文字の大きさ
大
中
小
231 / 650
本編
532 船旅・1
学院の馬車に乗り、俺たちは一度ギリスの港町へ。
そこから旅客船へと乗り換え、海の上を二日かけてダンジョンリゾートに向かう。
その船の上にて。
「トウジさん、見てください! 海です、潮風がすごいです!」
「潮風すごいっすね」
麦わら帽子に厚手のカーディガンを身につけたエリナが俺の袖を引っ張りながら海を指差す。
生まれて初めての旅行、さらに豪華な旅客船ともなればテンション上がりっぱなしのようだ。
「見てください! カモメも飛んでいますよ!」
「カモメ飛んでますね」
水鳥なんか、ギリス首都にあるデカい川にもいると思うんだけどなあ……。
俺のサポートとしてついてきたエリナは、仕事も忘れて絶賛カモメに餌やり中。
まあ、楽しそうだから良いんだけどね。
向こうのギルドに着くまで、特に仕事らしい仕事もないそうだし。
「トウジさん、ちゃんと担当のグループは監督していますか!?」
今度は逆サイドの袖が引っ張られた、アシュレイだ。
「してますよ」
点呼も終わって自由時間。
生徒たちはみんなおもいおもいの時を過ごしている。
そんな状況で監督も何も無いと思った。
「ぼーっと海を見てないで、こういう時こそ生徒と思い出作りをする時です!」
「確かにそうっすね」
この旅行が終われば、晴れて学院での依頼も終わりとなる。
1ヶ月近く関わった生徒たちと絡んでおくのも必要だと思った。
「それにしても、もう1ヶ月経ったんですね」
「トウジさん、すっかり人気先生になってしまわれて、なんだか寂しいです」
「いやいや、人気ってそんな」
人気先生か……。
確かに一人でお話し授業するようになってからは、そこそこ聞きに来る人がいた。
今までどんな依頼をしたか、どんな大変な目にあったか、どんな魔物と戦ったか。
俺が異世界に来てから、今までのことを半分話すような、そんな授業でもある。
なんだろう、何を話したっけな……。
基本的には、美味い飯があったらどこでだって生きていけるとか。
そして周りに気を使って、丁寧に対応すれば評価は上がるとか。
全てのことに通じて、学生生活も同じようなことを言えるとか。
そんなところだな。
自由感の強い職業にも思えるが、それは全てが自己責任であるってことだ。
責任を学校や親がとってくれる立場にある生徒は、まだマシだって豪語した記憶がある。
俺だって学生の頃に戻れるなら戻りたいし、やり直せるならやり直したいと思う。
まあ、今だって人生を一度やり直しているようなもんだから、そりゃ贅沢な話か。
「俺みたいなやつの言葉でも、反面教師みたいに心に留めていてもらえればありがたいですね」
「何を言ってるんですか、みんな分かってくれたと思いますよ?
「だったら良いんですけどね」
「次から冒険者のための授業も取り入れられると思いますし、トウジさんのおかげで学科別にある隔たりとか差別意識のようなものが少し薄れるはずです」
ってことは、ギルドの依頼通りにワンクッション挟むことができたってことだな。
まあ、2000万分の働きはできたんじゃないですかね、これで。
明らかに貰いすぎ案件だから、正直もっと仕事を振られても良かったかもしれないけど。
「あー! アッちゃん先生ここにいた!」
海を眺めながらそんな話をしていると、アシュレイを呼ぶ生徒の声がした。
「もー、トウジ先生がいる時っていっつもアッちゃん先生そばにいるよね!」
「な、ななな! 何を言ってるんですか! そんなことありません!」
「そんなことあるよ、ひょっとしてアッちゃん先生って、トウジ先生のこと狙ってる?」
『キャー!』
アシュレイを囲みながらきゃーと沸き立つ女子生徒たち。
この世界でも、女子生徒の話のタネは恋愛話なのだろう。
「も、もう! ほらみんなで遊技場に行きますよー! 楽しくカードゲームでもして遊びましょう!」
「負けた人が好きな人言う罰ゲーム付きね!」
「賭け事とか、罰ゲームとか、そう言うのは禁止です! 禁止!」
俺は顔を真っ赤にしながら生徒たちを船内に向かうアシュレイを見送った。
そんな俺たちの様子を見ながらエリナが言う。
「トウジさん、モテモテですね」
「エリナさんほどじゃないですよ、ギフとか」
「うう、私はなぜだかそういう輩からしか声がかからないんですよ……」
「そ、そっすか……」
そういう星の元なんじゃないかな?
可能性としては、そういう輩が他のやつを邪魔してるかもしれないけどね。
取り巻きがやばいと、それだけ近寄りがたくもなるんだし。
「あ、ちなみにトウジさん的には私はどうですか? ありですか? なしですか?」
「職場が一緒なのは個人的に無しで」
私情を挟んでしまうと、別れた後とかややこしいからね。
もっとも、そんな経験なんてないんだけど。
「わっ、振られちゃいました?」
「いや、今のは振った振られたの話じゃないでしょ」
ただの好みとか、どういう相手が理想かの話である。
俺の理想はどうだろう……。
うーむ、甘やかしてくれる人がいいな。
それでいて、ダメな時はしっかり叱ってくれる人とかかな?
俺がヘタレな分。
それだけ包容力というか、心の広い人物がいいと思う。
割と自制っていうのができないタイプだからね。
好き勝手してることも許してくれる人がいいな。
束縛されるのが平気だったら社会の底辺で生きてません。
「じゃ、俺はこの辺で生徒たちのところに顔を出して来ます」
「はい。とりあえず向こうについて、時間が空いたら支部にお越しください」
「了解っす」
ってことで、俺もライデンたちの元へと顔を出すことにしよう。
甲板から船内へを戻る階段付近で、イグニールたちの姿を見かけた。
イグニール、ゴレオ、ジュノー、マイヤー。
うちの女性陣が一同に介し、何やら話し込んでいる。
「ちょっと、無しらしいわよ」
「それマジ? どうするん?」
「……」
「多分、適当に理由つけてはぐらかしてるだけだし」
「やっぱりそうよね?」
「おもった通りやん」
「……」
「で、どうするし、何するし? あたしはすでにマ──」
「──なに話し込んでんだ?」
『──わっ!?』
話しかけて輪に入ろうとすると、全員が驚いた顔をして後ずさっていた。
「え? なに? なんで後ずさるの?」
「……」
近づくとゴレオが通せんぼしてくる。
な、なんだよ……。
「ガールズトークってやつ?」
「そうだし! だからトウジはあっちいくし!」
「えっ」
仲間はずれか、ちょっと悲しくなった。
「じゃあいいよ、もう! ジュノー今日は俺一人で寝るからお前イグニールと寝ろよ!」
「それは断るし! って、トウジちょっと待つし! トウジー!」
ジュノーの口ぶり的に、ポチもたまに仲間に加わっている節がある。
つーことは、俺だけハブなのだ。
ポチだってオスだろ、ガールじゃないだろ、ちくしょー。
念のため、今日はライデンあたりの部屋に行って一緒に寝よう。
あれ、俺なんか着実に一人じゃ寝れない体にされている……?
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
間違えられた番様は、消えました。
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ
異世界に召喚されたその日、巻き込まれた青年に俺が得るはずだったスキルを奪われた。
お詫びとしてチートスキルを授かった俺は、第二の人生くらい好きに生きようと旅に出る。
行き着いた先は、寂れた町の場末の酒場だ。
なぜか客は男ばかりだが、日雇い冒険者や恐妻家の肉屋たちとの気楽な毎日は悪くない。
……ただ一人、どう見ても貴族のような美青年がこの地味な酒場へ通ってくる理由だけは、さっぱりわからない。
「お前らツケはやめろ」
そんな穏やかな日々を送っていたはずなのに、ある日、酒場へ厄介な依頼が舞い込んできた――。
他サイトでも掲載しています。
不定期更新です。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました
竜族の王子フェリクスの成人の儀で、侯爵令嬢クロエに現れたのは運命の番紋。けれど彼が放ったのは「お前が番だなんて最悪だ」という残酷な言葉だった。
異母妹ばかりを愛する王子、家族に疎まれる日々に耐えきれなくなったクロエは、半地下に住む魔女へ願う。「この愛を消してください」と。
恋も嫉妬も失い、辺境で静かに生き直そうとした彼女のもとに、三年後、王宮から使者が現れる。異母妹の魅了が暴かれ、王子は今さら真実の愛を誓うが、クロエの心にはもう何も響かない。愛されなかった令嬢と、愛を取り戻したい竜王子。番たちの行く末は――。
愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~
女子高生と一緒に異世界へ聖女召喚された、アラサー女子・一ノ瀬玲。
ところが、召喚された二人を待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。
聖女として期待される女子高生とは対照的に、玲は年齢を理由に無視され、王城で居場所すら与えられない。
それでも何とか生きようとしていた玲だったが――ある日、食事に毒を盛られる。
「……私、命狙われてる?」
愛犬の柴犬・雷電とチワワのアビーに助けられ、玲は王城から逃げ出すことを決意する。
逃亡先で冒険者となった玲のランクは、まさかのFランク。
そんな玲を助けてくれたのは、辺境へ向かう騎士団長・レオンハルトだった。
そして玲のスマホには、異世界へ来た時から謎の【異世界モード】が存在していた。
【異世界通販】
【異世界銀行】
【アイテム収納】
【マップ】
【翻訳】
【ステータス】
「……これ、もしかしてチートじゃない?」
王家から逃げながら、愛犬たちと辺境を目指す玲。
魔物と戦ったり、旅をしたり、異世界通販で買い物したり。
ちなみに、記念すべき異世界通販の初購入は――犬のウンチ袋。
王城では散々だったけれど、もう戻るつもりはない。
アラサー女子と愛犬たちの、ちょっと騒がしくて、時々ほのぼのな異世界辺境生活が始まります。
初投稿なので誤字脱字
支離滅裂有るかと思います
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!