きく違う。
 向こうには勇者という手札が存在する時点で……だ。

「たとえ国の傀儡とは言え、相手は勇者……勇者なんだ」

 一度勇者と戦ったことのあるウィンストはその力を知っている。
 こと戦闘にかけては、名ばかり勇者ではないということなのだ。
 故に。

「動き出す切っ掛けを直接作ってしまうことは、避けた方が良い」

「それはわかってるよ」

 彼の言葉は一理も二理もあった。
 断崖凍土へ勇者が来た時に、俺もかなり警戒していたことである。
 いかにして彼らのガス抜きをするか、そこだけに力を注いでいた。
 しかし、いかようにも逃れられない状況っていうのもあるだろう。

 巻き込まれてしまった、という形であれども。
 一緒にこの世界に召喚された。

「この事実と因果はもうどうにもなんねーんだよ」

「む……」

「今まで散々逃げてきた、避けてきた、でも結局これだろうに」

 すごく感覚的な話ではあると思うんだけど。
 もはや、虫の知らせにも近いことなんだけど。

 何となく。
 逃れ切れることではないんじゃないかと思う。

 どっかで絶対ぶつかって、どっちかが死ぬ。
 その時は、多分勇者が勝つ。
 根拠はないけど、勇者なんだから俺が死ぬ。

「だから勇者じゃない奴が突っかかって来てる今が良いんだ」

 ロイ様も言ってだろう。
 面倒ごとは先にやっておけって。

 もっとも。
 現状は、すでに後回しにしたツケが回って来てるんだけどな。
 トホホ……。

「俺の世界には、窮鼠猫を噛む、という言葉がある」

「む? 確か追い詰められたネズミが一矢報いる感じの言葉だな?」

「そうそう」

 まさに何のスキルも持たない一般人は、勇者から見たらネズミだ。
 ネズミの一撃をとくと味わっていただこうではないか。

「勇者に勝てる算段があるのか……?」

「いや、勇者に勝てる算段なんてある訳ないだろ」

「負け戦に敢えて挑むのを、見過ごせというのか!」

「違う違う、話を聞け」

 勇者を敵だと認定するから、話がややこしくなるんだ。
 俺の戦う相手は、勇者を傀儡とするデプリと教団。

「つまり、勇者とは戦わないってこと」

「……なに? 戦わない、だと?」

「今回、デプリの暗殺者を強制送還する理由は、戦わずして心に楔を打ち込む手段だ」

「……つまり?」

「暗殺者なんか仕向けてくるあいつらが悪い奴だと仕立て上げる」

 勇者が勇者として存在しているならば、やるべきことは潔白の証明。
 そして真に悪い奴はあいつだぞ、と告げ口してやるに限る。

「なるほど! 味方に引き入れようということか!」

「いや、味方に引き入れる訳じゃない、敵にしないだけ」

 あんなハーレム野郎を俺の周りに近づかせるわけにはいかない。
 イグニールとかマイヤーがたぶらかされたらどうするんだ。
 いや、俺も対抗してハーレムを作っているとかそんな話ではない。
 彼女たちがあいつになびいて俺の居場所がなくなったら辛いだろ!

 そうなったら全てを放り捨てて怨嗟の鎖さんと契約します。
 もう、魔王にでも何でもなってやります。
 そうならないためにも、できる限り遠ざけましょうねってこと。

「あと、何でも良いから疑惑の目を自分らに向けさせると時間稼ぎになる」

 暗殺者強制送還、そしてお涙頂戴メッセージ作戦。
 これは向こうの自浄作用を促すために編み出した作戦なのだ。

「……うーむ、上手く行くのだろうか?」

「それは俺もわからんけど、これしか方法ないからね」

 上手くいかなかったら、その時はその時でまた考える。
 ダンジョンを閉ざして篭るもよし。
 もしくは、目立ちに目立ちまくって手出しできない様な立場になる。
 そのためにも、根回しは重要だ。
 デプリ以外の密偵たちは、そのための連絡係として利用する。

「トウジの作戦が成功すれば、世の中が大きく動くだろうな」

「なんか失敗した時は、全部ウィンストがやったことにして良い?」

「……私か……しかし、恩人で親友からの頼みごととなれば……」

 冗談で言ったんだけど、割と間に受けるウィンスト。
 さすがに全部なすりつけるのは俺もゲスが過ぎる。
 ここは一緒にデプリに行きましたっていう共犯となってもらうんだ。

 え? つくづくセコいって?
 何とでも言え!
 俺だって人間だ、仕方ないって、うん。

「盟主よ」

 覚悟を決めた目つきになるウィンストの隣で、後ろに控えていたロイ様が口を開く。

「ウィンストが捕まえた謎の女が目覚めた様だ」

「おっ、ちょうど良いな、いっちょ話を聞きに行こうか」

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