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本編
607 ごめんなポチ
しおりを挟む鉄格子の部分をサクッとインベントリに収納して牢屋を出る。
手枷も全部しまっちゃったから、俺に拘束具は効かないのだ。
「ポチッ!」
「アォン!」
もふもふふわふわの感触を、今一度抱きしめよう。
「ふんす!」
「──グハッ!?」
ポチを抱っこしようと屈んで抱擁の構えに。
しかし、がら空きの胴を一発ぶん殴られた。
「ポ、ポチ……」
「アォン」
「え?」
顔を見るに、どうやら怒っているようだ。
……そっか、そうだよな。
何の説明も無しに心配かけちまったもんな……。
「ごめんな、ポチ」
謝ると、ポチは黙って俺の懐に来てくれた。
うん、この感触、これは本物である。
「クゥン」
「もう大丈夫、急にいなくなったりしない」
「アォン」
「後でみんなにも説明するよ、みんなで来てるんだろ?」
そう言うと、頷くポチ。
どうやってここまで来たのか知らないが、合流しようか。
結局、みんな揃っていた方が、万事が上手く収まるんだ。
「あの~、そのコボルトはトウジ様の従魔ですぞ~?」
隣の牢屋から骨の声が聞こえる。
見て見ると、手枷を付けられた骨がいた。
「……こいつは置いてか」
「ちょ、ちょっと待ってくださいですぞ~!」
「冗談だよ、冗談」
なんだかんだ精神汚染から防御してくれていた様だし。
こいつもしっかり連れて行こう。
「つーか、骨と手枷明らかに合ってないけど、自分で逃げれたんじゃないのか?」
「ずーっと意識を失ったままの貴方様を見ておくべく、私も牢屋に入ったんですぞ~!」
「そうなんだ……ってことは、ここがどことか、何があったのかとか、わかる系?」
「ええ、バッチリ状況説明できる系ですぞ~」
「話が早いな、頼む」
関節はずしてさっさと鉄格子をくぐり抜けた骨から、俺はこの状況を聞いた。
俺たちは、魔国の軍よりバインドと呪いを体に受けたそうだ。
なんとも、混沌たる魔王の力を増幅させる闇の魔法とのこと。
俺が魔王の精神世界に捕まったのは、それで力が増幅されたからだ。
で、俺たちはバインドに合っている間に拘束され、魔国に運ばれた。
「勇者さん達に感謝ですね、トウジ様」
「ふーむ……」
話は続く。
どうやら、勇者たちは俺のことをただ連れてこられた無関係者だと言ったらしい。
本当に何のスキルも力も持っていないことから、俺は牢屋に骨と放置されたのだ。
「勇者たちは?」
「それはわかりませんが、この建物にはいると思いますぞ~」
「そもそもここってどこなの?」
「魔国軍部、軍師の座につく偉い人の領地ですぞん」
「へー」
「私にはぶっちゃけバインドも呪いも何も効きませんし、建物が何なのかボーンアイで見ていましたぞ~!」
それは助かるな。
これは明らかにアドラーの思惑から離れた敵対行為。
さっさとこの場所から逃げた方がいいだろう。
もちろん。
勇者たちも連れてな。
このまま囚われとけば良いのかもしれんが、寝目覚めが悪い。
幻の世界では邪竜三兄弟に一瞬で蒸発させてもらったが、現実は違う。
あいつらをしっかり元の世界に突き返すことが、一番良い選択なのだ。
……うん、そうだな。
あいつらはまだ子供だ。
子供に過酷なことをさせるもんじゃねー。
「トウジ様、どうなさるんです?」
「俺の仲間がここに来ているから、合流するよ」
話はそこからだ。
ポチがここにいるってことは、近くにイグニールたちもいるだろう。
割と国家間の争いが再び勃発しそうな状況なのに、よく来てくれた。
……感謝してもしきれない。
しかしながら、得るものも大きかったとしておこうか。
「ポチ、みんなの元に案内してくれ」
「ォン」
俺はポチを抱きかかえると、骨を連れてこの場を後にした。
ちなみに見張りも何人かいるのだが、全部気絶している。
これは……ポ、ポチがやったのか……。
多分コボルトだと侮って、一撃で気絶させられたんだろうなあ……。
どんまい見張り。
うちのポチを侮っちゃいけないぜ。
「そういえば、トウジ様の魂に混ざっていた魔王の力が消えてますけど……どうしたんですぞ?」
「ああ、なんか勇者の加護がない俺の体を奪おうとして来たから、返り討ちにした」
「返り討ち……ですぞ……?」
「うん、これ」
瓶詰めされた力の源、通称ゲンさんを骨に見せる。
すると、骨はあんぐりと口を開けていた。
「に、にわかには信じがたいですぞ~!」
「まっ、みんな揃ったらその辺もまとめて話すから黙っとけ」
「いや、起きたらカルマ100倍くらいに膨れ上がってますぞ~、説明責任ありますぞ!」
「それも後で」
カルマに関しては、多分はちゃめちゃにやっちまったからだろうな……。
マジでカルマが存在するのが今だに疑っちゃいるが、存在するなら俺はヤバイ。
そう理解できた。
まっ、それも人間の欲深さよ。
因果応報が来たとしても、別に悪いことはしてないんだから、もうどうでも良い。
はちゃめちゃに暴れたし、思う存分好きなことやれて、大分スッキリしています。
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