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本編
546 ダンジョンリゾート・10 老後
「やっぱり時代は闘鶏や、闘鶏! これしかあらへん!」
「……懲りてないのか、マイヤー」
「なんのっ、まだまだこっからやで!」
俺たちは酒の入ったカップを片手に、闘鶏会場へとやって来ていた。
昼の部と夜の部があり、夜の闘鶏は一味違った戦いとなる。
障害物込み込みで行われる闘鶏たちのバトルロワイヤルなのだ。
単純に体格や練度のみならず、発想力や機転も作用する戦い。
賭けに興じなくても、そのカジノ式闘鶏を見るために集まった人が大勢いた。
「ゴレオも貸しちゃダメよお金」
「……」
それでも涙にくれるマイヤーは可哀想だったらしい。
ゴレオってば、優しいな‥…。
「ゴレオのお小遣いだから、マイヤー酒は買うなよ?」
「こ、この一杯だけやって! 信用してや!」
信用できるほどの徳を積んで来てから言って欲しい。
酒に関しては、信用なんて皆無なんだ。
「よーし、負け分取り返して、ガンガン稼いじゃるわ!」
「賭けって熱くなったらダメよねえ」
「そうだな」
運要素が左右するもんに熱くなるのは仕方がない。
その分勝利の美酒には酔いしれることができる。
しかし負けた際のショックがでかいから、俺は気持ちを落ち着かせる派。
どうせ失敗するもんだ、そう思うことで負けた時のショックを和らげる。
勝ったら勝ったで嬉しいから、気持ち的な損はないのだ。
「ちなみにトウジとイグ姉はルーレットやってたみたいやけど、どないやったん?」
「俺は700万くらい勝ったよ」
「ふぇー! 700万て、なかなかやるやん! イグ姉は?」
「2億」
「にっ──!?」
マイヤーが目を見開いていた。
あの時はさらっとその場を後にしたイグニールだけど、2億ってやばいよな。
うん、やべえ、思い返したらもっとやばくなってきた。
「全額ストレートアップで36倍の2億、これが私の力よ」
「はえー、やっぱイグ姉には敵わんなー」
「うん、本当に敵わないよ。勝負強さやばい」
「まあ、運が良かったの、運が」
一生物の運を使い果たしてしまったような勢いでもある。
しかし、あの時のイグニールはかっこよかったな。
20に来る、必ず来ると単価を切って、本当に来た。
やっぱりイグニールは何かを持っているような気がする。
「イグ姉、2億はなんに使うん?」
「うーん、考えてなかったわね」
イグニールはしばし思案すると言った。
「貯金、かしら」
「貯金? 大金は好きなことにパーっと使う方がええんやで?」
どうせ賭けで稼いだあぶく銭なんやから、と言うマイヤー。
確かに、堅実に稼いだ金なら大事にするが、俺もあぶく銭は使う派だ。
臨時収入があった時くらい、贅沢したくなる。
ネトゲ廃人やってた頃も、金に困ったらネットで装備を現金売りしていた。
本当はやってはいけないことなのだが、買い手がつくからやめられない。
もっとも、貯金とかそんなことは全くせず、余ったお金は再びゲームに課金。
うーん、底辺、うーん、クズ。
「現状満足してるからね」
俺の目をじっと見据えながらイグニールは言葉を続ける。
「それに、トウジはたまに破産並みにお金使うから、いざって時のために私が持っとかないと」
「うっ」
深淵樹海前に特殊強化大失敗にて破産し賭けた時のことを言っているようだ。
危うくイグニールのヒモになりかけてしまうところだったのである。
反省して、俺もお金はしっかり大事に使うことにしようと決意を新たにした。
でも、結局魔物を狩りまくって元に戻り、かつ竜樹も大量ゲット。
スペリオル装備の特殊強化もかっちり済ませることができてよかった。
終わり良ければすべて良し、というところなのである。
「イグ姉、もう老後の蓄えってことなん?」
「そうね、それも良いかもね」
「まあ、2億ケテルあったら老後なんて一人余裕でリッチな暮らしできそうだもんな」
物価自体は俺のいた日本とそこまで変わらないものだ。
高卒の生涯年収並みのお金を持っていたら、余裕だろう。
「でも、一人じゃ使い切れないからトウジにも半分あげる」
「は? 別に一人で使いなよ」
「欲しいものなんてないし、トウジが全部買ってくれるし、渡すわよ」
「そこまで言うなら、大事にとっておくよ」
インベントリなら、置き場所も困らないし、盗まれる心配もない。
将来、イグニールにそのまま渡してあげよう。
「それにしても老後か……」
老後について、ふと考えてみた。
もしもの話、俺は日本に戻ったとして、老後いったい何をするのか。
そもそも、帰って来て日本に俺の居場所が存在するのか。
異世界で経た時というのは、向こうの世界でどうなっているのか。
行方不明になっているのであれば、住む場所もない。
それならば、実家に帰ることになるかもしれないけど、親は生きているのか。
俺が40、50歳になるまで帰れないとすると、高確率で親は亡くなる。
帰る場所ないじゃん。
残るか残らないかの選択があるとして、未だにどうするか迷う俺がいた。
「トウジは、老後どうするの?」
「うーん……どうしようかな……」
イグニールの問いかけ。
俺みたいな異物がこの世界にいて良いのか。
心の中には、その気持ちが多少はある。
何かの拍子に強制的な帰還が待っているのかもしれない。
その時に備えて、何か残せるものを残しておこうと思った。
「何言うてん、老後はみんな金持ちになって気ままに過ごすんや」
闘鶏の様子を目で追いながらマイヤーが言う。
「ギリスの研究所が上手くいったら物流の概念を塗り替えることになる」
「まあ、そうだね」
「そしたら大金持ち確定、C.Bファクトリー抜いてうちらがギリスで一番や。さらに、空輸での貿易を担って各国とのつなぎの役割を果たせば、物流を手に入れれば世界の商売を牛耳ったとも言えるやん? みんなで一緒に金持ちになって、ゆっくりした時間を過ごそうや。みんなで、やで?」
「……そうだね」
いつまでも、ずっと、変わらないものなんてない。
どこか前に常に進んでいかなきゃいけないわけだ。
どうにも、勢いがないと俺は前に進めない。
その背中を押してくれたり、引っ張ってくれたりするのが“みんな”なのだ。
あまり不安なことは考えないようにしておこう。
「トウジ、今はいいけど、老後に備えて身を──」
「──うっだらー! いけ、怪鶏メンチカツ! そこや、蹴たぐったれ!」
イグニールが何かを言おうとしたところで、闘鶏場で歓声が上がる。
どうやら一つ試合が動き、マイヤーが押していた闘鶏の怪鶏メンチカツが活躍したようだ。
メンチカツって、マイヤーの一押し鶏って食べ物の名前ばっかりだな……。
「で、イグニール、なにか言ってた?」
「……いや、なんでもないわよ。とりあえず老後もパーティー組みましょ?」
「えー、老後も冒険者すんの……?」
俺にそんな体力と気力が残っていれば良いのだが……。
今のうちから食事療法的な感じでアンチエイジングしておこうか。
「まあでも、イグニールは最初で最後のパーティーメンバーだよ」
「そ? それは光栄ね。一生よろしく」
一人白熱するマイヤー、その後ろで喋る俺とイグニール。
ポチとゴレオはなんだか二人してため息をついているようだった。
=====
そろそろ海賊討伐編
感想 9,840
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