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本編
582 再召喚
しおりを挟む「──え」
暗転し、そして再び光が俺の元に戻ってくる。
なんともいえないこの感触は、身に覚えがあった。
俺が、この世界に初めて来た時と同じものである。
あの時、デプリに召喚された俺が味わった感触。
そう……召喚、もしくは転移のモノ。
「……」
周りに目を向けると、団欒していた今までの光景ではなかった。
調度品が並べたれられた、大きくて豪華な大広間。
足元には魔法陣、そして周りには俺たちを見る神官や貴族たち。
──たち……?
そう、俺の他に誰かが存在していた。
「アキノ……トウジ……!」
「お前は……」
凛々しくも甘いイケメン具合と、俺より高い高身長具合。
そして後ろに率いる女子三人の美少女軍。
……勇者である。
この世界に来て少したくましくなったのか。
勇者の眼光は前よりもやや鋭くなっていた。
「これはお前の仕業かアキノトウジ!」
「は?」
開口一番、いきなり何を言い出すんだか。
周りの女性陣も訝しむ、もしくは蔑むような視線を向ける。
出たよ、この視線。
ぶっちゃけ少しだけこの視線には辛いものがある。
だから会いたくなかったんだが……。
「それこそ俺のセリフだ。俺はさっきまで夕飯を食べてたんだけど?」
「何を言っている、それこそ俺たちのセリフだ」
「勇者ご一行も夕食かな? それにしては……なんか格好があれだけど」
そんな話をしていて気づいたのだが、勇者たちの格好はみんな薄着だった。
俺の視線に気づいた女性陣が、体を抑えてさっと勇者の後ろに隠れる。
まさか、チョメチョメしてる時にこの召喚されたとか、そんなんか?
こ、ここ、こいつらー!
高校生の不純異性交遊は憲法で18歳からって決まってんだぞ!
「今までみんなで水浴びをしていたんだ!」
「ほーん」
「くっ、国家を詐称した罪を償ってもらうからな、アキノトウジ!」
「なんのことだよ……」
俺が罪人でもなんでもデプリにいなけりゃ問題ないのだ。
デプリの国の犯罪なんか、デプリ国内でしか有効ではないからね。
さて、そんなことはいったんおいといて。
とりあえず、勇者たちのせいではないようだった。
勇者たちも驚いていると言うことは、デプリでもない。
だったらいったいどこなんだ。
「ユウト、とりあえず今は言い争ってる場合じゃない」
「ヨシノ……」
「今はこの状況に警戒するべきよ、この感覚は──」
俺に突っかかってくる勇者を制した一人の女の子。
今世の賢者が言う。
「──召喚によるものだから……」
その言葉にゴクリと他の取り巻きが息を飲んだ時だ。
俺たちの様子をじっと見ていた貴族や神官たちが二手に分かれる。
そしてその中央から一人の少年が姿を現した。
「やあやあこれは、よくぞお越しくださいました“真なる”勇者様方」
なんとなく見覚えがあるのだけど。
記憶の中を探れど、あったことない、そんな少年だった。
「真なる? ここはどこで、貴方が誰かを教えていただきたい」
すぐに勇者が尋ねる。
前の召喚でもそうだったが、こういう時すぐ疑問を発言するんだよな、あいつ。
まあ、それで状況とか知れるから助かるんだけど。
「ここはクロイツ。そして僕は君たちを召喚したクロイツ王のアドラー5世だ」
クロイツ……?
聞いたこともない国だけど、どこなんだろう?
「クロイツ……西方諸国の中で唯一魔族を受け入れる背信国か!」
勇者は何か知っているようで、声を荒げていた。
背信とか、よくもまあそんなことが言える。
もともと日本に生きててほぼほぼ無宗教に近い価値観のくせに。
ま、生活の中に馴染んでいるとも言えるけど。
「俺たちにいったい何をした背信国!」
「いやだなあ勇者様」
その様子を見て、特にどうということもなく少年は反論する。
「このご時世、誰でも魔国とは付き合いを始めてますよ? 貿易だってしてますし」
「魔王召喚に再び手を染めようとしてる敗戦かつ戦犯国家は信用できない」
勇者は続ける。
「抑え込む、そのために俺がこの世界に呼ばれた」
……違うだろ。
勇者が召喚されたから、魔国で一部が魔王召喚の魔法陣を使い始めたんだ。
きっかけはお前だ。
勇者のお前がよばれたから、ワンチャン魔王来る可能性が出た。
まったく……。
せっかく飯の途中だったのに、食べられなかった。
とりあえずこの少年が俺たちを召喚した理由に耳を傾けよう。
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