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本編
638 骨の話
大人では、腰をかがめて進むしかない穴の中へと入って行く。
ゴロゴロしていて、小さな体ではやや覚束ない足取りとなった。
「いたっ」
「ご、ごめんトウジ。ちょっと躓いちゃって」
「いいよ。手でも握る?」
「……有りね。この体だったら特に恥ずかしくないし」
ってことで、みんなで手を繋いで先に進むことになった。
先頭はポチ。
ちみっ子ダンジョン遠足の引率コボルト先生だ。
ぶっちゃけこの小さなダンジョンに人目とか存在しない。
だから恥ずかしがる必要はないのだ。
しかし、普通の状態だったら俺がドギマギしてただろう。
幼少の頃って、異性の子と手を繋いでも違和感ないから良いよね。
傍目で見てても「あら可愛い」で済んじゃうんだからさ。
「で、話戻しますぞ」
後ろかたら骨をカラカラいわしながらついてくる骨が言う。
「どこでその情報を……」
「クロイツの図書館に、賢者が残した書物があったんだよ」
書かれている内容の9割はどうでも良い情報。
だが、過去の勇者たちの名前や簡単な紹介が載っている。
「紅葉氏の書き残したもの……」
「うん、たまたま知り合ったアメリカンドッグ屋の人がクロイツ図書館の元職員で勇者の書物を解読してるらしかったから、色々助ける見返りとして読ませてもらったんだよ」
「寂れた公園の屋台からそこに行き着くあたり、なんともただならぬ因果関係を感じますぞ~」
「ハハハ、言うな」
俺だってなんとなくそう感じているのだ。
でもまあ、それが召喚された者たちの繋がりなんだろう。
「まあ、私が過去の勇者一行の一人だと言うことを理解したとしても、このまま骨でお通しください」
「あら、カコさんって呼ばなくていいのかしら?」
「ぬふぅ、もうその名前で呼ばれなくなって数百年、なんともむず痒くなるんですぞ~! 骨が!」
「ならこれからもボンちゃんだし!」
うむ、俺も今後とも骨のことは骨と呼ぶ。
過去の勇者一行の聖女だが、今は骨だ。
本人も聖女とか名前で呼ばれたくない様だし、だからビスマルコで通していたのだろう。
その気持ちを尊重し、今後とも骨と呼ぶことに決めた。
「それで紅葉氏の残したものには他になんと?」
「運命死ね」
「……うわぁ、書きそう……いっつも私に爆乳死ねって言ってましたからな~!」
ズルイって書かれてたから、相当羨ましかったんだろうね。
過去の賢者は、ずいぶんと貧乳に悩まされていたらしい。
「他にはなんと? もっと重要なことが書かれていたはずですぞ?」
「うん、あとは日本に帰る方法を探し続けるって宣言だったかな」
そう言うと、骨はなんだか神妙な雰囲気になった。
「やはりまだまだ捨て切れてなかったんですな……」
「捨て切れてない?」
「紅葉氏は、確か旦那と結婚する前日に召喚されたらしいんですぞ」
「だからなんとしてでも戻る方法を探してるってことか」
「聞いた話だとそんな感じですぞ~」
賢者はルンルン気分でアニメショップ、アニメライトから出て来たところで。
勇者は仕事の都合でたまたまその通りを通りかかったところで。
剣聖は道場の帰り道で。
聖女はアニメショップの向かいにある教会から出て来たところで。
唐突に光り輝く魔法陣に囲まれて、気づけばこの世界へとやって来ていたそうだ。
「顔も名前も知らない四人が揃ってしまったのは、偶然か、必然か、事実は小説よりも奇なりですぞ~」
「へえ……」
俺が召喚された時とは違って、なんともドラマチックなもんだ。
それぞれが何かしらの役割のようなものを持っている。
俺の時は、高校生ハーレムがまるっと召喚されて、なんだか取ってつけたように誂えられた感じだ。
おまけみたいな感覚で、俺も巻き込まれてしまってるしな。
「なんか、その口ぶりだと戻りたいって意思はなさそうね?」
「……うーむ」
イグニールの言葉に、骨は少し考えてから返す。
「来ちゃったものは仕方ないのですぞ。汝の隣人を愛せよの精神ですぞ」
「そんなもんか?」
「それに、帰れたとしても元の体に戻れるとは限りませんし」
骨は自分の手を見ながら言葉を続ける。
「この体ですと、この世界が合ってます。これが運命なのですよ」
「そっか……」
そりゃそうだ。
今帰ったとしても、骨の体ではただの化け物扱いである。
この世界だからこそ、スケルトンの魔族とか言い訳ができるのだ。
誰かの従魔だってことにしておけば、受け入れてもらえる。
悲しい現実かもしれないが、彼女にとってはその選択しかないのだ。
「どうしてそうなっちゃったし?」
あまり不用意に聞けないことを、ジュノーがポロリと尋ねる。
「消えた龍崎氏を追って旅をしていたら、一度死んじゃったんですぞ」
「えっ!? 死んじゃったし!?」
「ええ、砂漠の流砂に飲まれてじわじわと窒息して乾いて……」
「ひえええっ!!」
ビビるジュノーを脅かすように言う骨の頭をチョップする。
「あんまりビビらすな。今は生きてんだろ?」
「ええ、こんな状態ですがね」
「どうしてそうなったんだってのを聞かせてくれ」
「死にたくないなーって必死にもがいてたら、不思議なことに死ななかったんですぞ」
そうして、流砂の中からなんとか踠いて脱出した頃には骨になっていたらしい。
骨以外の全てを奪われてしまったかのごとく、この姿になっていたそうだ。
聖女の力は失われたが、代わりにカルマや魂が見えたりするようになっていた。
その話を聞いて、俺たちはどんな顔をすれば良いのかわからなくなった。
話を振ったジュノーも、なんだかバツが悪そうな顔をしている。
「ボンちゃん、あたし嫌なこと思い出させちゃったし……」
「良いのですぞ。また再びこうしてたくさんお話できる方々と巡り会えましたから──」
骨はジュノーの頭を撫でながら言う。
「──もう一人じゃないですぞ」
=====
骨編どっかでやります。
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