309 / 650
本編
610 ビクッ
しおりを挟む『──なぜじゃ! どうして! 順調に増幅していたはずの力が、なぜここへ来て!』
順調に勇者たちの元へとたどり着くと、そんな声が聞こえて来た。
年端もいかない声色でもったりとした「のじゃ」口調。
『軍師様、落ち着いてください!』
『これが落ち着いていられるかのうて!? せっかく増幅させた魔王の力が一瞬で失せたんじゃぞ!!』
どうやら事が上手く運ばなかったせいで、ヒステリックに喚き散らしているらしい。
それにしても……魔王の力が失せた、か……。
ロイ様が言っていた通りになっている様だった。
精神世界でボコボコにした影響がリアルに波及している。
『チッ、結局紛い物だったということかのう』
『軍師様、上層部がクロイツに渡した魔法陣はまさしく本物でございます』
『だが、それは昔ぶっ壊された不完全な代物だと聞いておるぞ』
『ですが……マーリス様が渡したものは新たに見つかった文献より出て来た完成品だと……』
『マーリスか……あいつはなんか胡散臭くて好かん!』
『ですが、人の身でありながら、若くして参謀にまで上り詰めた方で──』
『──役職が被っとるんじゃ! たわけ! おんしはどっちの味方か!』
『そ、それは軍師カムイ様です!』
相当気が立っているのか、ロリ声のヒステリックな声はずっと響く。
部下に当たり散らして、悪い上司だな……。
「トウジ、行かないし?」
「いや実は複数バインド持ちだから、下手に動くとこっちが危ないんだ」
依然として扉の前で聞き耳を立てている状態。
迂闊に動くと拘束されかねないからだ。
俺たちの戦力は申し分ないのだが、バインドは厄介だ。
さらにまた訳のわからんスキルを使われても困る。
「どうしよっかな……」
と、考えていると……骨が目についた。
「なんですぞ」
白骨間抜け面を見て、ふと思う。
そういやこいつ、バインド効かないんだっけ?
「なんだか……嫌な予感がしますぞ?」
「よし、骨。突入しろ」
「的中しましたぞ」
「さすがカルマ味噌汁教祖だな、行ってこい」
「会話になってないです。カルマ溜まりますぞ」
「良いから行ってこい」
「ええ~! さすがにそれは骨に残酷ですぞ!」
死なないし、バインドも呪いも効かないなら、俺は容赦無くデコイにする。
カルマが溜まる?
もういっぱい溜まり過ぎて、少しくらいならへっちゃらだよな。
行き着くとこまで行ったら急に腹が座る現象である。
『ともかく軍師、どうしますか?』
『処分じゃ、魔王様の力も弱まった勇者なんぞ、いらん』
『大きな外交問題に発展すると思うんですが……』
『クロイツには逸れ麒麟と相打ちになったってことでよい』
『わかりました……はあ、人間の神様に怒られません様に……』
『たわけ。敵の神に祈ってどうするか!』
『でも、怖いじゃないですか……昔の感覚でいくと私たちにとっては邪神みたいなものですよ……』
『ふん、そんなもんおらん。魔王様が妾たちの唯一無二じゃ』
『だったら軍師がやっちゃってくださいよ! 私には無理ですって!』
『使えんやつじゃのう……よい、下がっておれ、妾がやってやろう』
セリフがそろそろやばいな。
ガチで勇者殺されるエンドが目の前にある。
『──逸鬼──』
なんかスキルっぽい詠唱も聞こえてくるし、時間がない。
俺は咄嗟に骨の肋骨をつかんだ。
「ぞ?」
間抜けな声を上げる骨。
「意外と持ちやすい……な!」
俺はそのままドアを開けて、室内に骨をぶん投げた。
中には鎖で繋がれ、板に磔にされた勇者たちがいる。
そしてその上に、黒く巨大な魔法陣が広がっている。
『──踏襲──』
なんとも和風な軍服を身につけた小さな軍師の詠唱が完了した瞬間。
巨大な魔法陣の中から、巨大な鬼の足の様なものがヌッと出現する。
それが勇者を踏み潰そうとする状況で、その間に骨がグッと身を割り込ませた。
「んぞっ!?」
──ガシャッ。
軽快な音が響いて、骨は粉々に砕け散った。
「な、なんじゃ!?」
骨の耐久力だけじゃ、さすがに無理だったかと思ったのだが……。
砕けて鋭利になった骨が、全部、ことごとく、鬼の足の裏に刺さる。
『──ッ!?』
鬼の足が一瞬ビクッと痙攣した。
そして、魔法陣ごとスッと消えていく。
「妾の鬼が! あの骨、ゴミ以下人間の従魔の!」
どういう訳か知らんが、めっちゃ痛そうにしてた!
よし、とにかく勇者は助かったぞ! ナイスだ骨!
「行くぞ! 骨の尊い犠牲を無駄にするな!」
「おりゃー! カチコミだしー!」
「ォン!」
「クエッ!」
「……何この流れ。あと、不死身なのよね……?」
「うむ、バキバキになっても骨の魔力は健在だ。問題ないだろう」
その勢いに便乗して、俺たちは部屋の中へと一気に雪崩れ込んだ。
結局バインドどうするかって話だけど。
バインド来る前になんとかしよう……。
コレクト下げて、水島デコイかな、次の作戦は。
=====
※マーリスは438話で出て来てます。
94
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。