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本編
553 エルカリノ討伐戦・6 変。
トウジが一人闇討ち作戦を決行している時、島にいる女性陣は眠れぬ夜を過ごしていた……。
「あかん、イグ姉……なんか全然寝られへん……」
パジャマ姿に黒い鶏のぬいぐるみを抱えたマイヤーが、ベッドからのそのそと起き上がる。
なんだか顔が赤く、火照っているようだった。
「奇遇ね、私も」
彼女の護衛として待機している私も、なんだか少し体が熱い気がする。
さっきまでは何ともなかったのに、いきなり芯から熱を帯びたようだった。
しかし護衛中に変な気分になるのはご法度。
冷静を装うために、形見の杖を太ももに挟んで何とか堪える。
「トウジどないしとるんやろ? なんか胸騒ぎするんやけど」
「心配いらないわよ? マイヤー、お風呂にでも入って体温めて寝てなさい」
「これ以上火照ってもーたら、あかんことになってまうわ!」
むーっと、しかめっ面をして旅行バッグの中から小さな瓶を取り出して飲むマイヤー。
「カジノやプールで散々飲んだでしょうに……」
「寝酒や、寝酒!」
寝酒って、明日に響かないと良いのだけど。
そして「それに」とマイヤーは言葉を続ける。
「護衛でイグ姉が起きてくれとるっつーのに、うちだけ寝れんよ」
「マイヤー……気にしなくても良いのよ……?」
「気になるやん、それにあんまり声に出して言えんかったけどさ」
クッとややキツめの酒を煽ったマイヤーはベッドに座って言う。
「うち、重荷になってへんかなあ……?」
唐突なその発言に、私はどう言葉を返したらいいのかわからなかった。
普段なら、酒はほどほどにねと苦言を呈する時だけど。
珍しく彼女が本音を語ってくれそうな雰囲気に、黙って耳を傾ける。
「久々に戻って来てからさ、ずーっとうちの護衛を引き受けてくとるやん?」
「そうね、当然のことだもの」
トウジが言うには、C.Bファクトリーの密偵以外にも色々な勢力から監視されているらしい。
彼を召喚して放逐したデプリやその他の国、そして前に少しやりあったと言う海賊たち。
今回、私が彼に付いて行かなかったのは、隙をついた他からの奇襲に備えるため。
見てないところはどうにもできないと言う割には、見えてない部分まで何とかしようとする。
なんだか矛盾してるけど、照れ隠しが下手くそだってことはよくわかった。
そこは嫌いじゃない。
口ではダメ人間だのあーだこーだの自分に言い聞かせているけど。
本音は別にあって、正しくしっかり行動するところが彼の良いところよね。
「最初は結構こっちにおってくれるんかなって嬉しかったけど」
「うん」
「それが逆にトウジやイグ姉の重荷になってるんちゃうかなって、最近思うんよ」
マイヤーからポロリと出たその言葉は、酒によるものではないと直感した。
「どうしてそう思うの?」
「だって冒険者やろ? 外に出てなんぼの仕事やん?」
「まあ、そうだけど……」
「トウジ自身も前に余裕ができたら色んな国に旅行したいって言っててん」
「大丈夫よ」
私は椅子から立ち上がると、マイヤーの隣に座りなおす。
一歩一歩歩く度に波の様にナニかが込み上げてくるけど。
そこは年上の体裁を守るために堪えていた。
「彼、その時に応じて考えがコロコロ変わるタイプだから」
「確かにそうや……」
思うところがあったのか、マイヤーは納得する。
そもそも、トウジ自身が何かをしたいという明確な目標を持たない。
何をしたら良いのかわからないし、何をすべきかもわかっていない。
だって、彼は……。
巻き込まれてこの世界に召喚された無関係の異世界人なのだから。
何も知らない世界に連れてこられて、放逐されて。
これっていう目標を持つこと自体がかなり難しいこと。
私だって、特に明確な目標もなくして。
ただただ流されるままに冒険者をやって来た。
だから気持ちはよくわかる。
そして、商売をするっていう明確な目標を持つマイヤーが眩しく見えた。
少し酒に溺れがちだけど、彼女は同世代よりもだいぶ大人よね。
「でもなあ、“せっかく自由”にできとるのに、うちが縛っても良いことあらへん気がしてさー」
「何言ってんの、勝手に自問自答して思考の渦に縛られて、最終的に全部放り捨てるタイプよ」
「確かに……意外とボロクソに言うんやね、イグ姉って……」
「事実だから」
でも、事実だとして私はそこを嫌うことはない。
「やる時はやる人だから、ゲスっぽいところはチャラよね」
「せやね、割と平気で誤魔化すところとか、商人に向いとるのになー?」
「余計な悩み事は抱えたくないタイプだから、商人は無理よ、無理」
「そっか、最近ハゲってワードを気にしてて、ナイーブやしね」
私たちの間でどことなく上がっている禁止ワードになっているもの。
それがハゲ。
言葉にそれが出てくると、彼は決まってこっちに顔を向ける。
みみっちいけど、別に嫌いじゃない。
「とにかく、マイヤーの心配してる様なことは何もないわよ」
「うーん……」
「むしろマイヤーのおかげで目標とかできて、生き生きしてるわよ?」
「そうなんかなー?」
「そうよ。出先でも一人残して来てるから早く帰ろうってなるし」
帰る場所がある、それは見かけによらず幸せなことである。
私もトウジも、互いに天涯孤独の様な身なんだから。
「そう言うことにしとく! まあ学生の内は、勉強と商会の方を頑張っとくで!」
「そうね、それが今のあなたにとって一番良いことだと思うわよ」
私からトウジの秘密を彼女に打ち明けておこうかと思ったけど。
彼女は待つことを選んだ様だった。
年齢に反して聡い分、薄々気づいてはいるんだろうと思う。
だけど勉強や商会を頑張ると言うことは、そういうことだった。
「ふあああ、イグニール、マイヤー! 大変大変だし!」
話もひと段落かな、と思っていると唐突にジュノーが叫び声をあげていた。
「どうしたの? って、ええ!?」
「うわっ! びちょびちょやん!」
ジュノーの方を見ると、涙目になって股間を押さえている。
「わかんないけど止まらないし! どうしよう!」
「大丈夫、普通のことだから!」
「わっ、話してて気づかなかったけど、うちもや……」
まったく今日は何なのかしら、私も後で履き替えよう。
せっかくスキルがついた物を履いてるのに、台無しだ。
「パンツ気持ち悪い!」
「あれ、ジュノーって下着身につけてたの……?」
「その一言は失礼だし!」
サイズとか、どうしてるんだろう。
「トウジがイグニールのカナトコしてくれたから大丈夫だし!」
「ああ、そう」
いつのまに……。
そういえばこの間一枚消えてたけど……もしや……。
「あー! 酒なんか飲むんやなかったー! ちょっと風呂入ってくる!」
「私もついていくわね」
「あたしも行くし! もー、なんか今日変! 変だし!」
……ダンジョンリゾートのホテル・オデッセイにて、女性陣たちは眠れぬ夜を過ごしていた。
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