227 / 650
本編
528 どこの誰ですか?
しおりを挟む割と広めの部屋や、ジュノーこだわりの調度品を設置した特別収容所の一部屋にて。
ロイ様の召喚したキングスの一体を単独で倒せる腕を持つ女の前に俺は座っていた。
「……えーと、どうもトウジです。初めまして」
「くっ、殺せ」
言いなり殺せと言い出すこのくっころ女はアイシャ。
紫色の髪の毛を後ろで一つに束ね、両ほほと鼻にかけてそばかすが印象的。
レベルは82となかなかの高レベル。
冒険者のランク帯で行くとソロAランクの壁は破っていた。
思えば……最初の暗殺者が一番強かったのではないだろうか?
王室諸君にボコボコにされてしまった哀れな暗殺者。
俺は魔法によって突き飛ばされたと思っていたのだけど。
レベルから察するに、普通に初手で殺しに来ていた可能性がある。
装備のVITがっつり強化しておいてよかった。
もし攻撃が貫通していたら、心臓を貫かれていただろう。
「アイシャさん、レベル82」
「くっ、鑑定持ちか! 殺せ!」
……また強烈なキャラクターだ。
とにかく、くっ殺せの流れはさておいて尋ねる。
「い、いったいどんな要件で俺のことを嗅ぎ回っていたのかな?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「知っていることを教えていただければ、解放しますよ?」
「問いただしたら私を嬲り殺すのか? 蛮族め!」
話聞いてないや……。
どうするのこれ。
「いや嬲らないし、殺しもしないけど、話してくれなかったら」
「知っているぞ!」
アイシャはソファーに座って自分の体を抱きしめながら叫ぶ。
「汚いおっさんの様な魔物から排泄されたドロドロの液体まみれにするのだろう!? そのあとは、ロック鳥を用いて強制的に恐怖を促し、さらには私の排泄まで促し、辱めようというのだろう!?」
「いや、あの……その……」
言い方ってもんがあるだろ。
確かにあってるけど、違うだろ。
水島が図鑑の中で泣いてるよ。
それにワシタカくんの大空詰問で排泄は促さない。
お前の膀胱が弱いだけだろうに……。
「王室の者は、この様なふざけた女にやられたというのか……」
俺の後ろに控えていたロイ様が、呆れた表情をしていた。
「そ、そこのスライムキングもそうだろう! 私の服だけを消化し、慰み者にする気か!?」
「……黙れ殺すぞクソアマ」
ロイ様、キングさんうつってる!
抑えて、抑えて!
額に青筋みたいな何かを浮かべながらも、ロイ様は咳払いを一つして言う。
「お前みたいな下品な女は好かんし興味もない」
「げ、下品だと!?」
「下品すぎてヘドが出る。私の高貴かつ上品かつ清楚な妻を見習えクソ」
「な、ななな! 下品なのは雄3人で私を囲う貴様たちだろう! 男二人に女が挟まれで嬲ると読むのに、3人も雄がいたら私はどうなってしまうんだー!?」
ちなみに、漢字の話ではなく。
この世界の文字でも嬲るというワードは男二つの間に女が挟まっているそうだ。
しらんがな。
「トウジ、一ついいか?」
「なに?」
後ろで俺たちの様子をウィンストが言う。
「私の好みは人間ではないから、この女の言うことは間違っている、と言いたいのだが?」
「……後にしろよ」
ウィンストの好みとか知らん。
どうだっていい。
メスのゴブリンがいたとして、紹介しろと言われても俺には無理だぞ。
「話が脱線し過ぎだ。とりあえず話を戻すぞ」
くそ、なんだこの女は。
適当な暗殺者はすぐに依頼されただのなんだの、情報を吐くと言うのに。
ここまで話題を逸らされたのは初めてだった。
……これが、プロか!
こいつを密偵として送ってきた親玉もなかなかできる。
「アイシャさんは、どこの誰が差し向けた密偵ですか? 教えてください」
「それを教えるくらいなら、無理やり弄ばれたりした方がマシだ!」
「俺、合意の上じゃないと無理なんで。で、どこの誰ですか?」
「む、無理やり合意を迫ると言うのか!? なかなか知恵の回るやつだ!!」
「……で、どこの誰ですか?」
「しかし私は合意しないぞ! 無理やりが良いじゃないか! こい!」
「どこの誰ですか?」
「ぐっ、それを言うくらいならば、今すぐにでも私を嬲り殺せ!」
「どこの誰ですか?」
「くっ、だから言わないと言っているだろ! さあ早く殺せ!」
「どこの誰ですか?」
「くぅっ、この、同じことしか喋れないのか!?」
「どこの誰ですか?」
うむ、こう言った話が通じないタイプにはこの手段が一番だな。
伝える、という一つの確固たる意思を持ってして言い続ける。
しつこさの域で行ったら、俺に敵う奴なんていないぞ?
「どこの誰ですか?」
「せ、洗脳か!? くっ、私から弄ばれる様に仕向ける気だな!?」
「どこの誰ですか?」
「くっ、ううっ、そ、そんな、この私が……!」
効いてる効いてる。
わけのわからない状況には、もっとわけのわからない状況を重ねる然り。
パニックになった時、隣にもっとやばいパニックを起こした奴がいた時然り。
より上位存在がいると、ふと我に帰ってしまう心理を上手く利用するのだ。
「どこの誰ですか?」
「く」
「どこの誰ですか?」
「ま、待て! ちゃんと話し合おう! そろそろ怖い!」
「どこの誰ですか?」
「おい、ちょっと! それしか言えないのか!?」
「どこの誰ですか?」
「ねえ! ちょっとこの人おかしい! おかしいぞ!」
「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「──うわああああああああああああああっっ!」
耳を塞いでソファの上で蹲ってしまったアイシャ。
ビクンビクンと痙攣しながら、ほのかに湿っている。
よし、話し合いは俺の勝利だ、完勝だ。
「……恐ろしい男だな、盟主は」
「う、うむ……言葉一つで精神を壊してしまうとは……さすがだトウジ」
「いや、勝手に壊れただけだから」
つーか、この戦法を取らなければそもそも話にならなかった。
この際、もう洗脳でもなんでも良い。
自白に持っていければ、それだけで万々歳なのだ。
「うぅ……」
勝手に錯乱したアイシャが頭を抱えて起きる。
「大丈夫か? とりあえず話を進めよう」
「は、話……?」
「うん、もうこんな目に遭いたくなかったらしっかり話してね?」
もう一度話を逸らそうとしたら、次は他の賊と同様で処分。
こいつには懸賞金もかかってないみたいだからね。
「わ、私は……いったい誰なんだろう……? だ、誰だ私は?」
「はあ?」
88
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。