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本編
610 ビクッ
『──なぜじゃ! どうして! 順調に増幅していたはずの力が、なぜここへ来て!』
順調に勇者たちの元へとたどり着くと、そんな声が聞こえて来た。
年端もいかない声色でもったりとした「のじゃ」口調。
『軍師様、落ち着いてください!』
『これが落ち着いていられるかのうて!? せっかく増幅させた魔王の力が一瞬で失せたんじゃぞ!!』
どうやら事が上手く運ばなかったせいで、ヒステリックに喚き散らしているらしい。
それにしても……魔王の力が失せた、か……。
ロイ様が言っていた通りになっている様だった。
精神世界でボコボコにした影響がリアルに波及している。
『チッ、結局紛い物だったということかのう』
『軍師様、上層部がクロイツに渡した魔法陣はまさしく本物でございます』
『だが、それは昔ぶっ壊された不完全な代物だと聞いておるぞ』
『ですが……マーリス様が渡したものは新たに見つかった文献より出て来た完成品だと……』
『マーリスか……あいつはなんか胡散臭くて好かん!』
『ですが、人の身でありながら、若くして参謀にまで上り詰めた方で──』
『──役職が被っとるんじゃ! たわけ! おんしはどっちの味方か!』
『そ、それは軍師カムイ様です!』
相当気が立っているのか、ロリ声のヒステリックな声はずっと響く。
部下に当たり散らして、悪い上司だな……。
「トウジ、行かないし?」
「いや実は複数バインド持ちだから、下手に動くとこっちが危ないんだ」
依然として扉の前で聞き耳を立てている状態。
迂闊に動くと拘束されかねないからだ。
俺たちの戦力は申し分ないのだが、バインドは厄介だ。
さらにまた訳のわからんスキルを使われても困る。
「どうしよっかな……」
と、考えていると……骨が目についた。
「なんですぞ」
白骨間抜け面を見て、ふと思う。
そういやこいつ、バインド効かないんだっけ?
「なんだか……嫌な予感がしますぞ?」
「よし、骨。突入しろ」
「的中しましたぞ」
「さすがカルマ味噌汁教祖だな、行ってこい」
「会話になってないです。カルマ溜まりますぞ」
「良いから行ってこい」
「ええ~! さすがにそれは骨に残酷ですぞ!」
死なないし、バインドも呪いも効かないなら、俺は容赦無くデコイにする。
カルマが溜まる?
もういっぱい溜まり過ぎて、少しくらいならへっちゃらだよな。
行き着くとこまで行ったら急に腹が座る現象である。
『ともかく軍師、どうしますか?』
『処分じゃ、魔王様の力も弱まった勇者なんぞ、いらん』
『大きな外交問題に発展すると思うんですが……』
『クロイツには逸れ麒麟と相打ちになったってことでよい』
『わかりました……はあ、人間の神様に怒られません様に……』
『たわけ。敵の神に祈ってどうするか!』
『でも、怖いじゃないですか……昔の感覚でいくと私たちにとっては邪神みたいなものですよ……』
『ふん、そんなもんおらん。魔王様が妾たちの唯一無二じゃ』
『だったら軍師がやっちゃってくださいよ! 私には無理ですって!』
『使えんやつじゃのう……よい、下がっておれ、妾がやってやろう』
セリフがそろそろやばいな。
ガチで勇者殺されるエンドが目の前にある。
『──逸鬼──』
なんかスキルっぽい詠唱も聞こえてくるし、時間がない。
俺は咄嗟に骨の肋骨をつかんだ。
「ぞ?」
間抜けな声を上げる骨。
「意外と持ちやすい……な!」
俺はそのままドアを開けて、室内に骨をぶん投げた。
中には鎖で繋がれ、板に磔にされた勇者たちがいる。
そしてその上に、黒く巨大な魔法陣が広がっている。
『──踏襲──』
なんとも和風な軍服を身につけた小さな軍師の詠唱が完了した瞬間。
巨大な魔法陣の中から、巨大な鬼の足の様なものがヌッと出現する。
それが勇者を踏み潰そうとする状況で、その間に骨がグッと身を割り込ませた。
「んぞっ!?」
──ガシャッ。
軽快な音が響いて、骨は粉々に砕け散った。
「な、なんじゃ!?」
骨の耐久力だけじゃ、さすがに無理だったかと思ったのだが……。
砕けて鋭利になった骨が、全部、ことごとく、鬼の足の裏に刺さる。
『──ッ!?』
鬼の足が一瞬ビクッと痙攣した。
そして、魔法陣ごとスッと消えていく。
「妾の鬼が! あの骨、ゴミ以下人間の従魔の!」
どういう訳か知らんが、めっちゃ痛そうにしてた!
よし、とにかく勇者は助かったぞ! ナイスだ骨!
「行くぞ! 骨の尊い犠牲を無駄にするな!」
「おりゃー! カチコミだしー!」
「ォン!」
「クエッ!」
「……何この流れ。あと、不死身なのよね……?」
「うむ、バキバキになっても骨の魔力は健在だ。問題ないだろう」
その勢いに便乗して、俺たちは部屋の中へと一気に雪崩れ込んだ。
結局バインドどうするかって話だけど。
バインド来る前になんとかしよう……。
コレクト下げて、水島デコイかな、次の作戦は。
=====
※マーリスは438話で出て来てます。
感想 9,840
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