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本編
556 ポセイドンらとの会話
しおりを挟む津波が全てを押し流し、再び夜の海に静けさが訪れた。
月明かりに照らされて、海面にシーモンクが顔を出す。
「こっ──殺す気かポセイドン!!」
『助けられてすぐに減らず口とは、落ち着け旧友。現に死んどらんだろうが』
「そういう問題じゃない!」
はあ、と溜息を吐くシーモンク。
ちなみに俺はワルプとビリーに助けられてギリギリ押し流されずに済んでいた。
ワルプが押し流される寸前で海流を操って俺を保護。
そしてビリーと一緒に海中に避難という形だった。
もちろん、その間ずーっと息を止めてました。
空気自体はインベントリにある空箱とかで心配いらないけどな。
頭に被れば少しの時間、息をつなぐことができる。
ブニーはというと、そのまま勢いよく流されてしまっていた。
死んではいないだろうけど、結構遠くまで流された気がする。
戻すか、戻さないか。
それを考える前に、すぐにポセイドンが口を開いた。
『して、ずーっと隠れとった者よ、姿を現せ』
バレてる。
そりゃそうだよな……ビリーとワルプは海中に待機していた訳だし。
恐らく海賊船を襲っていたことも、把握されていると考えておこう。
「……な、なんすか?」
『それは我のセリフだ。見た感じ海賊ではない様だな、貴様はここで何をしている?』
「えっと、海賊狩り……ですかね?」
『なんだと? 単身でか? 正気か貴様?』
「はい」
明日の決戦に向けて、少しでも数を減らす目的でここにいる訳だ。
しかし、そろそろ離脱しようかというところで……こんなことになるとは。
エルカリノの大艦隊は全てポセイドンの津波で流されてしまった。
一応、これで一件落着なんだが……。
「あ、じゃあエルカリノもみんな死んじゃったっぽいんで、俺はこれで……」
『待て』
呼び止められてしまう。
「いったいなんですか? 俺は敵じゃないですよ?」
味方でもないですけど。
ってことで、今の関係性を表す言葉は敵でも味方でもない。
そう、無関係。
「なんかお仲間さんも無事救えたみたいですし、これで」
『待て』
なんなんですかー!
呼び止めないでくださいよー!
「えっと……じゃ、これで?」
『待て』
「な、なんすか……」
ザブンと、ポセイドンの顔面が俺の前に姿を現した。
何とも、迫力のある顔面。
大きさで言えば、ワシタカくんをも超えるほどだ。
何メートルだろう。
でも、顔だけで10メートルくらいはあるんじゃないかな。
そこから筋骨隆々な人間の上半身と人魚みたいな下半身。
全てを合わせて80メートル近い、そんな気がします。
『敵でもそうじゃなくても、お前はエルカリノの敵なのだろう?』
「ええまあ」
嘘をつこうか迷ったのだが、ここは正直に頷いておいた。
あとが怖そうだからである。
『だったら、一つ我に殺されはしないか?』
「は……?」
フランクな口調でとんでもないことを宣うポセイドン。
一つ殺されはしないかって、死ぬのは人生で一回だろうよ。
こちとら転生じゃなくて召喚転移。
トラックにだって引かれてないし、通り魔に刺されてもいないんだ。
だから死ぬことをそう簡単に受け入れてたまるかっての。
「普通に無理ですけど?」
「俺もそう思うぞ、ポセイドン。いきなりにも程がある」
何故かシーモンクが話に助け舟を入れてくれた。
それを訝しく思っていると彼は言葉を続ける。
「俺が今回呼んだのはポセイドンだけだから、あのクラーケンは君の従魔だろう?」
「ええ、まあ」
「君のクラーケンが来たおかげで、あいつら勘違いして俺への拷問を終えたんだよ」
「そうなんですか」
「ああ、だからあまり痛い目を見ずに済んで助かったってことになる」
あれ、見た目は魚頭だけど、性根は思ったより良い人っぽい?
シーモンクは「だからポセイドン」とさらに言葉を続けた。
「諸悪の根源自体はもうお前の津波が水洗トイレの如く流しきった。帰ろう」
『無理だ』
シーモンクがせっかく帰宅を促していると言うのに、ポセイドンは即答で断っていた。
マジか、そう言う流れじゃなかったのに、なんだこいつ。
「はあ? ……お前まさか、強制力が働く契約を結んだのか?」
『うむ、奴らは願い、そして私に対価を支払った』
「えっと、どういうことですか?」
話に割って入り尋ねてみると、ポセイドンは言う。
『我は海の支配者。海に生きるものの願いを聞き届けてやる義務がある』
「……つまり?」
『力を貸し、我がこの手で奴らの敵を始末する』
あー……。
確定ルートだったってことね……。
無理があるだろ!
「おいポセイドン、その理屈には無理があるぞ」
そうだそうだ!
シーモンクさんの言う通りだ!
「そもそも奴らが狙っている敵がわからない状況で、いったい誰を始末するんだ?」
『あいつ』
俺かー。
「もし間違っていたらどうするんだ。それこそお前は支配者階級を名乗ることを許されなくなるぞ」
『ふむ、ならば何か情報を寄越せ減らず口めが』
「仕方ない、俺が知っている情報を教えてやる。エルカリノは、極彩諸島にあるオデッセイ島を縄張りとする海賊団、通称オデッセイ海賊団と明日海戦を行うそうだ。始末するなら、そっち」
うわっ、そっちもダメなんですけど。
くそ、この減らず口のシーモンクめ、余計なことを!
『オデッセイ島、知っているぞ。怠惰のスローフが昔海賊に分け与えた島だな?』
「そうだな……で、ポセイドンお前、大迷宮への攻撃もきっちり行うのか?」
『引きこもりどものいざこざに巻き込まれるのは面倒だから、あくまでオデッセイ島だけにしておく。天海深塔のメランコリーからあとでお前みたいな文句をぐちぐち言われる羽目になるのは面倒だ』
そう言いながら、ポセイドンは尾びれをぐわっと掲げた。
津波を起こす体勢である。
「ちょ、ちょっと! 何するんですか? 島に攻撃? 津波で?」
『そうとも』
ポセイドンは誇らしげな表情で言う。
『我レベルになれば海流を操作し方向性を持った津波を作るのも容易い。ここからちょうどまっすぐ行った先にはオデッセイ海賊団と思われる船もおるし、一気に押し流してオデッセイ島の沿岸部も飲み込んでやろう』
おいおい、島にはいろんな人がいる。
イグニール、マイヤー、ジュノー。
そしてライデン。
ホテルは沿岸部の見晴らしのいい場所。
ここで黙って見過ごす訳にはいかなかった。
「ストップ。だったら、俺が相手します。島を狙うくらいなら、ここで俺が敵役になるんで」
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