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本編
577 ただいまギリ(以下省略
しおりを挟む一つの島を後にした俺は、ホテルへと戻り残りの時間をみんなで過ごした。
『へー! マイヤーってアルバート商会の? うぇーいコネゲッツー』
『エイミィも成績優秀やんな? 要チェックしとったでー?』
『アッ、アルバート!? ト、トガルの大商会じゃないですか!』
『いやいやー、そんなもんちゃうでー?』
『名工とも言われる名もわからない匠が作った良装備や、数々の魔剣や魔装備を輩出し、今やその筋の人は大注目の商会ですよ! さらに、最新式の飲食業の運営、圧倒的な安さ、そして品質のポーション販売! どれをとってしても他の商会より一つ抜きん出た、国をまたにかける規模の有名商会じゃないですかー! ケ、ケインです! 以後お見知り置きを!』
最終日のみ一緒に行動するようになったエイミィとケイン。
良い感じに俺の仲間内とも打ち解けてくれたようで何より。
『わ、私は卒業後は研究職もしくは商人の総合職になりたいと思っておりまして! こ、今後とも名前だけでも覚えてもらったら! 成績は中の中ですけど、これから授業の評価も必ず良いものをもらいますので是非とも、何卒よろしくお願いいたします! ケインです! ケイン!』
『お、おう……? わ、わかったけど……?』
若干ケインがすごい勢いで喋り出していたのが心配だった。
焦ってるな、もう少し気を楽にすれば良いと言うのに。
俺なんか、勇者や国が相手なんだぞ。
それに比べたら、学生の悩みなんて……と思うのだけど。
頑張りの量とかもさ、悩みの問題とかもさ。
自分の中ではいっぱいいっぱいになるもんだから、なんとも言えないよね。
許容範囲は人それぞれだから、こういうのって。
同じ給料もらってるのに仕事できるやつとできないやつでの不平不満。
バイト先ではよくあることだった。
しかし、そこを責めてなんとかなる問題でもなく、給料だって上がることはない。
そいつもそいつなりに頑張ってるんだから、と大目に見てあげることが重要なのだ。
長い目でみれば、それでやっかんでやめてしまうことの方が問題なのである。
『……うっ、おっぱいがいっぱい……うっ……』
『ライデン……』
男女比が驚異的な数値になっていたからか、わからんが……。
何故だかライデンがいつも以上にそわそわしていた。
『ど、どうしてこんなに楽しい時に……そんな僕は……』
なんでだろうな、なんでだろうな?
俺は理由を知っている。
あの時の俺と状況が同じならば、お前も味わっているはずだ。
無限に続くかのような生き地獄をな……。
『ライデン、大丈夫か?』
『だ、大丈夫です!』
『屈んでるけど、どうした、お腹痛いのか?』
『いや、えっと、その……ちょっと腹痛ががが!』
『ふーん』
影響力から考えて、ライデンはまだ良いけど。
俺が一番やばいかも知れん。
もう30だぞ、三十路。
弾数に制限がきてしまいそうで、恐怖恐怖。
『ライデン、いっぱいの“い”を“お”に変えて言ってみ?』
『──!? お、おぱおぱ──!!』
『……おっぱおでしょ、ちょっとライデンで遊ばないの』
『すまん、見てると面白くて』
イグニールに怒られてしまった。
まあ良いでしょう。
ライデンの反応が面白かったので、よしとしておく。
『ちなみにトウジは、私たちを見てもどうにも思わないの?』
『……いや、そんなことはない』
『あっそ、良かった』
……良かった?
良かった──?
ど、どういうことですか!
どういうことですかー!
なんて冗談もそこそこに、リゾートは終幕。
俺たちは船でギリスへ戻ってきた。
もう何度目だろうか。
今回はそこまで長い期間でもなく、それなりに遊ぶことができた。
大海賊たちも倒して、邪竜とも少しだけ、良い関係が気づけそう。
収穫は、良し。
なんだかんだ色々あったけど、楽しい時間が多かったので、良し。
この後に控えるデプリや勇者関係の面倒ごとがやや不安だが……。
リフレッシュできたと言うことで、この思い出は大事に心にしまっておいた。
そんな訳で──
「もう何度目かもわからんが、とりあえず皆さんご一緒に良いですか?」
いつもはワシタカくん経由の森の中だが、今日は港町の宿だ。
間借りしていて、うちとつながるもう一つの扉である。
その前に立って一人でつぶやいていると、イグニールが聞いてきた。
「……えっと、誰に向かって言ってるの?」
「お前らだよ。ギリスに帰ってきたら言う言葉があるだろ?」
「いやだからお前らって……」
首を捻るイグニールを放置して、話を進める。
「なに、いつもなんかここでしよったん?」
初めてのマイヤーには、しっかり説明しておこうか。
「長旅から帰ってきたら、いつも言ってたんだよ。ただいまギリスって」
心の中でな。
「へー! ええやん! うちもやりたい! みんなでやろか!」
「やるし!」
「ォン!」
「クエッ!」
「……!」
ポチ、コレクト、ゴレオも頷くので、みんなで一緒にやりましょう。
ちなみにライデン、エイミィ、ケインは学校の馬車に乗って帰った。
ライデンもうちに来れば良いと思ったが、三人でいることを優先したようだ。
うん、仲良くなって何よりだ、何より。
さて、そんな訳で、さっそく。
「では……はい、ただいまギリス」
『ただいまギリス!』
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