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本編
528 どこの誰ですか?
割と広めの部屋や、ジュノーこだわりの調度品を設置した特別収容所の一部屋にて。
ロイ様の召喚したキングスの一体を単独で倒せる腕を持つ女の前に俺は座っていた。
「……えーと、どうもトウジです。初めまして」
「くっ、殺せ」
言いなり殺せと言い出すこのくっころ女はアイシャ。
紫色の髪の毛を後ろで一つに束ね、両ほほと鼻にかけてそばかすが印象的。
レベルは82となかなかの高レベル。
冒険者のランク帯で行くとソロAランクの壁は破っていた。
思えば……最初の暗殺者が一番強かったのではないだろうか?
王室諸君にボコボコにされてしまった哀れな暗殺者。
俺は魔法によって突き飛ばされたと思っていたのだけど。
レベルから察するに、普通に初手で殺しに来ていた可能性がある。
装備のVITがっつり強化しておいてよかった。
もし攻撃が貫通していたら、心臓を貫かれていただろう。
「アイシャさん、レベル82」
「くっ、鑑定持ちか! 殺せ!」
……また強烈なキャラクターだ。
とにかく、くっ殺せの流れはさておいて尋ねる。
「い、いったいどんな要件で俺のことを嗅ぎ回っていたのかな?」
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「知っていることを教えていただければ、解放しますよ?」
「問いただしたら私を嬲り殺すのか? 蛮族め!」
話聞いてないや……。
どうするのこれ。
「いや嬲らないし、殺しもしないけど、話してくれなかったら」
「知っているぞ!」
アイシャはソファーに座って自分の体を抱きしめながら叫ぶ。
「汚いおっさんの様な魔物から排泄されたドロドロの液体まみれにするのだろう!? そのあとは、ロック鳥を用いて強制的に恐怖を促し、さらには私の排泄まで促し、辱めようというのだろう!?」
「いや、あの……その……」
言い方ってもんがあるだろ。
確かにあってるけど、違うだろ。
水島が図鑑の中で泣いてるよ。
それにワシタカくんの大空詰問で排泄は促さない。
お前の膀胱が弱いだけだろうに……。
「王室の者は、この様なふざけた女にやられたというのか……」
俺の後ろに控えていたロイ様が、呆れた表情をしていた。
「そ、そこのスライムキングもそうだろう! 私の服だけを消化し、慰み者にする気か!?」
「……黙れ殺すぞクソアマ」
ロイ様、キングさんうつってる!
抑えて、抑えて!
額に青筋みたいな何かを浮かべながらも、ロイ様は咳払いを一つして言う。
「お前みたいな下品な女は好かんし興味もない」
「げ、下品だと!?」
「下品すぎてヘドが出る。私の高貴かつ上品かつ清楚な妻を見習えクソ」
「な、ななな! 下品なのは雄3人で私を囲う貴様たちだろう! 男二人に女が挟まれで嬲ると読むのに、3人も雄がいたら私はどうなってしまうんだー!?」
ちなみに、漢字の話ではなく。
この世界の文字でも嬲るというワードは男二つの間に女が挟まっているそうだ。
しらんがな。
「トウジ、一ついいか?」
「なに?」
後ろで俺たちの様子をウィンストが言う。
「私の好みは人間ではないから、この女の言うことは間違っている、と言いたいのだが?」
「……後にしろよ」
ウィンストの好みとか知らん。
どうだっていい。
メスのゴブリンがいたとして、紹介しろと言われても俺には無理だぞ。
「話が脱線し過ぎだ。とりあえず話を戻すぞ」
くそ、なんだこの女は。
適当な暗殺者はすぐに依頼されただのなんだの、情報を吐くと言うのに。
ここまで話題を逸らされたのは初めてだった。
……これが、プロか!
こいつを密偵として送ってきた親玉もなかなかできる。
「アイシャさんは、どこの誰が差し向けた密偵ですか? 教えてください」
「それを教えるくらいなら、無理やり弄ばれたりした方がマシだ!」
「俺、合意の上じゃないと無理なんで。で、どこの誰ですか?」
「む、無理やり合意を迫ると言うのか!? なかなか知恵の回るやつだ!!」
「……で、どこの誰ですか?」
「しかし私は合意しないぞ! 無理やりが良いじゃないか! こい!」
「どこの誰ですか?」
「ぐっ、それを言うくらいならば、今すぐにでも私を嬲り殺せ!」
「どこの誰ですか?」
「くっ、だから言わないと言っているだろ! さあ早く殺せ!」
「どこの誰ですか?」
「くぅっ、この、同じことしか喋れないのか!?」
「どこの誰ですか?」
うむ、こう言った話が通じないタイプにはこの手段が一番だな。
伝える、という一つの確固たる意思を持ってして言い続ける。
しつこさの域で行ったら、俺に敵う奴なんていないぞ?
「どこの誰ですか?」
「せ、洗脳か!? くっ、私から弄ばれる様に仕向ける気だな!?」
「どこの誰ですか?」
「くっ、ううっ、そ、そんな、この私が……!」
効いてる効いてる。
わけのわからない状況には、もっとわけのわからない状況を重ねる然り。
パニックになった時、隣にもっとやばいパニックを起こした奴がいた時然り。
より上位存在がいると、ふと我に帰ってしまう心理を上手く利用するのだ。
「どこの誰ですか?」
「く」
「どこの誰ですか?」
「ま、待て! ちゃんと話し合おう! そろそろ怖い!」
「どこの誰ですか?」
「おい、ちょっと! それしか言えないのか!?」
「どこの誰ですか?」
「ねえ! ちょっとこの人おかしい! おかしいぞ!」
「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「どこの誰ですか?」「どこの誰ですか?」
「──うわああああああああああああああっっ!」
耳を塞いでソファの上で蹲ってしまったアイシャ。
ビクンビクンと痙攣しながら、ほのかに湿っている。
よし、話し合いは俺の勝利だ、完勝だ。
「……恐ろしい男だな、盟主は」
「う、うむ……言葉一つで精神を壊してしまうとは……さすがだトウジ」
「いや、勝手に壊れただけだから」
つーか、この戦法を取らなければそもそも話にならなかった。
この際、もう洗脳でもなんでも良い。
自白に持っていければ、それだけで万々歳なのだ。
「うぅ……」
勝手に錯乱したアイシャが頭を抱えて起きる。
「大丈夫か? とりあえず話を進めよう」
「は、話……?」
「うん、もうこんな目に遭いたくなかったらしっかり話してね?」
もう一度話を逸らそうとしたら、次は他の賊と同様で処分。
こいつには懸賞金もかかってないみたいだからね。
「わ、私は……いったい誰なんだろう……? だ、誰だ私は?」
「はあ?」
感想 9,840
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