装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

文字の大きさ
330 / 650
本編

631 過去の痕跡とおサボり司書職・7

しおりを挟む
 アメリカンドッグ販売に着手してから、早一週間。
 寂れた公園は見違える様に活気に満ちていた。

 この流行は一過性のものに過ぎないと思うのだが、今は良い。
 みんなが笑顔で頬張る姿を見て、シルビアも満足そうだった。

 昨日もしきりに「こう言うのだよ、笑顔だよ」と頷いていた。
 こう言う流行ものの弊害として、ゴミが周りに散らばったりもする。
 それは営業の合間にゴミ拾いをしたり、ゴミ箱を設置した。

 クロイツの住民は、ゴミ箱があればみんなまとめて捨ててくれる。
 町中のゴミを拾う俺たちの印象はかなり良く、今後にもつながるのだ。

 さらに、必ず袋に入れて捨ててもらうことをルールとしている。
 そうすることによって、ゴミ箱に偽装したカバンが生きてくるのだ。

 これらはあとでギリスに持ち帰ってダンジョンの分解機でまとめて処分。
 ゴミからも装備製作に必要なアイテムの類を得られるからな、お得だ。
 町中の不用品をしまっちゃうゴミおじさんにジョブチェンジ。

「さて、行くか」

 今日もポチを連れて公園に向かう。
 すると、後ろからイグニールが声をかけてきた。

「一応今日はお休みの日だけど、トウジは公園に行くの?」

「うん、良い感じだからね」

「なら私も行く」

「ダンジョン捜索で色々動いてたと思うから、休んでて良いけど」

 イグニールのおかげで、ダンジョンの情報を無事に得ることができたのだ。
 今日はその労いも込めてみんなでリフレッシュすれば良いと思う。
 それを告げると、彼女はこう言い返した。

「城にいても窮屈だし、合間にクロイツの首都は見て回ったから暇なのよ」

「そうだし! っていうか、トウジ!」

 イグニールの胸元から顔を出したジュノーが、俺のフードに飛び移り言う。

「外壁土木のデカイ人から聞いた! とんでもなく甘い物があるって!」

「ああ、バタードッグか」

「そうそれ! なんで甘いもの同盟盟主のあたしに話を持ってこないし!」

「いや、甘いっつっても、また毛色が違うと言うか……」

 あれはスイーツではなく、ジャンクだ。
 甘いし、カロリーの塊である。
 しかしながら、俺は多分食ったあと腹を壊す、そんな代物。

「甘かったらなんでも良いの! 良いから連れて行くし!」

「はいはい。でも、結構繁盛してるから忙しいと思うぞ」

 故に、あまりジュノーの相手をできるかはわからない。
 一応今の立場的には、俺はいち従業員なのである。
 営業しつつも、何が何本売れたとか帳簿をつけなきゃいけないのだ。

「暇だし手伝うわよ。ね、ジュノー?」

「うっ、食べるだけじゃないの? 食べるだけが良いし」

「ダメよ、わざわざついて行くんだから、それくらいしなきゃ」

「むー、わかった! 働かざるもの食うべからずだし!」

「マジか、良いのか」

 割と人手不足というか、客を捌き切れない状況だったので助かる。
 一応揚げるだけのお手軽調理なんだけど。
 その中でも神経使うバタードッグの買い手がえげつないからね。
 あいつら、平気で10本単位で購入して行くから……。

 おかげで屋台以外にも俺がキッチンを出してそこで調理もする。
 爆裂的な売り上げから、業務用のフライヤーを購入するつもりだ。
 開始一週間にして、もうそこまで行くって、正直ヤバい。

 それでもなんとか出来ているのは、テーブルの後片付けとか。
 寄ってきた他の屋台の連中が兼任してくれてるからだったりする。
 もうアドラーに言って、そのままフードコート化しちまっても良い。
 どうせ子供も遊ばない廃れた公園だったしな。

「ならみんなで行こっか」

 そんな訳で、俺はイグニールたちを連れて公園に向かうことにした。
 ちなみに骨は朝が弱いらしく、まだおねんね中である。
 寝る生物なのか知らんけど、夜から朝にかけてじーっとしているそうだ。
 色々と話を聞くのは、アメリカンドッグ屋が落ち着いてからだな。



 いつもの時刻、みんなを連れて公園にたどり着いた。
 まだかまだかと屋台の開店を待つ市民がいる。
 だが、今日はなんだか様子が少し違っていた。
 ワイワイガヤガヤではなく、異様な雰囲気でザワザワとしている。

「なんだ? 何かあったの……ッ!」

 そう言いかけて、言葉を失う。
 民衆の中で、血だらけになったシルビアがいたからだ。
 ぐったりとして、両腕がおかしな方向に曲がっている。
 彼の屋台も、ボロボロに潰されてしまっていた。

「バタードッグの生みの親! 俺らの神! どうしたんだよ!」

「しっかりしろ! だ、誰か、誰か治療スキル持ってるやつ!」

 巨体のバター犬たちが、悲しい面持ちでシルビアを取り囲んで声をかける。
 暑苦しい絵面だが、そんなどうでも良いことを考えてる場合じゃない。

「いったい、何かあったんですか!」

 ポチと一緒に慌てて近づくと一人の半巨人族の男性が言う。

「わ、わかんねえ、朝から来たらもうこうなっちまってた……!」

 聞けば、来たらすでにこの状態で横たわっていたらしい。
 すぐにシルビアをグループに入れてHPの確認。
 そしてインベントリからポーションを取り出して、振りかける。

「とりあえずこれで大丈夫です!」

 今もなお減っていたHPは、これでなんとかなる。
 これで死ぬことはない。
 大事を免れたことで、ほっと一息ついていると。

「まわりに他の屋台もねえし、いったい何があったんだ……」

 悲痛な目でシルビアを見ていた一人の男がそう呟いた。
 確かに。
 そう思って周りを確認すると、昨日も大繁盛していたはずの公園から屋台が忽然と姿を消していた。

 ……どういうことだ?
 まさか、示しを合わせてシルビアをボコボコにしたのは屋台の連中か?
 いやそれはない。
 昨日まであんなに仲良く、持ちつ持たれつ営業していたのだから。
 この店の人気によって抱き合わせが可能だから、そんな不利益なことしないだろう。

 だとしたら……思い浮かぶのはそれを面白くないと思うライバル。
 この街に店舗構えて営業していた人気店とか。
 確かに客を奪っているから恨む気持ちもわからんでもない。
 ……わからんでもない。

 だが……。
 これは、やり過ぎだろ。
 ふつふつと怒りが心の内側から湧いて来た。

「トウジ、どうしたし……?」

 野次馬の中に、その元人気店のソーセージ屋に立っていた男の顔が見えた。
 俺はクイックを使用し、人ごみをかき分けてそいつを捕まえ、襟口をひねり上げた。

「ひっ!? な、なんだよう!?」

「お前か! お前がやったのか!!」





=====
トウジ、怒る
しおりを挟む
感想 9,839

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。