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本編
594 我、ここに、終わりをもたらす者也
しおりを挟む「おい骨、勇者はお咎めなしってどう言うことだ」
とばっちりを何とかしてきた俺にカルマがあって、勇者にはない。
なんだそれは納得いかない、心の底からそう思った。
「そういう生き物だと思っておいた方が無難ですぞ~」
「……まったく理不尽かよ」
ろくな装備がなくとも、俺の十倍のステータス。
さらにそこから魔王の力っぽいのを得て二倍。
この新しい力はまだ成長段階らしく、さらに伸びていくとのこと。
せっかく追いつこうと思って頑張ったのに、意味ない。
「そういう貴方こそ、私の目には理不尽な存在に映りますぞ」
「は? どこが? 文字通り節穴には言われたくない」
俺は理不尽ではなく、単純に世の理から逸れているだけ。
くそ、考えないようにしていたのに
どこまで頑張ればいい。
どこまで思い詰めればいい。
自由に生きていきたいだけなのに、俺が何をした。
………………理不尽だ。
ああ、理不尽だ。
「……トウジ、様……?」
「あのー、すごい形相をしておりますが、私また何か癪に触りました~?」
「え? いや、別に癪に触った訳じゃない」
ベルダが不安そうな目で俺を見おり、骨も困った声を上げる。
勇者のことを考えるのはやめておこうか。
できるだけ関わらないように配慮してもらえているが、今後はそうもいかないだろう。
ダンジョン攻略が始まってしまえば、俺は嫌でもあいつらと行動しなきゃいかんのだ。
そこで一々あーだこーだと不満を告げても、この状況はどうにもならん。
「で、俺のカルマがどうしたんだって?」
話を骨のに戻す。
「正直言うと、ぱっと見でヤバいですぞ」
「だからそのヤバいの詳細を話して欲しいんだけど……」
昨今、各家庭を訪問する宗教関係者だってパンフレットを持ち歩く。
自身の宗教が何なのか、他の宗教とどういう違いがあるのか。
それを玄関先で長々と説明してくれると言うのに……この骨は。
「彼らがノーカルマな理由は、ひとえに勇者であるからですぞ」
「ふーん、勇者だったら何やっても許されるのか?」
他人の家のタンスやクロゼットを物色し、壺を割り。
宝物庫の鍵を勝手に開けてアイテムを根こそぎ奪っていく。
そんなゲーム的構造でもあると言うのだろうか。
「……いや、人の法を犯すことに対しては、裁くのは人ですぞ?」
私が言っているのは、と骨は続ける。
「この世界の持つコトワリの中で、彼らの様な存在は保護されているのです」
「……コトワリ? 保護?」
最近そんな世界レベルでものを語る奴が多いなあ。
大それたことを言われても、一市民の俺にはわからん。
「私もかつては大きなカルマを背負い、こんな姿になってしまいました!」
「え、なに? もともとは肉ついてたの?」
「それはそれは豊満なモノが二つここについていたのですぞ~!」
自分の胸を抱えるようにクネクネカクカク動く骨。
こいつ、もともと女だったのか?
……ゴレオと同じような、乙女骸骨みたいな感じか。
「嘆かわしや嘆かわしや! 気づいたら骨になり、そして全てのカルマが見えるようになっていたんですぞ~!」
「あっそう……」
「そうして私は気づいたのです。元の体に戻るためには、全ての人々をカルマから解放する……そうつまりは禊!」
「……いや、別に自分語りは聞いてないんですけど」
コトワリとか保護とか、そういう勇者関連について話して欲しい。
なんだか俺にとって、かなり重要なことなんじゃないかと思えた。
「余生、と言って良いのか、骨だからわかりませんが……」
「多分違うと思います、はい」
「とにかく貴方の背負いしその膨大なカルマ! 私とともに解き放ちましょう!」
「まーた話聞いてないな……勇者とカルマの話をしてくれ……」
「それはさっきも言いました通り、彼らは保護されノーカルマなのです」
故に、と骨は顔をぐいっと俺に近づけて言う。
「同じくして召喚された貴方が、何故ここまで大きなカルマを背負うのか、私気になります」
「──ッ!」
その言葉を聞いたベルダが俺と骨の間に体を割り込ませた。
「まだ箝口令を敷いていると言うに、何故貴方がそれを!」
「箝口令? そんなもの私の前には何の意味も成しませんぞ?」
ケラケラ笑う骨に聞く。
「それはカルマでわかるってこと?」
「いえいえ、魂の存在が全く持って勇者と同じ様に異質、この世の物じゃない」
「……なるほど」
それは当たっている、現に俺はこの世界の人間じゃないからな。
「まあ、正解だよ」
魂が見える理屈が全くわからんのだが、言い当てられたからには頷かない訳にもいかない。
否定しても話がこじれると言うか、長くなるだけだろうし。
事前情報としてその辺を頭に入れておいてもらえると、話は早いだろう。
「でも、箝口令が敷かれてるっぽいから黙っててくれると助かるよ」
だから、あまり他言しない様に言っておいた。
「それはもちろんですぞ~。私、口は固いのです。骨だけに」
「あーはいはい」
「ああっ! 渾身のギャグを流されてしまいましたぞ~!」
しかし、この世の物じゃない……か。
馴染んでも馴染んでも、やはり俺は別の世界の異物。
なんだか、すごくやるせない気持ちになってきた。
──だったらどうしろってんだ。
ろくなスキルも持たずにこの世界に勝手に呼び出されて。
勝手に使命とか与えられても、俺には何もできないぞ。
そう言うのは勝手なクソどもの仕事だろ、クソどもの。
やはりあの時一思いに殺しておくべ──
「…………ト、トウジ……様?」
「ん? ああ、ごめんごめん、なんだっけ?」
「…………これは重症ですなぁ~」
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