263 / 650
本編
564 有能長男つえー
しおりを挟む「ほら末っ子ー!」
三つの首を器用に動かして喧嘩をする邪竜三兄弟。
その末っ子に今一度問いかける。
「食べたいか、食べたくないのか、どっちだー!」
「ギャォォォオオオオオ!」
すると、末っ子はヨダレを垂らしながら空に向かって咆哮を上げた。
「なんて言ってるかわからないけど、多分食べたい、だな!」
「貴様の予想で概ね合っていますよ」
お、長男が通訳を買って出てくれた。
ありがたい。
「まったく、仕方ありませんね、今回だけ協力して上げましょう」
「兄者!? 宿敵に協力すると言うのか!?」
「……え、どういう風の吹き回し?」
こればっかりは、俺も次男の意見に乗っかる。
「黙りなさい。指輪に戻ったら、お前は折檻です次男坊」
「ぐっ、兄者の正論は心に突き刺さるでのう……」
露骨に凹む次男坊。
まあ、何となく怒られている姿は想像できる。
「勘違いすること無きように。今回協力する理由は末っ子のためです」
「ギャオ!」
長男が協力してくれると知って、末っ子は嬉しそうに鳴いていた。
「はあ……協力する代わりに……」
ため息を吐きながら長男は言う。
「──クソまずい料理を食べさせたら、承知しませんよ?」
そして、自分の体を中心に重力を発生させた。
──グォン! ゴゴゴゴゴゴ!
邪竜の体から、得体の知れない力が広がっていく。
すると衝撃によって発生していた高波が、津波が。
一気に威力を失い始めた。
ポセイドンが作り出していた無数の震源地。
それも邪竜の力によって一気に消滅して行く。
「確か、魔物を100体狩れば1分持続するんでしたね?」
「え、あっ、はい。そうです」
「なるほど……では、これはサービスです」
ズボッと海底から俺の方に大きな丸い塊が浮上してくる。
それは、魔物を殺して固めた球体だった。
えげつないが、一瞬でこれをやってのける長男もやばい。
「ついでにドロップアイテムとやらも、対象指定で引き寄せておきました」
「え、見えるの?」
「あなたが作り出した装備という理屈なら、当たり前でしょうに」
「あっはい」
あれ、なんかすごく色々なことを理解してる感じ?
なにこの長男、すっごい賢いんだけど。
「ついでに極彩マンボウも集めておきましょうか」
「えっ、そこまでしてくれなくても」
「貴方、他の目的に流されて忘れること多いでしょう?」
「えっ、まあ……はい、そうっすね」
「見ていて気持ち悪いんで、そこは直した方が良いですよ」
「あっはい」
説教の後。
別の重力場が出現して、そこにマンボウが100匹くらい引き寄せられる。
なにそれ、重力ってそんな使い方もできるの?
俺の知ってる重力と全然違うんですけど!
長男有能すぎる。
やべえ。
さっきから「えっ」とか「あっはい」とか「やべぇ」しか言ってない。
それくらいこの長男は細かくやってくれていた。
敵にすると非常に厄介だが……。
その分、味方につけるとやはり心強いな。
「まったく……世界を滅ぼす邪竜が、荒事を鎮める役目を担うとは……」
ポセイドンが作り出した震源地をあっさりと相殺し。
争いによって発生した高波や津波を力で捩伏せ。
周りに散らばったドロップアイテムをごちゃごちゃして気持ち悪いからと集めて。
さらには魚まで取ってくるという同時作業を簡単に行いながらため息をつく長男。
「兄者! 今からでも遅くない、そのままこいつを殺せ!」
そんな長男のジレンマ発言に、次男が反応していた。
「世界を厄災に包むのが儂らの役目だ! 誰よりも先にやると決めただろう!」
「ギャオ!」
未だに受け入れられない次男に、末っ子が吼える。
「弟よ! 兄貴に盾突くのか? また噛みつくぞ!」
「ギャォォォ……」
「喧嘩はやめなさい! そして少し黙れ、次男坊!」
「痛いッ!?」
器用に重力場を制御しながら、長男の頭がしなって次男の頭を小突いていた。
キリンがバトルするみたいに、グワァンって。
「兄者、儂に手を上げたな! 兄者ー!」
「手ではなく頭ですよ」
「うっ、兄者~~~!!」
どつかれて、しゃがれた声で鳴き始める次男坊。
よわっ。
一番喧嘩っ早いのに、よわっ。
「お前は、飯抜き。私と末っ子だけで食べますから」
「あにじゃあああああ! そんな人間の食べ物を!」
……なんだ、食べたかったんじゃん。
そんな視線を送っていると、長男が気づく。
「コホン、私が毒味しなくてはいけませんから」
「いや、食べたいなら食べたいって言ってくれて良いですよ。別に断らないですし」
「勘違いしないでください! 食べたい食べたくないではなく、毒味です!」
「ほーん」
恥ずかしがり屋か、こいつ。
まあいいだろう。
その分仕事してくれたから、俺は構わんよ。
「さて、海もだいぶ平静を取り戻しましたが、あとはあいつらですか」
長男首が、遠くで激しくぶつかり合うポセイドンとグレイトキングさんを向く。
ワルプが限界になって気絶してから、ポセイドンも拘束状態から復帰。
もう俺が見てないところで、二人で言い争いながらのしばきあいを続けていた。
『くそ! 拘束がなければ、貴様なんぞにやられっぱなしにならんわ!』
「たとえ拘束が解けようとも、我の拳で立ち上がれなくしてやる!」
『ヌオオオオオオオ!』
「プルァアアアアア!」
いくら波を抑えようとも、発生要因が未だに健在。
抑えても抑えても次々発生してしまうので、長男は元を断ちにかかる。
「スライムキングの方は死なないとして、ポセイドンは殺して良いんですか?」
「あっ、いや……殺すまではしなくて良いです……」
ポセイドンも敵ではないというか。
ダンジョンコアとの繋がりがあるっぽいので、できれば生かしておきたいのである。
それに、もし俺にやばく強い奴が出てきたとしたら、飯の借りを返してもらうのだ。
「甘いですね、いつかどうにもならない時が来るかも知れませんよ?」
「まあ、その時はその時また考えます」
「ルーズな考えは苛立ちますが、まあ指輪の中から見せてもらいましょうか」
それだけ言うと、長男は飛び立って戦う二人の間に介入する。
「──プルッ!?」
『──ヌウッ!?』
「どっちが強いかで揉めているなら、私も混ぜてください」
そして間で一気に重力を発生させる。
ズゥン、と突き抜けるような音と衝撃が響き渡り。
「もっとも、ダンジョンコア、勇者、賢者がタッグを組まなきゃ勝てない私に──」
キングさんとポセイドンは重力に押さえつけられた。
「──今の貴方たちが勝てるとは思いませんが」
「──!?」
『──!?』
一瞬の内に、空間の歪みがズンと二人を襲う。
それだけで、ポセイドンとキングさんは白目を剥いて気絶した。
いったいなにをしたのだろう……。
一瞬のこと過ぎて、まったくわからなかった。
88
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。