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本編
599 麟として、逸れ・1
さて、それから3日ほど経過した。
俺たちはクロイツから南東へ。
深淵樹海を大きく迂回した経路を取り魔国を目指していた。
「──何か、いる」
森の中で唐突に、鼻を引きつかせながら剣聖が呟く。
直ぐに帯刀を引き抜いて、鋭い眼光を虚空に向けた。
「サヨ、どうした?」
「この殺気に気づかないのか、ユウト」
「殺気……確かに、感じるね」
剣聖の言葉を勇者も肯定する。
殺気を感じるとか、まじかこいつら。
獣じみてるな。
「私も地味に感じましたぞ~、向こうにおりますな~」
俺の隣にいた骨も、彼らの話に混ざる。
三日間も行動をともにすれば、嫌でも交流せねばならない。
いつの間にか、俺たちは状況をとりあえずで受け入れていた。
危険の前には、昔の禍根染みたことを出すのは無しの方向である。
「サヨ、向こうに何かがいるのね」
「ああ、とてつもない殺気を持つ、魔物だろうか」
「はわわっ、サヨちゃんでもそう言うってことは……やばいんですか!?」
「カナは俺の後ろに下がってて」
聖女は勇者の後ろにスッと身を置いて、俺は骨を盾にする。
「……トウジ様、逆……逆ですぞ~」
「うっさい、死なないんなら盾になれよ」
「か弱き乙女を盾にするとは、禊はどうしたんですか」
「ケースバイケース」
そして、か弱い乙女ではなく、ただの骨だ。
生前がバインボインの美女とかこいつは抜かすが、今は骨。
そんな昔のことを引き合いに出されても、知らんのだよ。
「ま、戦闘には参加しない契約だろうし、私の後ろにいて」
「はい! 賢者様!」
「……調子狂うから、賢者呼びやめてもらえない?」
「いや、名前知らないので」
一番最初に自己紹介をされたかもしれないが、覚えてない。
いちいち名前を覚えるのも面倒なので、引き続き役職呼びでいいだろう。
「……終わったらとりあえず自己紹介ね。さすがにそこはやっておかないと」
「終わったらって……戦うつもりですか?」
俺の問いかけに、剣聖が答える。
「当たり前だ。敵前逃亡は武士の恥と心得ろ」
「は、はあ……」
武士だって、本当に死ぬかもしれない時は逃げ出すだろうけどな。
敵前逃亡しないのは、バトルジャンキーを超えたサイコパスだ。
「ヨシノ、恐らく魔物だと思うけど、魔力を読んで距離の判断はできる?」
「えーと、少し待ってもらえる?」
勇者に支持された賢者が、目を瞑って杖を掲げたところで。
「距離はメートル換算で500、魔力の質は伝説級ですぞ」
骨がいたって真面目な雰囲気でそう言った。
「む? その情報は本当かな、ビスマルコ」
「ええ、私のボーンアイにはしっかり魂が見えてますから」
勇者は少しだけ訝しむ表情をして、賢者の名前を呼ぶ。
「……ヨシノ」
「今捕捉した。どうやら言ってることは間違いないようね」
「なるほど……」
訝しむ表情を一転させた勇者は、骨に微笑む。
イケメンスマイルだ。
「行きずりの従魔とは言え、魂を見て索敵できるのはとても良いね、君」
「教祖を舐めてもらっちゃあ困るのですぞ~!」
なんだかんだ、この骨も有能な部類か。
魂が見えるボーンアイ、なんとも不思議な目である。
こんな感じで、勇者たちとの間には骨が入ってくれていた。
それ故に、なんだかんだ俺たちは行動を共にできている。
「まったく、迂回ルートなのに、こんな化け物がいるなんてついてないわね……」
そんな賢者のぼやきを聞いて、ふと思った。
深淵樹海を大きく迂回した経路とは、ダンジョン内部を通らない経路。
いわゆる安全ルート、と思いきや……いつだか聞いた話を覚えてるか?
深淵樹海のダンジョンコアであるグルーリングから聞いた話だ。
樹海の広大な森は、自制できるまで常に世界を飲み込まんと拡大する。
その折、人の領域にぶつかる場所では伐採が行われるのだ。
んでもって、そうじゃない場所では、強い魔物によって森の拡大が止まる。
つまり、深淵樹海を迂回したルートを通ると……。
高確率でその魔物の領域にぶち当たってしまう訳である。
それを鑑みると……。
深淵樹海を迂回してつっきるのは中々骨が折れそうな気がした。
でもまあ、勇者だからなんとかなるだろ。
ステータスは現状俺の素ステータスの20倍だからね。
戦闘に関して言えば、絶対に勝ちが揺るがないレベルの存在。
つまり化け物。
彼らがそばにいる限り、俺に付き纏う死相とやらは日の目を見ないのだ。
……皮肉なことに、な。
「アキノトウジ」
ぼんやりしていると、勇者に名前を呼ばれた。
「なんでしょうか」
「手袋のスキルに移動速度を速くするものがあるんだったな?」
「ええ、ありますね」
「金銭による対価は支払っているから、それを俺らに使ってほしい」
「はい、わかりました」
できるだけ勇者の言うことは聞いておくことにする。
ずっと敬語を使っているのも、ひとえにカルマを溜めないためだった。
受け入れることは、彼らと俺は対極に位置する関係上不可能。
しかし、それくらいはしても良いだろうと言うこいつの良心である。
「……」
「なんだよ、骨」
「いえ、とりあえずスキルをお使いいただくと良いでしょう」
「え? スキル? ああ了解了解」
えっと、なんだっけ、クイックを勇者たちに使えば良いのか。
そんな話の流れだったよな……?
そのためにはグループを解除して、彼らを突っ込む必要がある。
俺、骨、勇者、聖女、賢者、剣聖。
ちょうど6人だから、良い感じに事足りるな。
「手でもなんでも良いので、一度触れることになりますが良いですか?」
「支援スキルが得られるなら、俺はなんだって良い」
「私には必要ないが、まあ良いだろう。そのクイックとやらが気になるしな」
「了解。とりあえず全員でタッチしましょうか」
「え、えええ? さ、触らなきゃダメなんですか!? それはちょっと……」
勇者、剣聖、賢者は了承してくれたら、聖女が露骨に嫌がっていた。
こいつが一番俺を目の敵にしてる気がするけど、俺何かやったか?
エリカの時といい、こう言う手合いにはとことん嫌われてるな……。
「別に戦闘しないなら良いですけど。行動全てが倍速になるので、あると便利ですよ」
「し、仕方ないですね!」
聖女の小指をちょんと触って、全員分のグループ招待画面が出現する。
さっさとみんなグループに入れて、クイックを使うのだが……。
あっ……。
そうすると、イグニールやジュノーの位置がわからなくなる。
「どうしたアキノトウジ、固まって」
「あ、いえ」
……骨も言っていたが、終わるまで巻き込むのはダメだ。
もし、グループでの繋がりも因果となるならば。
彼女たちも面倒ごとに大きく晒されてしまう形になる。
……消そう。
今は、消しておこう。
俺はグループ機能にあったイグニールとジュノーを消去。
そして勇者たちと骨を新たに追加した。
なんだかすごく心苦しいが、彼女たちの元にはポチたちがいる。
だから、きっと大丈夫だろう。
俺は俺で、この因果関係を終わらせるために、頑張るのだ。
戦いは勇者たちが引き受けるから、大丈夫だよな……?
「──来る! みんな、戦闘態勢を取るんだ!」
勇者が叫んだ瞬間、俺たちの目の前に巨大な魔物が出現した。
東洋の龍の様な頭部に、全身は馬。
体全体からバチバチと稲妻のようなものを迸らせるその魔物は……麒麟。
=====
このクソトウジ!バカ!
俺たちはクロイツから南東へ。
深淵樹海を大きく迂回した経路を取り魔国を目指していた。
「──何か、いる」
森の中で唐突に、鼻を引きつかせながら剣聖が呟く。
直ぐに帯刀を引き抜いて、鋭い眼光を虚空に向けた。
「サヨ、どうした?」
「この殺気に気づかないのか、ユウト」
「殺気……確かに、感じるね」
剣聖の言葉を勇者も肯定する。
殺気を感じるとか、まじかこいつら。
獣じみてるな。
「私も地味に感じましたぞ~、向こうにおりますな~」
俺の隣にいた骨も、彼らの話に混ざる。
三日間も行動をともにすれば、嫌でも交流せねばならない。
いつの間にか、俺たちは状況をとりあえずで受け入れていた。
危険の前には、昔の禍根染みたことを出すのは無しの方向である。
「サヨ、向こうに何かがいるのね」
「ああ、とてつもない殺気を持つ、魔物だろうか」
「はわわっ、サヨちゃんでもそう言うってことは……やばいんですか!?」
「カナは俺の後ろに下がってて」
聖女は勇者の後ろにスッと身を置いて、俺は骨を盾にする。
「……トウジ様、逆……逆ですぞ~」
「うっさい、死なないんなら盾になれよ」
「か弱き乙女を盾にするとは、禊はどうしたんですか」
「ケースバイケース」
そして、か弱い乙女ではなく、ただの骨だ。
生前がバインボインの美女とかこいつは抜かすが、今は骨。
そんな昔のことを引き合いに出されても、知らんのだよ。
「ま、戦闘には参加しない契約だろうし、私の後ろにいて」
「はい! 賢者様!」
「……調子狂うから、賢者呼びやめてもらえない?」
「いや、名前知らないので」
一番最初に自己紹介をされたかもしれないが、覚えてない。
いちいち名前を覚えるのも面倒なので、引き続き役職呼びでいいだろう。
「……終わったらとりあえず自己紹介ね。さすがにそこはやっておかないと」
「終わったらって……戦うつもりですか?」
俺の問いかけに、剣聖が答える。
「当たり前だ。敵前逃亡は武士の恥と心得ろ」
「は、はあ……」
武士だって、本当に死ぬかもしれない時は逃げ出すだろうけどな。
敵前逃亡しないのは、バトルジャンキーを超えたサイコパスだ。
「ヨシノ、恐らく魔物だと思うけど、魔力を読んで距離の判断はできる?」
「えーと、少し待ってもらえる?」
勇者に支持された賢者が、目を瞑って杖を掲げたところで。
「距離はメートル換算で500、魔力の質は伝説級ですぞ」
骨がいたって真面目な雰囲気でそう言った。
「む? その情報は本当かな、ビスマルコ」
「ええ、私のボーンアイにはしっかり魂が見えてますから」
勇者は少しだけ訝しむ表情をして、賢者の名前を呼ぶ。
「……ヨシノ」
「今捕捉した。どうやら言ってることは間違いないようね」
「なるほど……」
訝しむ表情を一転させた勇者は、骨に微笑む。
イケメンスマイルだ。
「行きずりの従魔とは言え、魂を見て索敵できるのはとても良いね、君」
「教祖を舐めてもらっちゃあ困るのですぞ~!」
なんだかんだ、この骨も有能な部類か。
魂が見えるボーンアイ、なんとも不思議な目である。
こんな感じで、勇者たちとの間には骨が入ってくれていた。
それ故に、なんだかんだ俺たちは行動を共にできている。
「まったく、迂回ルートなのに、こんな化け物がいるなんてついてないわね……」
そんな賢者のぼやきを聞いて、ふと思った。
深淵樹海を大きく迂回した経路とは、ダンジョン内部を通らない経路。
いわゆる安全ルート、と思いきや……いつだか聞いた話を覚えてるか?
深淵樹海のダンジョンコアであるグルーリングから聞いた話だ。
樹海の広大な森は、自制できるまで常に世界を飲み込まんと拡大する。
その折、人の領域にぶつかる場所では伐採が行われるのだ。
んでもって、そうじゃない場所では、強い魔物によって森の拡大が止まる。
つまり、深淵樹海を迂回したルートを通ると……。
高確率でその魔物の領域にぶち当たってしまう訳である。
それを鑑みると……。
深淵樹海を迂回してつっきるのは中々骨が折れそうな気がした。
でもまあ、勇者だからなんとかなるだろ。
ステータスは現状俺の素ステータスの20倍だからね。
戦闘に関して言えば、絶対に勝ちが揺るがないレベルの存在。
つまり化け物。
彼らがそばにいる限り、俺に付き纏う死相とやらは日の目を見ないのだ。
……皮肉なことに、な。
「アキノトウジ」
ぼんやりしていると、勇者に名前を呼ばれた。
「なんでしょうか」
「手袋のスキルに移動速度を速くするものがあるんだったな?」
「ええ、ありますね」
「金銭による対価は支払っているから、それを俺らに使ってほしい」
「はい、わかりました」
できるだけ勇者の言うことは聞いておくことにする。
ずっと敬語を使っているのも、ひとえにカルマを溜めないためだった。
受け入れることは、彼らと俺は対極に位置する関係上不可能。
しかし、それくらいはしても良いだろうと言うこいつの良心である。
「……」
「なんだよ、骨」
「いえ、とりあえずスキルをお使いいただくと良いでしょう」
「え? スキル? ああ了解了解」
えっと、なんだっけ、クイックを勇者たちに使えば良いのか。
そんな話の流れだったよな……?
そのためにはグループを解除して、彼らを突っ込む必要がある。
俺、骨、勇者、聖女、賢者、剣聖。
ちょうど6人だから、良い感じに事足りるな。
「手でもなんでも良いので、一度触れることになりますが良いですか?」
「支援スキルが得られるなら、俺はなんだって良い」
「私には必要ないが、まあ良いだろう。そのクイックとやらが気になるしな」
「了解。とりあえず全員でタッチしましょうか」
「え、えええ? さ、触らなきゃダメなんですか!? それはちょっと……」
勇者、剣聖、賢者は了承してくれたら、聖女が露骨に嫌がっていた。
こいつが一番俺を目の敵にしてる気がするけど、俺何かやったか?
エリカの時といい、こう言う手合いにはとことん嫌われてるな……。
「別に戦闘しないなら良いですけど。行動全てが倍速になるので、あると便利ですよ」
「し、仕方ないですね!」
聖女の小指をちょんと触って、全員分のグループ招待画面が出現する。
さっさとみんなグループに入れて、クイックを使うのだが……。
あっ……。
そうすると、イグニールやジュノーの位置がわからなくなる。
「どうしたアキノトウジ、固まって」
「あ、いえ」
……骨も言っていたが、終わるまで巻き込むのはダメだ。
もし、グループでの繋がりも因果となるならば。
彼女たちも面倒ごとに大きく晒されてしまう形になる。
……消そう。
今は、消しておこう。
俺はグループ機能にあったイグニールとジュノーを消去。
そして勇者たちと骨を新たに追加した。
なんだかすごく心苦しいが、彼女たちの元にはポチたちがいる。
だから、きっと大丈夫だろう。
俺は俺で、この因果関係を終わらせるために、頑張るのだ。
戦いは勇者たちが引き受けるから、大丈夫だよな……?
「──来る! みんな、戦闘態勢を取るんだ!」
勇者が叫んだ瞬間、俺たちの目の前に巨大な魔物が出現した。
東洋の龍の様な頭部に、全身は馬。
体全体からバチバチと稲妻のようなものを迸らせるその魔物は……麒麟。
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このクソトウジ!バカ!
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