376 / 650
本編
677 小動物として見られる30歳 ※イグ姉視点
「──結論だけ、ですか?」
「ええ、結論だけ」
思わぬ発言で、少しだけ気まずい雰囲気になってしまった。
取り急ぎ、それをなんとかするためだけに寝室に戻ったふりをした。
首をかしげるライデンに、私は簡潔に話す。
「小動物をびっくりさせたらダメなのよ」
「しょ、小動物ですか……?」
さらに首をかしげるライデン。
この子は彼をとてもすごい人だと思ってるから、仕方がない。
「そう、小動物ね」
彼は、基本的には小動物といっても過言じゃない。
大きく背伸びをしているが、ストレスを与えるとすぐに死んでしまう。
そうじゃなくても、どこか別の地へと逃げてしまう可能性も。
「自分の不得意分野に関しては、恐ろしい程にヘタレだから」
「えっと……トウジさんに不得意なことなんであるんですか?」
「あるわよ。いや、むしろ人よりも多い方だと思う」
「あのトウジさんでも、そうなんですね……」
家事は全てポチがやるし、自分のこと以外は基本的にはできない。
最初は人付き合いも頑張ってたみたいだけど。
その必要性が薄れてくると、極々小さな範囲に限定して家から出なくなった。
「人前で取り繕うことには長けてるから、最初は単純に良い人だと思うのよ」
ペルソナを被ることに関しては、えげつない程に上手。
こっちに来る前も、ネット(?)という世界で被り続けてたらしい。
その分、現実世界での自信は皆無って形になっちゃったのかしら。
「近くでよく観察したらわかるわよ」
「そうなんですか……よく見てますね……」
「それなりに長い間パーティー組んでるから、当然ね」
あーだこーだと理由をつけないと動き出せない。
そんな彼だからこそ、結論はちゃんと導き出せる。
ええい、と勢いに任せて行くこともある。
けれど、心の中では次々と何かを考え続けている。
きっとあの沈黙。
心の中ではかなり焦ってたんじゃないかしら?
ガレーやオスローには一言が長いというけど。
彼が心の中で考えてる言葉は3倍以上ありそうね。
それを考えると、とても可愛く見えて来る。
とても愛おしくなって来る。
そんな自分がいる。
「僕の目には作った武器はすごいですし、教師役もハマってましたから、器用な人に見えますけど」
「あー、寝る間も惜しんで家で練習してたから、上手くいってたんじゃないかしら?」
私もポチもゴレオも、ちょくちょく付き合わされていた。
絶対人前では言わないけど、大事なものには努力家である。
人にはしっかり休めとか、休日を取れとかうるさいくせに。
自分は平気で徹夜を続ける。
そのせいで倒れたこともあるのに、人のこと言えないわね。
「寝る間も惜しんで……そうだったんですね、僕も見習わないと」
「でも大事なものに関して、って括りがあるわよ」
どうでも良いことに関しては、とんでもなく手抜きだ。
ライデンはよほど彼に大事にされていると感じる。
黒髪な所とかも、色々と思うところがあるのかしら。
彼の祖先は、もともと彼の故郷の人だと聞くし……。
「とにかく、選択肢っていうストレスをあんまり与えちゃダメな生き物なの」
「そうなんですね……余計なこと聞いてしまってすいません……」
「良いのよ。私が彼のことを好きだってことは本当だから」
まだ彼女とか、付き合いが始まったわけじゃないけれど。
その部分を否定するつもりは毛頭ない。
さらっとそう告げると、ライデンは少し顔を赤くしていた。
「あら、ライデンくんには好きな子はいないのかしら?」
「えーと……気になる存在はいないこともないですけど……」
「へえ、誰なのかしら?」
「同じクラスの子で……って、僕のことは良いじゃないですか!」
ハッと我に返って、首をブルブルと横に振りながら慌てるライデン。
チッ、あと少しで聞き出せてたのに、残念。
「でも同じクラスの子と言えば、派手な制服の子とメガネ委員長よね」
「ちょ、ちょっと! もうその話はおしまいで! おしまいです!」
さらに顔を真っ赤にしながら、ライデンは言葉を続ける。
「僕、ようやく勉強とかやりたいことが見つかって、今はそういうの考えないようにしてるんです」
「そうなの?」
「はい。一つに集中しないと、何もできないタイプですから」
「……それよ、それ」
「え?」
「トウジだって、ライデンくんと同じように今やるべきことをやってる最中なの」
「そうなんですか……?」
器用にこなしているように見えて、実のところは人任せ。
そうしないとパンクすることを彼は弁えている。
だからこその距離感だって、私も理解している。
「トウジさんは、何をやろうとしてるんですか?」
「それは私もよくわからないけど。多分悪いことじゃないわよ」
今の勇者たちと再会して、正直私はどうなってしまうのか心配だった。
折り合いが合わなくて、そして何かを抱え込んでしまう。
そう思っていたのだけれど、蓋を開けてみればやっぱり彼らを救おうとしてる。
元聖女で今は骨のビスマルコだって、なんとかしようとしてる。
そういうところが好き。
これを見ていられるのって、ポチたちや私。
パーティーの特権よね。
「すでにすごい職人なのに……さらにやるべきことがあるなんて……」
「ん?」
「やっぱりトウジさんってすごいですね!」
目をキラキラと輝かせながらグッと握りこぶしを作るライデン。
今の話聞いてたかしら……?
私、失礼な話、トウジのことをくさしてたわけだけど……。
「あと僕、イグニールさんとトウジさんの恋路を邪魔しないように心がけますね!」
「いや、別にそんなに気張らなくても良いんだけど」
まあ……。
健気で素直な子だってことで、そっとしておきましょ。
必ずどこかで、彼の中で、結論は出る。
その時まで、私は待つつもり。
外堀を埋めていくとか、無理して体を使うとか。
いろいろな方法が取れないことはないけれど。
私は彼が何かを諦めるような選択肢。
それだけは絶対に取らないようにしようと、心に決めている。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました