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本編
531 出発当日
しおりを挟む「リクール、南蛮とパインさんとピーちゃんを頼んだぞ」
「お任せください、このリクールの名にかけて、必ずこの部屋を防衛させていただきます」
すっかりアルバート商会の執事面が板についたリクールはぺこりと頭を下げた。
俺たちがいない間、ピーちゃんとパインのおっさんの命はリクールが守る。
杖を持たず力を抑えていたとは言え、イグニールの火を防いだ彼の強さはかなりのもんだ。
かなりの戦力をこのダンジョン部屋に置いてあるから、心配はいらないだろう。
「ピーちゃんもお利口さんにしてるんだぞ?」
「ぶぴっ」
食事中のポチ専用となっていた子供用椅子に座りながら手をあげるピーちゃん。
あー、なんかスレてない頃のポチを思い出して懐かしかった。
ゲテモノ料理をこそこそ作る前のポチって感じがする。
サルトについた頃は、健気でポチは可愛かったなあ、今も可愛いけど。
「アォン!」
俺の心の中を読み取ったようにふくらはぎに連続ダメージ。
まったくそういうところだぞ。
だが、万が一にも俺が前の世界に戻るようなことがあれば。
何らかの方法にて図鑑のメンツをこっちの世界に残さなきゃいけない。
この俺の持つスキル以外の能力が消えてしまう。
そんなことだって……あるかもしれないからだ。
「パインさんも、無理を言ってしまって申し訳ないです」
「いやいや、良いってこった」
料理器具が勝手に料理してくれる謎のスキルがあれば、問題ないそうだ。
ちなみに、そのスキルについては聞いても教えてくれない。
ポチに聞いても、その辺の深い事情までは知らないそうだった。
秘密は誰にだってあるから、パインさんはそういうもんだと思っておこう。
「それにしてもトウジ」
「はい?」
「まさかハイオークの子供まで家に連れ帰ってるとは、正直驚いたぞ」
「パインさんはハイオークを知ってるんですか?」
「おう、昔会ったことあるぜ。エルフと一緒に暮らしてた」
「おお!」
エルフか、エルフか!
正直ハイオークよりもエルフの方が気になった。
「毎日毎日飽きることもなくサラダばっかり食ってたぜ」
「菜食主義なんですかね?」
「うーん、一部過激な連中もいたが、別にそうじゃなかったな」
単純に好きなだけらしい。
そこでサラダを美味しく食べるハイオークに伝わるドレッシングを教わったそうだ。
パインさんらしいな。
ドレッシングのためだけにどこぞもわからない森の奥に行くなんて。
「相変わらず、色んなところに行ってますね」
「それこそ放浪料理人の宿命ってもんだぜ!」
「そうだパインさん。いつかピーちゃんを親元に返しに行くつもりなんですけど……帰ってきたらそのハイオークとエルフの話を詳しく聞かせてもらっても良いですか?」
「おう、まかせろ。まあだいぶ前の話だが、俺の知ってることならなんだって教えてやるよ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、パインさんは今度はポチの方を向き直った。
「あとポチ公にも一つ言っておくが」
「ォン?」
「トウジから聞いたぜ? 密かに虫を食材に使った料理を考案してるそうじゃないか?」
「アォン」
「そうか、俺の知らない料理を作ろうって毎日コツコツ頑張ってんだな?」
パインさんは優しい表情をしながらポチの頭を撫でる。
そして言葉を続けた。
「だが、あんまり人が好まない料理を作ってこっそり食わせるのはいけないことだぜ?」
「クゥン……」
いきなりそう言われてちょっと俯くポチ。
実は、あんまり食べたくないものをこっそり料理に混ぜるのをやめさせるべく。
パインさんに相談していたのであった。
「味見は俺がやってやるから、考案したらまず店にもってこい。今は平和で食材も豊富な時代だ。まだ見ぬ食材を使うのも良いがな、それよりも他の物がどんどん発展してくるんじゃないかって、俺は思うんだ」
「ォン?」
「それは何かって? それを教えちゃ、ポチのためにならないだろ? もうお前は弟子として独り立ちした性分なんだから、自分でしっかり考えて自分のものを培って行け」
「アォン……」
「だがヒントをあげるとしたら、今俺が料理の提供形態に拘っているように、十人十色ある一人一人の味覚、地域の味覚、様々な場所で育った所在の味。今ある料理や食材を掛け合わせて新しいものに発展させて行くのが、これからってもんだ。見つけ出す、探すんじゃなくて発展させる。ポチはそこを強く意識してやってみろ」
「ォン……」
「ポチなら必ずできるからな! ハハハッ! しかし、行ってることがまた逆になってくるが、面白食材はきっとまだまだ世の中にあるはずだから、その辺の嗅覚もしっかり研ぎ澄ませておけよ!」
「ォン!」
弟子と師匠の貴重なやりとりだった。
俺もライデンの扱いには、この辺のパインさんの懐の広さを真似ていたりする。
やっぱりすげーよ、この人は。
「そうだトウジ、話まだあったわ」
「はいはい」
「一つ頼みごとなんだけど、極彩諸島近海でたまに取れる極彩マンボウってのをもし見かけたら買ってきて欲しい」
「了解です。見かけたらになりますけど良いですかね?」
「良いぜ良いぜ、すぐ腐るらしいが、トウジのアイテムボックスだったら心配いらないだろうしな!」
極彩マンボウか。
地味にマンボウって食べたことないから、気になるところである。
確か、日本でもアカマンボウがマグロの代用品として有名だった。
極彩マンボウもそんな感じの味なのかね?
もっとも、アカマンボウとマンボウは違うらしいけど。
「トウジー、そろそろ時間やで! みんなはよ準備しいや!」
「トウジ、時間も近いからそろそろ行きましょ?」
「うん」
マイヤーとイグニールからそう言われたので、挨拶もそこそこにみんなで学院に向かうこととしよう。
まず馬車でギリスの港町へと向かい、そこから専用の旅客船にてオデッセイへ。
港町に直で集合だったらよかったんだけど、学院の旅程に合わせないといけないからな……。
「じゃ、行って来ます」
「無事でやれよー、こっちは俺たちに任せとけ!」
みんなを代表して見送りの言葉を送るパインさん。
何もないと良いんだが、基本的には何かあると見ていいはずだ。
あれから収容所の全員を対象に情報収拾をしたんだが……。
女の大海賊と言われる存在。
そいつがアジトにしていると言われるのが、オデッセイ島。
俺たちがこれから行くダンジョンリゾートなのだ。
色々と思うところはある。
なぜ海賊がリゾート経営っぽいことをしているのか。
完全に敵対しているエルカリノとは別の海賊。
果たして、敵か味方か。
こればっかりは行ってみないと、わからないよな?
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