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本編
670 トウジ・アキノ・ファクトリー
しおりを挟む「基本的にTAグループカンパニーのファクトリー部門やで?」
「と、とうじ・あきの・ぐるーぷかんぱにー?」
聞けば、一番の要所であるファクトリー部門。
魔導機器研究開発と制作を携わる商会から。
アルバート商会を通して資材を補完する業者。
ギリス国内のいらない魔導機器を引き取る業者。
同じ様な、首都内の家ゴミを引き取りに行く業者。
その他諸々。
色々な商会をデリカシ辺境伯と共に同時設立。
グループ・カンパニー化したそうだ。
「すべての業務をうちで賄うんやーって思ったんやけど」
と、マイヤーは続ける。
「なんや他国と飛空船使って色々とやるんやろ?」
「そうだね」
「やったら、まとめて作っといて良かったわぁ」
国を相手取った商売を行う際の話だ。
その規模や知名度が大きく関わって来る。
知名度はまだこれからにせよ。
規模が出かければ、他の商会に舐められず優位に立てるそうだ。
「もっとも、デカさでC.Bファクトリーを抜くためにしたんやけどね」
「シェアじゃなくて?」
「さすがにシェアではまだまだ抜くことはできんのんや」
他の商会の存在だってある。
しかし、規模の大きさではトップに入れるほどの物。
さらに、あらゆることに携わりやっている感を出す。
そうした準備の上で、一気に大ニュースとして飛空船の登場だ。
「イグ姉たちが飛び立つ姿を見てるから、飛空船の噂がまことしやかに囁かれてんで?」
「巷では?」
「そう、巷でやで」
各国の準備が整っていなくても、遊覧飛行と称して人を乗せることはできる。
さらに空に広告を打つことまで考えているそうだ。
ギリス国内の川を渡るC.Bファクトリーの広告が載った船。
そこから着想を得たとのことである。
「下準備はすでに上々や、自分らで全部賄ったおかげで、他の商会は口出しできん」
「今まで取引先相手で苦労してたもんな……」
「トウジのひっさげて来たデリカシ辺境伯様の後ろ盾のおかげやでほんま!」
「そっか」
俺の縁が役に立ってくれて、何よりだ。
今度、インベントリに眠っているクサイヤチーズを持って行こう。
実を言うと、魔王の精神世界で量産していました。
デブリの王様の部屋に、シュールを忍び込ませるついでである。
クサイヤって栄養価の高いものをあげると増える。
その性質を利用して、増やして嫌がらせして。
さらには、チーズまで大量生産してしまうと言う神業。
俺の性格がまたちょっとだけ悪くなった。
さて、話が逸れたので本題に戻る。
「今までC.Bファクトリーの圧力、貴族の圧力、色々とややっこかったけど……」
マイヤーは俺の手を握りしめて告げた。
「トウジがおったおかげで色々と上手く捗りそうや」
「そうかな?」
「せやで。裏におった奴とか色々とぶっ潰してくれたんやろ?」
他所の密偵が一気に壊滅した、しまっちゃうおじさんダンジョン版の一件である。
「まあ、うっとおしかったからね」
「名が広まれば広まるほど、ほんで邪魔すれば邪魔するほど、商人の一部は汚いやり方をするんや」
「だろうね」
人間誰だってそうだ。
自分の手を汚さない様に汚いことをするか、それを常に考えている。
それが心配だったからこそ。
密偵狩りと急増ガーディアンで自宅を保護したのである。
「密偵壊滅させた後な? オデッセイ島から帰ってきて、トウジが消えてから仕返しさせてもろたで」
マイヤーはにこやかな笑みを浮かべながら、そんなとんでも無いことを言う。
俺が再召喚されてから、確保した密偵らを利用した、スキャンダル返しが行われたそうだ。
「なんかトウジが確保して洗脳とか言うえげつないことをした、アイシャって女がおったやろ?」
「まあいたけど……別に洗脳はしてないぞ……?」
本人が勝手に思い込んだだけなのである。
「どっちも一緒やで」
「一緒にして欲しくないんだけど……」
まあいい、話を進めよう。
今まで一切触れてこなかった、放置していたアイシャのことだ。
とりあえず、未だに俺が主人だと勝手に思い込んでいる。
で、主人の家に住むマイヤーを自分の上司だと、勝手に思い込んでいる。
そこはあくまで、勝手に、だ。
密偵返しとして体良くマイヤーに使われ、今はC.Bファクトリー内部に潜んでいるとのこと。
「向こうの新作とか調べさせて、こっちで早めに出して全部シェア奪ってやるんや!」
意気込むマイヤー。
「骨が聞いたら、カルマめっちゃありますぞ~とか良いそうなセリフだな……」
「商人、業を背負ってなんぼやで?」
あっけらかんと、マイヤーは言葉を続ける。
「武器屋とか兵士とか、戦争や魔物から町や村を守る重要な存在やけど、別の側面から見たら人や魔物を殺す存在で、それを売りつける存在やねんから、いちいちそんなこと気にしとったらどうにもならへん」
「そうだね」
「動けなくなった時、それが命の終わりやとしたら、変な考え方に囚われて凝り固まってしまった商人も、同じ様に動けなくなって終わりの時や。何でも良いから商売して、いかに相手を出し抜きつつ、上手く回りと付き合って行くもんやで?」
「名言だな、名言」
「うちのおとんが言っとった。飢えで苦しむ村が食料を、病魔や怪我で苦しむ村が薬を求めた時、そしてそれを払う対価を相手が持ってない時、どうするかってな」
「難しい問題だ……でもマイヤーはトガルで村が病魔に侵されていた時、助けてたよな?」
ふと、昔マイヤーと一緒に立ち寄った村のことを思い出した。
その時のマイヤーは、さっさと村を出るつもりでいたけど、結局俺と一緒に食料を出したのである。
「それはトウジにええかっこしようと思っただけやで? 実際鑑定して回ったりとか、トウジのもってた食料頼りで、あんまり身を削った様な思いもしとらんしな?」
「そうだったのか。でも、一人でそういうのにぶち当たった時はどうする?」
マイヤーの答えというものを聞いておこう。
「先にトウジ教えてや」
「えー、俺は別に商人でもなんでも無いしなあ……」
「うちだけ言っても恥ずかしいやろ? 一緒に言お?」
「わかった」
ってことで、少しだけ自分なりの考えをまとめて、せーので言い合うことにした。
「その時による」
「その時によるねん」
おお、モロかぶりした。
ハモった状況に、マイヤーはニカッと笑う。
「うちら、やっぱええパートナーやわあ!」
「だね。俺は何かできるなら、自分にできることをするつもりだけど。マイヤーも?」
「せやで。商品もっとって、自分に余裕があるならみんなに配るわ。逆に余裕がない時は、自分の商人としての実力が足りないから、自分を恥じろっておとんには教わった」
「なるほど、良いお父さんだな」
「トガル首都寄った時、トウジも実家来たらええのに。おとんあいたがっとったで地味に」
「いやそれは……」
時と場合によるな。
親御さんに、色々と勘違いされても困るからね……。
「そんな感じでな?」
「うん」
「余裕がある時に他の人に自分の利益を分けたらええねん。それで商売人はバランスをとるんや。人当たりの良いことをしてれば、周りは悪い様には受け取らんものやで? まあ、トウジは出来とったけどな、そこ」
==補足==
クサイヤチーズ……トウジが作り出した自然発生することはない珍味
クサイヤ……生物に寄生し、とんでもない激臭を発生させる魔物
シュール……クサイヤのサモンモンスター、特殊能力は相手を不快にさせる
※話に出てきた村の件は、3巻収録
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