文字の大きさ
大
中
小
282 / 650
本編
583 クロイツ王の話
「──そもそもの話だけど、勇者召喚用の魔法陣があるのはデプリだけじゃ?」
勇者一行の賢者がそんなことを呟く。
確かにそうだ。
昔の西域と魔国の対決だって、手動になったのはデプリの魔法陣。
しかも異世界から勇者を召喚するというもの故に、色々と違和感。
なぜ、俺たちはすでに異世界にいるのに再び呼び出されたのか。
疑問点の一つはそこに尽きるのである。
クロイツ側の目的が何なのか。
そこについても、この問いかけから見えてくる気がした。
「もったいないんですよ」
「なに……? ヨシノの質問の答えになってないぞ!」
依然として鋭い視線を向ける勇者に、アドラーは言う。
「虚栄心しかない豚どもの肥やしになっていくのは、もったいないんです」
「だから答えになってないと」
「今から話しますから、聞いていただけますか?」
笑顔を保ったまま、アドラーは凄む。
少年のような姿だが、その覇気はなんとも言えないものを感じた。
これが権力の作り出す威圧感なのだろうか。
「そちらの方は、随分と聞き分けがいいようですね」
「え、俺ですか?」
急に話を振られてしまった。
そんなこと言われてもなあ……。
聞かなきゃわからないことなんて世の中たくさんある。
「それに俺はただ巻き込まれただけの一般人なんで、外野です」
俺には別に勇者としての使命とか、そんなもんない。
立場としては圧倒的弱者。
だが、だからこそ弱者ゆえに守られて然るべきで強い。
働いたら負けではなく、働かないゆえに勝ち、みたいな。
「嘘をつくなアキノトウジ! お前は国家詐称罪だ!」
「えー、でも追い出したのはデプリの王様だよね?」
「その国王を謀り、自らの使命を放棄したのが罪なんだ!」
「なんだそれは」
「今この場にいるから言っておくが、俺たちと一緒にこの世界を救うことに協力しろ!」
「だから、なんでだよ」
「その後、俺も一緒に罪を償ってやる。そうしたら、みんなで一緒に現世に戻るんだ!」
「いや、別にそう言うの求めてないです」
現世に魅力があるかないかで言えば、ネトゲを続けたい気持ちはある。
だが、たったそれだけだ。
俺に取ってしてみれば、この世界自体がネトゲみたいなもんだ。
新感覚、リアル体験型ネトゲみたいな?
それに友達とか大切な人がいっぱいできたから、戻ることはない。
俺だけが……そう“俺だけ”が戻ることはないのだ。
「まあまあ言い争いはやめましょう」
俺と勇者のにらみ合いに、アドラーが介入する。
「こうしてお互いを憎むようになった事実も、また一つ豚国家らしいですね」
「そうでありますな陛下。これが勇者に格差をつけたデプリの罪」
「まったく遺憾でございます。勇者召喚術式に巻き込まれなんて万に一つもない故」
アドラーに同調するような周りの貴族の声。
どうやら俺の情報もすでに回っていて、デプリは愚かだと言われているようだった。
「うーん、だから俺は勇者じゃないんですけども……」
「豚の古い魔法陣でなくとも、あなたがここに呼び出されたこと、それが勇者の証です」
「いやいや、俺のステータスを見てもらえたら良いですよ。スキルも何もないし」
「いえいえ、僕たちはあなたを放逐したりすることはありません。責任は果たしますので」
「……」
一番面倒なタイプだ。
俺の今の立場からすれば、一番厄介なタイプだ。
素直に放逐してくれた方が良かったよ。
「さて、話が逸れましたが……あなたたちにはしっかりと勇者としての仕事をしていただきます」
仕事?
正直、世界が荒れる存在だから、そっとしておいてほしい。
仕事をするのではなく。
そのまま連合国の飼い犬として居続けた方がいいのだ。
でも、俺は別に帰る気ないからそれでいいけど。
勇者御一行が親元に帰りたいなら、話は変わってくるな……。
はあ、色々と混み合ってて面倒くさい。
「仕事? 俺たちは勇者として成長するべく鍛錬を重ねている」
そして、と勇者は続ける。
「デプリ国内の脅威は着実に収めてきた。さらには、お前たちは知らないだろうが邪竜の復──」
「──ユウト、そこまで言わないで良い」
熱くなる勇者を賢者が止める。
聖女は依然として怯えたように勇者の後ろにぴったりで。
剣聖は今にも剣を抜かんばかりの殺気を放っているようだった。
「……そうだったねヨシノ」
「そうよ。冷静に話を聞くのが一番よ」
「うん……とにかく、勇者としての職務は真っ当にして来た! その上でもう一度お前に問う、目的はなんだ!」
「目的ですか。それは貴方たちがちんたらやっているダンジョン踏破をもう少し早く行っていただくことですよ」
……ダンジョン踏破。
またしてもホットなワードが来てしまったな。
「それはいまやっている途中で、俺たちは奈落墓標の未踏域まで足を進めている!」
「遅い。と告げているのです。あの豚の元では遅い」
「なに! 王国と教団は少しでも危険を避けてくれているんだ!」
面と向かって言われ、憤慨する勇者。
そんな彼にアドラーは言う。
「話を少し戻しますが、召喚魔法陣はデプリにしかないものと仰ってましたよね?」
「そうだな、ヨシノの疑問にも答えてもらおう!」
「ええ、経年劣化の激しい召喚魔法陣ではやはり召喚される勇者も劣化かと」
「なんだと!」
「いえいえ、怒らせたくて言っている訳ではございません」
「ユウト、なんかニヤニヤしててキモいよ~」
「そうだ、その笑顔やめろ! 今すぐに!」
笑顔は関係ないだろうに……。
この発言をしたのは聖女。
俺に最初に嘲笑の視線を向けたのも確かあいつだった。
聖女あるまじきなんだが、マジで。
「この度、僕の国で新たに作り出した召喚術式は、秘密裏に作り出していた魔国と合作術式。ステータスをオープンしていただけたらわかりますが、今の貴方達は混沌の魔王の力を同時に受けし者達となっております」
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
間違えられた番様は、消えました。
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ
異世界に召喚されたその日、巻き込まれた青年に俺が得るはずだったスキルを奪われた。
お詫びとしてチートスキルを授かった俺は、第二の人生くらい好きに生きようと旅に出る。
行き着いた先は、寂れた町の場末の酒場だ。
なぜか客は男ばかりだが、日雇い冒険者や恐妻家の肉屋たちとの気楽な毎日は悪くない。
……ただ一人、どう見ても貴族のような美青年がこの地味な酒場へ通ってくる理由だけは、さっぱりわからない。
「お前らツケはやめろ」
そんな穏やかな日々を送っていたはずなのに、ある日、酒場へ厄介な依頼が舞い込んできた――。
他サイトでも掲載しています。
不定期更新です。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
『お前が運命の番だなんて最悪だ』と言われたので、魔女に愛を消してもらいました
竜族の王子フェリクスの成人の儀で、侯爵令嬢クロエに現れたのは運命の番紋。けれど彼が放ったのは「お前が番だなんて最悪だ」という残酷な言葉だった。
異母妹ばかりを愛する王子、家族に疎まれる日々に耐えきれなくなったクロエは、半地下に住む魔女へ願う。「この愛を消してください」と。
恋も嫉妬も失い、辺境で静かに生き直そうとした彼女のもとに、三年後、王宮から使者が現れる。異母妹の魅了が暴かれ、王子は今さら真実の愛を誓うが、クロエの心にはもう何も響かない。愛されなかった令嬢と、愛を取り戻したい竜王子。番たちの行く末は――。
愛犬たちと異世界辺境スローライフ~王家から逃げたアラサー女子、スマホ通販で快適生活~
女子高生と一緒に異世界へ聖女召喚された、アラサー女子・一ノ瀬玲。
ところが、召喚された二人を待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。
聖女として期待される女子高生とは対照的に、玲は年齢を理由に無視され、王城で居場所すら与えられない。
それでも何とか生きようとしていた玲だったが――ある日、食事に毒を盛られる。
「……私、命狙われてる?」
愛犬の柴犬・雷電とチワワのアビーに助けられ、玲は王城から逃げ出すことを決意する。
逃亡先で冒険者となった玲のランクは、まさかのFランク。
そんな玲を助けてくれたのは、辺境へ向かう騎士団長・レオンハルトだった。
そして玲のスマホには、異世界へ来た時から謎の【異世界モード】が存在していた。
【異世界通販】
【異世界銀行】
【アイテム収納】
【マップ】
【翻訳】
【ステータス】
「……これ、もしかしてチートじゃない?」
王家から逃げながら、愛犬たちと辺境を目指す玲。
魔物と戦ったり、旅をしたり、異世界通販で買い物したり。
ちなみに、記念すべき異世界通販の初購入は――犬のウンチ袋。
王城では散々だったけれど、もう戻るつもりはない。
アラサー女子と愛犬たちの、ちょっと騒がしくて、時々ほのぼのな異世界辺境生活が始まります。
初投稿なので誤字脱字
支離滅裂有るかと思います
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!