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本編
589 拉致監禁日々
変な声が響いてきてから、約一週間ほどの時が経過した。
え、次の日じゃないの?
って意見もあるかと思うが、さすがに翌日から動き出すことはなかった。
急な召喚を詫びた期間、と言うものが俺たちには当てられる。
その間に英気を養ったり、混沌たる魔王の力をなじませろと。
「アハハッ、ユウト~! 待って待ってってば~!」
「ほら、さっさと城下町に下りるぞ~。みんなでリフレッシュしよう!」
外から勇者一行の声が聞こえる。
くそが、リア充は良いなくそが。
声が聞こえていたのか、聞こえていないのか。
それはわからないのだが、あいつらは割とこの状況に適応していた。
魔王なんていない、倒すべき敵は違う。
この世界の情勢を改めて教えられて、クロイツ側を受け入れた。
別にデプリ王に対して恨みなんかは持っちゃいないらしい。
ただ、やるべきこと、なすべきことを考えると。
どちらの国に着こうが勇者の責務は揺るがないそうだ。
「この戦いが終われば、やっと帰れるのね……日本に」
「ああ、そうだなヨシノ」
そよ風になびく髪を撫でる賢者に勇者は頷く。
「だから今の内に目一杯異世界を楽しもう!」
「ふん、私はもう少しこの骨のある世界で戦いたかったがな」
「あら、だったらサヨは残ってもいいんじゃない?」
「なに? サヨは残りたいのか? 寂しいけどサヨがそう言うなら」
「──いや私もユウトと一緒に帰るぞ!」
茶化された剣聖が慌てて否定し、そして顔を赤らめた。
「つ、強い者がいなくても……私はお前の側にいれればいい……」
「そっか。だったらみんなで帰ろうか」
そんなきゃっきゃうふふ模様を聞いて思うのだが……。
この戦いが終わったら日本に戻れるとは、いったい。
「……なんの勘違いをしてるんだか」
八大迷宮を倒せば、元の世界に帰れる扉が開くとか。
アドラーがそんな説明をしたのだろうか?
バカか。
ダンジョンの先なんかないぞ、ただの穴蔵だ。
何かとんでもないモノが封印されている可能性はあれど。
次元の壁を乗り越えていける様な産物がある訳がない。
あったらすでに他の世界はダンジョンだらけだ。
それに、日本に帰ることができたとして、だ。
ここで過ごした時も巻き戻る保証はない。
時間の流れが変わってても知らんぞ、俺は。
そもそも過去の勇者が元の世界に帰れたのかすら定かではない。
俺の知る情報では、ライデンの先祖がそういう類の人だった。
彼は、結局この世界で最後まで過ごしたっぽいし……。
ウィンストの師匠とやらも、まだこの世界に存在しているのだ。
小賢者の師匠ってことは、それはもちろん賢者なのである。
召喚された賢者なのか、ただ賢者を自称する者なのか。
またしても定かではないが、今度改めて聞いておこうかな……。
「良いのかね、帰れるなんてホラ吹いて」
強化した勇者がこの世界に牙を向く状況を作る。
それこそまさに厄介だ。
俺はただの巻き込まれだから、安全弁にすらなり得ない。
──コンコン。
外を眺めながら考え込んでいると、ドアが叩かれた。
「どーぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、しっとりとした黒髪を後ろで束ねた美人。
俺のお付きとなった侍女である。
名前は確かベルダ・バチルダとかいう感じだった。
どこかの芸人にいそうなゴツく語呂のいい名前。
「飲み物をお持ちしました」
「あ、はいどうもベルダさん」
ベルダは、減っていない水差しに目を向けながら、少し悲しそうな目をしていた。
「お水くらい飲んでください。そして食事も」
「……そこにおいといてください。じゃもう良いです」
無愛想に見えるかも知れんが、毒の可能性も捨てきれん。
俺はインベントリ内にある水しか飲んでいなかった。
食事に関しては、あれからご飯がちっとも美味しくない。
まったく味を感じないしで食欲がわかないのである。
ポチの飯が恋しいのかなー……?
「トウジ様は……今日も外に出られないのでしょうか……?」
「別に出る必要性ないですし」
彼女の言う通り、この一週間、俺はずっと引きこもっていた。
観光と称して街で遊び歩く勇者と鉢合わせるのも嫌だからね。
それに、そろそろ【神匠】なんだから、国を変えてもやることは同じ。
「それでも狭い部屋に息を詰まらせていないか、陛下がご心配になられています」
「狭い部屋ですか……」
俺の住んでた部屋も、そこそこ広めのデザインだったけど。
今いるクロイツ王城の一室はその3倍くらいある。
広すぎる……。
広すぎるってばよ。
まったくもって落ち着かないので狭い部屋でいいレベルだ。
そう、王室規模だったら物置で良いとさえ思う。
「どうですか、一度クロイツの町並みをご覧になるなど……」
「うーん……」
「クロイツは、今までエールやソーセージが有名な国でしたが、今では魔導機器の研究も飛躍的に進歩しております」
「へー」
「西方諸国と東方魔国の文化が混ざり合う場所で、貿易も盛んに行われておりますから」
町並みが気にならんことはないが、勇者と鉢合わせるのだるい。
それに、前述通りに街で飯を食べる気にもならん。
なんか人がいっぱいいる状況で神経すり減らしてるんだから、ほっといてほしいのだ。
「まっ、逃げませんから、役目が来たら呼びつけてくださいよ」
テコでも動かんぞ、と思っていたらベルダが俺の手を引っ張った。
強制的に椅子から立ち上がらせて言う。
「私がご案内しますから、是非とも街へ行きましょう。気分転換してください」
「うーん……」
「あと、外出中にこの部屋の掃除もしっかり行わせていただきますので」
「それなら仕方ないか」
俺が基本的に寄せ付けないから、掃除もままらない状況だもんなあ。
まー、これもアドラーに言われての行動だろうし、付き合っておくか。
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