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本編
536 船旅・5
「ね、トウジっちの学生時代ってどうだったの?」
ライデン、エイミィ、ケインでババ抜きをしていると、唐突にエイミィがそう言った。
「俺の学生時代? いや別に普通だけど?」
エイミィのトランプを引きながら答える。
すると、単語帳に目を向けながら自分の番が来たらトランプに目を向けるケインが、訝しげな表情をしていた。
「普通の? そもそも、冒険者は学院に行ってない人も多いと聞いているのですが?」
「まあ確かにそんな人も多いけど、俺は学院に通っていたってことだな」
「そうなんですね。しかし、先生は勉学を行なったのに、なぜ冒険者になったんですか?」
「特に理由はないよ。気が向いたから」
適当に答えて、そういう体裁にしておく。
30歳まで別の世界で生きてました……なんて言えないからな!
しれっとトランプに混ざるケインだが、彼女も最初は勉強を頑張っていた。
ノートをちらっと覗くと、確かにびっしりまとめられたノート。
びっしりとほとんどの記述にラインが引かれた教科書。
こりゃダメだわ……と思った。
エイミィのように効率が悪すぎると言うか。
これだと、勉強をした気がするだけだった。
とりあえず学生の頃の勉強なんて、大人になったら忘れる。
ずっと忘れない記憶ってのは、心が記憶するもんだ。
そう告げてトランプに誘った次第である。
地味にチラチラ耳を俺たちの方に向けながら集中できてなかったしな。
「先生、もう一つご質問良いですか?」
「はいなんですか」
聞いておく。
大事な生徒なので、俺もできる限りのことは答えよう。
嘘はつかないのようにするが、本当のことも言わない。
「せっかく勉強したのに冒険者になるのは、なんだかもったいないように思えます」
「そんなケインさん、全然もったいなくはないですよ!」
そんなケインの言葉を聞いたライデンが、ズイッと身を乗り出して言う。
いきなりの様子に、ケインの顔が赤くなっていた。
「ラ、ララララララララライデンくんっ! いきなりびっくりするじゃないですかっ!」
「おっと、すいません、つい……」
でも、とライデンは出で立ちを直しつつ告げる。
「トウジさんには、トウジさんの考え方があり、それで冒険者をしていて、今があるんですから!」
「ええと……ま、まあ、そうだね……」
もう俺信者みたいな感じの発言になっているが……。
実際はただ身分の証明になるものが欲しかっただけだ。
あとは、異世界と言えば冒険者かなって……。
うん、そんでもって楽に金稼げたしね……。
ご大層な言い回しだったが、そんなセコい理由なのである。
「へー、ちなみに月いくら稼いでんの?」
「いきなりそれか」
「いや、気になるじゃん? 研究職は補助受けて大手だと他の3倍くらいだけど?」
「冒険者ってランクが分かれてるから、一概には言えないかな?」
さらに付け加えると、毎日休まず依頼を受ければそれだけ収入も伸びる。
依頼を受けない日を多く設ければ、その分収入も落ちる。
完全出来高制で、福利厚生も何もない、きびしーい世界なのだ。
「でも、腕のいい冒険者は、ギルドからの信頼も厚く稼ぎもかなり良くなるけどね?」
「んー、具体的な数字はなんなの?」
「まあ俺は効率よく依頼をこなしてたから、最下位ランクでも常に毎日金貨3枚ペースかな?」
「えっ!?」
その言葉に、エイミィとケインが目を丸くしているようだった。
「日給3万ケテルってことじゃん!? 月22日くらい働いたら66万ケテル越えんの!?」
エイミィ計算早っ!
さすが成績1番ギャル子ちゃん。
「俺は一回でいくつも採取依頼を受けたり、その合間に狩った魔物の報酬を得たりしてたからね」
「トウジっち、嫁にしてもらえない? 遊んで暮らしたい!」
「お断りします。ちゃんと働いてください」
働かざるもの食うべからずって言うだろうに。
俺だって社会の底辺にいたけど、ちゃんとバイトしていたぞ?
働かざるもの課金するべからずって言うからな。
借金して課金なんて、破滅を呼ぶようなことはしなかったのだ。
そこだけは、しっかりしていたのだ。
だが、今思えばってやつなんだけど。
異世界召喚に巻き込まれるとわかっているならば……。
消費者金融から金借りまくって、その分遊び呆けとけばよかったかな?
異世界に行くことで、借金チャラになるって寸法だ。
帰っても破滅的な状況ならば、異世界に腰を据えて生きていける気がする。
「最下位ランクでそれだけ稼いでたってことは……先生今Aランクですよね……?」
「うん、Aだね」
ケインの言葉に頷いておく。
だが、あくまでそれは俺がセコい真似して稼いでただけで。
最下位ランクなんてその日に暮らしていけるくらいしかもらえない。
経験も少なく、絶対に依頼が成功する保証なんてないんだから。
「Aランクの依頼報酬ってどれくらいなんですか……?」
「その辺になってくると、時と場合によるもんだよ」
「どういうことですか?」
「どうしても欲しいって物好きの相手をしていたりするから、そういう人だとすごく金を出してくれる」
デリカシ辺境伯とか、テイスティ侯爵とか。
あいつらは持てる財産をすべてそこに打っ込むような奴らだからな……。
本当に、そういう手合いからは金を引っ張れること引っ張れること……。
「で、いくら? トウジっち、今までの最高報酬っていくら?」
「エイミィさ、なんで金の話になると急に乗っかってくるわけ……?」
「気になるもん! お金って大事なことじゃん?」
「まあそうだけど……一応そういうのって流布するもんじゃないからなあ……」
「ここだけの話にしといて!」
顔を近づけ身を寄せる彼女の胸元の黒い下着に敬意を評して少しだけ教えよう。
「1億くらい?」
『えーーーー!?』
みんなが仰天の顔をしていた。
俺がすごい的な話題で何故かホクホク顔をしていたライデンもびっくりである。
この調子だと、飛空船にどれだけ金や労力を注ぎ込んでいるか聞いたら気絶しそうだ。
「基本的には誰も達成できてない依頼でたまたまだったんだよね、運が良かったよ」
飯作って5000万とか1億とか、マジで。
でもまあ、死にかけたけどね。
人生で初めて、ガチで、死ぬかと思った一瞬だった。
ネームド特殊個体、サンダーソールとの対決は。
「これは本格的にトウジっちに嫁ぐじゃん!」
と、エイミィ。
「もう使い切ったからないぞ。残念だったな」
「はあ!? 金遣い荒ぁっ!!」
残念ながら俺の金遣いの荒さは他の人の比ではないのだ。
3億なんてすーぐ消し飛ぶ。
「わ、私も冒険者をもう少し知る必要が……」
「知るのは多いに大事だが、気軽になるのはお勧めできないぞ?」
「でも、そんなにもらえるなら……」
「何度も死にかけたことあるし、たまに腕とか千切れたし」
「ちっ!?」
「俺は幸い治ったけど、パーティーメンバーはオークにやられそうになった」
「オ、オークに……は、話を聞くだけでいいです……」
ケインはキャリアがどうとか言いながら、やはりお金が欲しくて研究者を目指しているようだ。
ま、やっぱりそんなもんだわな、人間。
俺だってそうだ。
ちなみにオークと言えば、いきなりピーちゃんが成長した説。
それが3週間くらい前に流れていたりする。
うん、俺は小さなオークを準備できなかったんだ……。
「や、やっぱりトウジさんすごいですね!」
「お前もこれくらいすごくなるから、頑張ってね」
最後にライデン。
相変わらずの言葉だった。
「ええ……僕にはとても……」
「何言ってんだ、お前はやればできる子だから、やるんだよ」
「は、はい……!」
こいつに関しては、学生が終わって俺がまだギリスや近場にいたら、強制レベリングだな。
ライデンだけは死なないように、ひたすら強くなっていただきたいのである。
俺のおさがり装備を身につけられるように、とりあえずレベル50とか60あたりまでは伸ばしたい。
「まあ、話の総まとめだが……」
三者三様の反応を見せていた彼らに言う。
「アーティファクトを発見するような冒険者はもっともらってると思うぞ。魔剣とか魔装備の類をダンジョンで拾ってくる冒険者も競売でかなりの大金を得ることだってある。本当に実力があればいくらでも稼ぐことができる可能性を秘めてるんだ。しかし、命の危険も隣り合わせな仕事だから、その安全性を上げるために、今度冒険者の学科が創設され、彼らに対して研究者が作ってきた魔導機器を使ってもらうんだ」
一見、きな臭いC.Bの実験のような気がしないでもなかったのだが……。
国としてもそう言う人材はすごく求めていたんだろうな、と思う。
純粋に夢を追う学生諸君の目を潰させないように、悪に巻き込まないように、しっかり監視をしておくか。
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