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本編
654 息吐く暇はない
しおりを挟むみんなでご飯を食べた後、俺はピーちゃんとポチとともに浄水風呂に入り、チビたちを両サイドに侍らせて寝た。
誰がなんと言おうと、俺にとっては最高の夜だった。
「はい快眠。おはよう」
「ォン」
「ぷぴ」
さてと、昨日の夜にギルドから報酬受け取りの催促が来ている旨をマイヤーから聞いたので、向かうことにする。
イグニールとジュノーはまだ寝ている様なので、さっさと報酬受け取りを済ますとするか。
受け取ってない報酬で記憶にあるのは、確か、学園での依頼だよな?
額が額なので、こればっかりはしっかり忘れずに受け取っておかないといけませんのこと。
「おはようございます」
「はい、おはようございます──って、ええ!? トウジさん!!」
早速朝からポチを連れて冒険者ギルドへ向かうと、受付にエリナがいた。
そして俺の顔を見て目を丸くして驚いている。
「今までどこに行ってたんですか! 全然顔出さないから心配だったんですよ!」
「ああ、ちょっと色々あって別の国に」
「フットワーク軽いですね、相変わらず」
……どうだろうか。
個人的にはそこまで軽い方じゃなく、むしろ重たい方なのだけど。
なんだか動かざるを得ない状況が多いから、致し方ないのである。
もっとも良質なドロップアイテム、ドロップケテルを落とす魔物。
そんな存在がいるのならば、俺は何処へだって行くぞ。
なんつーか、その辺のネトゲ廃人要素はまだ抜けていないんだよな。
しかしながら、ゲームみたいな世界なんだから致し方ない。
昨今、VRゲームとやらも到来の予感を匂わせていた現代日本。
俺は一足先にリアルな世界に行ってしまったってわけだね。
帰れないし、腕食われたら千切れるし、痛い。
そんな殺伐としたリアルガチな世界だけど、良い部分だってある。
俺にとってはその良い部分がすごく大きなことだった。
「とりあえず、報酬受け取りに来ました」
「そうですね。では、額が額なので向こうでお渡しいたします」
「はい」
確か、2000万ケテルだったよな?
うむ、良き依頼である。
学園生活はそこまで辛いものではなかった。
楽しく稼げた2000万ということで、大事にしよう。
「あと、トウジさん」
「はい」
奥の応接室のようなところで報酬を受け取ると、エリナと目があった。
指名依頼かな、なんて思っていると……。
「言うの遅れましたけど、Sランク昇格おめでとうございます」
「ああ、そう言えば……」
カリプソからの依頼をクリアして、俺とイグニールはSランク。
そしてパーティーランクもSに昇格を果たしていたのだった。
「ギリス首都で私がーっと思っていたんですがね! 本当は!」
「まあ、結果的にエリナさんの担当でSになれましたよ」
「それはそうですけど。なんかちょっと違うと言うか……」
「良いじゃないですか。これからもエリナさんが担当するSランクってことで、よろしくお願いします」
そう微笑むと、エリナは少しモジモジと髪を触っていた。
「新米の私が、ついに……Sランク冒険者の担当受付なんですね……!」
なんだか感動といった面持ちである。
うむ、とりあえずわりかし面倒臭くないタイプの受付だから引き続き頼みたい。
2ヶ月くらい間を開けても別に何も言われないしな!
普通の受付ならば、自分のノルマをどうたらこうたらってことで言ってくるらしい。
「で、話がまた変わるんですけど」
「はい」
「冒険者ギルドからの依頼がトウジさん宛てに来ています」
「ふむむ?」
「受けるか受けないかは自由っぽいですけど、話だけ聞きますか?」
「はい当然」
話だけは、とりあえず聞く。
そこから受けるか受けないか、という話に移行するのだ。
「トウジさん忙しいようですし、破格の報酬でもないですから、断っても良いですからね?」
「いやまあ、話だけ聞かせてください」
なんだか報酬が良くないと面倒な依頼は基本断るような人間だと思われてるな。
そうなんだけどさ、ジッサイ。
「えーとですね、書類の方も準備はしてます」
イグニールの倍くらいの胸元から紙束となった書類が出る。
「……どうなってんですか、それ」
「いつでもどこでもトウジさんに好きな依頼を提示するための秘技です」
「あっはい」
勤勉だなあ……としか俺は思わなかった。
はだけた胸元見つめるのも悪いし、依頼の話に入る。
「年に一回、一番の冒険者を決める催し事があるんですが、それにギリス代表として出ませんかって話です」
「い、一番の冒険者を決める催し事……?」
「はい。各国のギルドから選りすぐりの冒険者を選出して、難関依頼に挑んでいただく、というものです」
「そんなものが……」
「基本的にはAランク以上という線引きがあり、トウジさん最速Sですし、内部評価も抜群ですからね」
「なるほど」
「でも報酬に関しては、トウジさんの求めるような依頼ではないかもしれません」
「いくらですか」
「優勝にて、ギルドより5000万と依頼達成にて5000万を足した1億ケテルです。今年は他にも貴重な物資や武具の格安貸与など、ギルドからの手厚いサポートが充実しているようですけど、トウジさんにはあんまり必要ないかもです」
「いや、破格じゃないですか報酬」
合計1億ケテルだぞ。
十分すぎるって、それ。
「でも、学園での依頼の方がトータルコストを考えると破格条件ですよ?」
「あれはまあ、そんな感じのやつだって思ってて良いと思います」
裏で色々な思惑があったみたいだしな!
しかしながら、飛空船事業が形になったらC.Bファクトリーの思惑も終わる。
デプリに勇者もいないし、完全に俺たちの勝利が近いものとなっているのだ。
「ちなみにどんな依頼内容なのかってわかるんですか?」
「えーと、泡沫の浄水と呼ばれるものを一雫手に入れてくるというも──」
「──やります」
即答した。
暁、黄昏、白夜、泡沫。
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