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本編
535 船旅・4
しおりを挟む不良たちが去ってしまった後、ライデンがお辞儀をしつつ言った。
「トウジさん、ありがとうございます!」
「ほい」
問答無用で危害を加えられたりしなくて本当に良かった。
その後ろでギャル子と委員長もそれぞれの反応を見せる。
ちなみに、委員長の名前はケインね。
「トウジっち、マジかっこいいじゃん!」
「先生、殴られた傷は大丈夫ですか!?」
「どうってことないよ」
「トウジさん、前もあいつらにレンガで後頭部殴られてましたしね」
確かに、そんなこともあった。
「レンガ!?」
「え? 後頭部パッカーン系?」
「う、うん……パッカーン系……」
パッカーン系ってなんだろう?
でも、その時もさほどダメージはなかったと思う。
多少痛かったけど。
「トウジさん……あいつらまた来ますかね?」
不良たちが去っていった方向を見ながら、ライデンがそう言う。
「少なくとも、島にいる間は大丈夫だろう」
そのために、わざと温情を与えるふりをしたんだからな。
それでも絡んで来たら、さらにキツいお灸を据えるのみだ。
タイミングよくアシュレイあたりも呼んで言い逃れできないようにしてやる。
「ほんっと、あいつらしょーもな」
「そうだな、しょーもないな」
エイミィの言葉に頷いておく。
もう、何がなんでもライデンに絡みたいのだろうな。
俺に仕返しできない分、ライデンにってことだろう。
実力的にはライデンに分があるが、精神的にはこいつには勝てると思っているのだ。
まったく、そんなチンケな真似しても、社会的地位もいずれはライデンに負ける。
奴らは敗者確定だ。
俺と同じような、底辺への道を歩んでいただこう。
「先生、彼らは本当に引き下がるでしょうか?」
「ん?」
ケインが言う。
「彼らが今まで何も言われなかったのは、親がそれなりに名のある貴族だからなんです」
「へえ……」
予想通り、坊ちゃんだったか。
昔っから普段は良い奴を装っていて、裏で陰湿な真似をする奴はそうと決まっている。
親の立場にかまけて、そうやって力を誇示するんだよな。
「あれだけ煽って親までできてしまったら……私たちなんてひとたまりも……」
「そんなに偉い奴なの?」
まあ、貴族だったら偉いかもしれない。
しかし、貴族として子供の教育をしっかりしろって話だ。
「私、中等部から彼らと一緒のクラスだったので知ってるんです」
「ふむ」
「同じようにいじめられていた生徒が、反抗した結果……謎の退学を迎えてしまったことを……」
「謎の退学ねえ……だったらライデンはどうなるんだ?」
「それは、ライデンくんの親がその貴族より偉いからですよ!」
「いや、それだったらライデンに手出しなんてしないだろ」
「そ、それは落ちこぼれだって言われてましたし、ライデンくんは何もやり返したりしないから」
「委員長、それはライデンに失礼だろ」
ぽろっと言ってしまったのだろうが、さすがに聞くに耐えないので言い含めておく。
落ちこぼれっていうか、もともとライデンはアーティファクト研究とは違う畑の人間。
スタートで出遅れてしまったからついていけていなかったのではないか、と俺は思う。
そうじゃなかったら、こんな頑張り屋が落ちこぼれだなんて言われるはずがないのだ。
「ご、ごめんなさいライデンくん!」
ハッと気づいて慌ててペコペコと謝るケイン。
「いや、まあ成績悪かったのは事実ですし……」
「そうそう、つーかみんなこれからっしょ?」
「エイミィさん、あなたはもうちょっと授業態度をなんとかした方が良いと思います。制服も崩しすぎです」
「これはポリシーじゃん? つーか、あたし成績は毎回1番だから、別に良いっしょ?」
えっ、ギャル子って成績1番なの?
見えねー!
普通にバカなタイプだと思ったんだけど。
人は見かけに寄らないなあ。
「トウジっち、今あたしのことバカだと思ったっしょ?」
「え? いや、そんなことないない。ないよ」
こいつ、思ったより人のことを見ているな……。
話題を変えよう。
「委員長の成績はどのくらいなの? 2番くらい?」
「………………それは……」
なんとなく話題を変えたのだが、ケインは俯いてしまった。
こ、こいつもキャラとは違う成績の持ち主か。
反応からして、おそらく中の下、もしくは下の上。
「先生、人を見かけで判断するのはよくありません! 私の成績は秘密です!」
「委員長ってメガネかけてるくせに成績下の下だよね。ノートいっぱい書いてるのに」
「!?」
エイミィの一言によって、ケインの顔がブワッと真っ赤に変わった。
下の下かい。
そのメガネは飾りか。
「ノ、ノノノ、ノートは別に良いじゃないですか! 書かないと覚えれないんです!」
「教科書もほとんど線引いてるし、逆に効率悪くない?」
「授業を真面目に受けないあなたに言われたくありません! これからなんです!」
「ま、まあここに最下位がいるんですから、委員長も元気出してください……?」
「そんな慰めはいりません!」
ライデンの優しさが、ケインに火をつける。
「だから私は部屋で勉強会をしようと提案したのに! エイミィさんが遊びに行きたいって言うし、ライデンくんもどっちつかずな返答をするから、彼らにちょっかいをかけられたんですよ!」
どうして部屋の前にいるんだろうな、と思っていたのだけど。
そんな理由があったわけだ。
「揉め事を起こして、私たちのキャリアが傷ついてしまったらどうするんですか! 大手の研究所は全成績も加味していると聞きますし、そういうところでしっかりやっていかないとダメなんですよ!」
「委員長の成績だとキャリアも何もないっしょ?」
「むわあああ! そんなことありません! これから一気に努力した成績を残せば、まだ間に合う計算なんです!」
「最初に遊んで発散した後に勉強すれば、効率いいじゃん。いつもそうだし」
「あなたと比べないでください! くぅっ、やっぱり学生のうちは勉強に励むべきです! そうですよ、ただでさえ最近授業についていけていないんですから、ここは勉強をして穴を埋めておかなければならないんです! 私は勉強します! ライデンくんとエイミィさんだけでどこぞにでも行ったら良いんです!」
「えー、せっかくグループになったんだから、みんなで遊ぼうよ?」
「その誘いが私をダメにするんです! 確かに誘ってもらえて嬉しかったですけど。それだとエイミィさんに追いつけないのでやっぱり勉強することにします! 先生もそう思いますよね!?」
「え、俺に聞く……?」
先生という立場にあるけど、あくまで臨時の非常勤なんだが?
「いいじゃん、トウジっちが決めなよ。あたし冒険者について色々聞きたいし?」
「えっ」
学生なんだから、学生であるうちは楽しんで良いと思うけどね。
見学もそうだが、こういう時は基本的には羽を広げるのが良いと思う……がしかし。
テコでも動きませんと言うケインの手前、どうにもできなかった。
一人残して、と言うのも忍びないし……。
「うーん、勉強が終わったら遊技場行く……? だったら問題ないよね?」
「それだったらまあ……」
「あたしはオッケー!」
「僕もそれで良いです。トウジさんのお話まだまだ聞きたいので」
そんな感じで、勉強会になってしまった。
ケインが勉強している間、俺は冒険者の時の話をライデンとエイミィにする。
……うーん、まあいいか。
なんにせよ、ケインの不安も拭い去れたっぽいし。
エイミィみたいなムードメーカーって、かなり重要だよなあ。
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