装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

文字の大きさ
283 / 650
本編

584 ここでもまた何もなし

しおりを挟む

 クロイツが新たに作り出した召喚術式。
 すなわち勇者召喚用の魔法陣は、魔国の技術を集めたものなのだそうだ。

 これによって……。
 混沌たる魔王の力すらも受け入れた強力無比な勇者を作る。
 それが、クロイツ側の狙いであった。

「こ、この混沌というスキルは……いったい……?」

「ユウトくん! ステータスも倍近くになってるよ!」

「ああ、今確認してるけど、素で2万近くとは……」

「これが魔王の力だっていうの? 恐ろしいわね……」

「ふむ、今の私ならば邪竜とて人たちだな」

 その証拠に、勇者、聖女、賢者、剣聖。
 この四人は『混沌』というスキルを獲得し、ステータスが飛躍的に伸びているようだった。

「新たな勇者が呼び出されるかとも思いましたが……いやはや」

 それぞれ驚く様子を見たアドラーは、クツクツと笑いながら言う。

「あなた方は、歴然たる資格保持者のようだ」

「どういう意味だ……!」

「いえいえ、言葉のままの意味ですよ」

 憤慨する勇者の言葉を受け流すアドラー。
 別に今の勇者が呼び出されなくとも良かったんだろうな。
 新たな勇者が担ぎ上げられれば、それを本物だとする。

 だが、たまたま呼び出されたのが現存勇者で。
 それに対しての皮肉交じりの言葉だったのだ。

「そんな資格いらねー……」

「責任を放棄するなアキノトウジ!」

「ええ……」

 聞こえないレベルで愚痴ったのだけど。
 勇者様はどうやら地獄耳をお持ちのようである。
 怖や怖や、と。

「そもそも責任がどうとか言ってましたけど、またスキルないんですが……?」

 これは俺からアドラーへの苦情。
 そう、またしてもだ。

 またしても、俺のステータスのスキル項目には何もなかった。
 クイックと邪竜のスキル以外はなーんにも。

 要するに、ハズレくじである。
 絶対外れるくじって、なんつーか、いじめかな?
 異世界が、召喚魔法陣が、神が俺をいじめている気がした。

 こないだ見た予知夢的なアレ。
 まさかの正夢かと思ったのだが、少し違うようである。
 勇者御一行と再会してしまうのとデプリ王とは違う少年。
 ここまでは合ってるのに、肝心なところが違っていた。

 はあ……。
 まあ良いけどさ?

 混沌たる魔王の力とかいう物騒なもの、この身に入れたくない。
 余計な宿命をまたもや回避できたのは、すごく運が良かったのかもしれない。

「スキルがないだと? 使役するスキルを持ってるんじゃないのかアキノトウジ!」

「持ってないよ」

「ロック鳥を持ってるという情報はすでに耳にしているぞアキノトウジ!」

「あのさあ、呼び捨てやめてくれる? 一応俺年上なんだけど?」

 呼び捨て、プラスフルネーム呼びは、いささか癪に触ると言うか。
 なんというか……。
 ため息交じりでそう言うと、後ろの聖女がぽろっとこぼした。

「年功序列なんでもう古いですけどね。それにあなたこそ一般人ならここでは勇者であるユウトくんを勇者様と言うべきです。少し生まれが早かったくらいで威張りちらすのは老害ですよねぇ? ……きもっ」

「……」

 こいつには関わらないようにしよう。
 なんか、エリナと同じ匂いを感じた。
 俺が勇者に言い返す時だけ、後ろから顔を出して睨んでくる。
 怖い。

「じゃ、勇者様って呼ばせてもらいますね勇者様~」

「何あの態度! ユウトくん、あいつムカつくよ!」

「落ち着くんだ、カナ。俺は別にどんな呼び方をされても良いんだ。それくらい許容する」

「ユウトくぅん!」

 なにがユウトくぅん、だ。
 胸の谷間に勇者の腕を挟み込みやがって、あいつ。
 ちょっと羨ましいと思ったけど。
 イグニールに頼んだら怒られるよな、さすがに。

「アキノトウジさん、本当に混沌たる魔王のスキルが得られてないのですか?」

 勇者達のやり取りを無視して、アドラーが俺に尋ねる。

「トウジでいいです。ええ、持ってません。調べてもらえたら良いですよ」

 念のため、邪竜の指輪はインベントリ内に戻しておく。
 クイック付きの手袋は、旅の途中で手に入れましたと言えば良いはずだ。
 それでスキルを手に入れました、とスキルなしを強調できる。

「ほお、では取り急ぎ調べて確認を──」

「──そんなはずはない!」

 再び勇者が会話に介入してくる。
 無視しても入ってくるから仕方ない奴だ。

「スキルも何も持たないでロック鳥や強力なスライムを使役できるはずがないだろう!」

「その情報が間違ってるんじゃないですか、勇者様ぁん」

「適当を言うのも良い加減にしたほうがいい。この結論はデプリの王議会が決めた罪だぞ」

「いや、だからそんなの知らないですって。確認したら良いじゃないですか。さっさと」

「閲覧魔道具をも謀るスキルを持っているから意味がないと王様は言っていた!」

「決めつけられても、持ってないものは持ってないです」

「嘘だ!」

「本当ですよ勇者様ぁ~」

「嘘だ!!!!」

 しつこいな。
 面倒臭いからこの会話をさっさと切り上げることにする。
 俺はアドラーを向くと告げた。

「そんな訳で、確認が取れ次第解放してもらえませんか?」

 再召喚によって突然消えたから、みんなが心配している。
 ポチたちは呼び出せるが、ここは何もできないことを貫こうと思った。
 うん、ガチで何もできない一般人を装うぞ。

「あ、それはできません。僕らの国で手厚く保護させていただきます」

「え……無価値ですよ? 邪魔ですよ? 汚い話、うんこ製造機です」

「ハハハ、確かに汚い話ですけど……あなたは“バカ”ではないでしょう?」

 勇者を横目に、アドラーは続ける。

「色々と“存じ上げている”ことも多数ありそうですし、協力していただきます」

「存じ上げていること……」

「ええ、忌まわしきダンジョン、そのコアを使役するあなたなら、ね?」

「……」

「別にとって食おうなんて考えてもおりませんし、ギリスにいるお仲間さんに危害を加えることもありません」

「それは」

「──このまま、協力していただけるならば、ですが」

しおりを挟む
感想 9,839

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。