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本編
615 勇者、おバグり召されました。
大空を浮かぶ飛空船の上。
それを牽引するワシタカくんが甲板から正面に見える。
俺たちは、森に隠しているという飛空船へと戻っていた。
すぐさま飛空船を浮かべ、一旦クロイツを目指して進む。
勇者のスキルが封印されてしまった今。
魔国を抜けて魂枯砂漠に向かうのは不可能だからだ。
事後報告だな、事後報告。
シナリオは……。
麒麟を倒した後、魔国の反乱分子に出会った。
バインドによる奇襲で拘束され、魔国北領へ。
そこでの激闘の末。
軍師の自爆攻撃によって勇者たちのスキルが封印された。
さらにどういう訳か、魔王の力までもが消えてしまった。
だから、移動を断念して仲間を呼んで連れて帰ってきた。
と、言うことにしておこう。
我ながら完璧な言い訳だ。
物事には何だって説明責任があるからな、言い訳は重要。
しかも、この説明には嘘偽りが一つも無いので、完璧さ。
例え嘘発見器を仕込まれていたとしても、絶対バレない。
アドラーが目論んでいたダンジョン攻略も、一時中止だ。
これでかなりの時間を稼ぐ事ができるだろう。
と、言っても……。
職人技能のレベル上げとか、装備を作り直したりとか。
そういうのは全部、魔王の精神世界でやってしまった。
あとは何をする?
流れる雲を見ながらそんなことを考えていると。
「ワッシー! あの巨大な雲の塊に突っ込むしー!」
「ダメよ、ジュノー! 雲の中は危険なんだから!」
「そうなのイグニール?」
「お昼寝してたから無理もないわね。恐ろしいわよ?」
「なんでだし? 雲ふわふわしてて美味しそうだし!」
イグニールとジュノーの会話が聞こえてきた。
ジュノーは雲の中に入りたいらしいが、イグニールは震えている。
どうやら、来る途中で雲の中に突っ込んだらしい。
確かに雲の中って危険らしいな?
積乱雲に突っ込むと、風とか雹とか雷で小さな飛行機はバラバラだ。
見た目自由でふんわりしている雲だが、中身はえげつないのである。
「クラウドって雲みたいな魔物がよくいるのよ」
「雲の魔物? そんなところにもいるの?」
「ええ、相手にするのも面倒だから、基本雲には入らないの」
何とも強い風とか雹ではなく、魔物が危険だったか。
異世界ならではの問題である。
まあどっちにしろ、だ。
竜樹を用いた船体、そして浮遊結晶の前には無意味である。
壊れるとしても、外部に取り付けた推進器くらいだ。
「えー、でもみんな下着姿で雲の中を楽しんでたし?」
「それはたまたまアシッドクラウドっていう種類だったからよ」
「あしっどくらうど?」
「服を溶かしてくるクラウドだから、本当に面倒なの」
「あっ、だから起きて甲板に行ったらみんな下着姿だったし?」
下着、姿……だと……?
どう言うことだ、どう言うことだ、どう言うことだ。
どう言うことだ、どう言うことだ、どう言うことだ。
どうやら、話を側から聞いている感じ。
休憩してたら雲の中に入った。
それでわーっと甲板に出たら、アシッドクラウドがいた。
見事に全員服が溶けた、と言うことらしかった。
イグニールはたまたま俺の作った装備ではなく、新しい寝巻き。
故に下着とアクセサリー以外、溶けたらしい。
オスローに関しては、私服だから全裸だ、どんまい。
ちなみに一緒に乗っていたオカロは、見ていないそうだ。
新たに作った高度計と睨めっこしてて外の様子には一切気がつかなかったとのこと。
ちょっとだけホッとした。
「服しか溶かさないし? なんだか不自然だし」
「そうね。でもイヤらしい雰囲気を感じたから蒸発させてやった」
ふむふむ、アシッドクラウドさんは、そういう趣味をお持ち、と。
ぜひサモンカードが欲しいな、今度こっそり空に行ってみようか。
「……なんだか邪念を感じますぞ」
「うわっ!」
雲を見ながら決意を固めていると、後ろからぬっと骨が姿を現した。
「お前は、ずーっとアシッドクラウドの中にいたって感じだな」
「失礼ですぞ!」
「ハハハ、で、どうしたの、何?」
「何か要件がないとお側に来ちゃダメなんですか?」
ヨヨヨ、と泣き真似をする骨に言う。
「お前はダメ。俺が変な目で見られるから」
「失礼ですぞ! 失礼ですぞ!」
「はいはい、ごめんごめん。そうだ、勇者たちってまだ寝てるのか?」
今の今まで眠ったままの勇者たちを見ていた骨に尋ねる。
そろそろ起きても良いはずなのだが、なかなか起きない。
起きたらうるさそうだから好都合なんだけど。
まるで死んだように眠ったままなのも、少し心配だった。
「寝てますな。まるで死んでしまったように、魂が微動だにしてませんぞ」
「一応聞くけど、死んではないんだよな?」
「割と植物人間に近い状態ではありますぞ」
「ええ……」
「この世とは違う次元の魂には、これまで勇者の加護がついてました」
ファイアウォール的な感じなのかな、それ。
勇者の加護プロテクトがなくなってしまった現状、本来ならば、魔王の侵食が進む。
魔王召喚用の魔法陣もくぐり抜けて、俺たちは再召喚されたのだから。
だが、それも俺が魔王のリソース消耗して問題ない。
「一応、何も問題ないはずなのですが、微動だにしないのは少しおかしいですぞ」
骨はそろそろ目覚めて然るべき状況ですと言う。
「バグったってこと?」
「可能性は高いですぞ。勇者さん方、とうとうおバグり召されました」
「マジか……つまり、どうなる?」
「スキルを封じられて、暴力的なステータス、すなわち生命力も低下」
「うん」
「普通の人が、飲まず食わずの眠ったままで生きれる期間は限られています」
「……なるほど」
つまりは、放置で死ぬってことか。
さすがに寝覚めが悪い。
何やってんだよ勇者、しっかりしろよ……。
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