装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

677 小動物として見られる30歳 ※イグ姉視点

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「──結論だけ、ですか?」

「ええ、結論だけ」

 思わぬ発言で、少しだけ気まずい雰囲気になってしまった。
 取り急ぎ、それをなんとかするためだけに寝室に戻ったふりをした。
 首をかしげるライデンに、私は簡潔に話す。

「小動物をびっくりさせたらダメなのよ」

「しょ、小動物ですか……?」

 さらに首をかしげるライデン。
 この子は彼をとてもすごい人だと思ってるから、仕方がない。

「そう、小動物ね」

 彼は、基本的には小動物といっても過言じゃない。
 大きく背伸びをしているが、ストレスを与えるとすぐに死んでしまう。
 そうじゃなくても、どこか別の地へと逃げてしまう可能性も。

「自分の不得意分野に関しては、恐ろしい程にヘタレだから」

「えっと……トウジさんに不得意なことなんであるんですか?」

「あるわよ。いや、むしろ人よりも多い方だと思う」

「あのトウジさんでも、そうなんですね……」

 家事は全てポチがやるし、自分のこと以外は基本的にはできない。
 最初は人付き合いも頑張ってたみたいだけど。
 その必要性が薄れてくると、極々小さな範囲に限定して家から出なくなった。

「人前で取り繕うことには長けてるから、最初は単純に良い人だと思うのよ」

 ペルソナを被ることに関しては、えげつない程に上手。
 こっちに来る前も、ネット(?)という世界で被り続けてたらしい。
 その分、現実世界での自信は皆無って形になっちゃったのかしら。

「近くでよく観察したらわかるわよ」

「そうなんですか……よく見てますね……」

「それなりに長い間パーティー組んでるから、当然ね」

 あーだこーだと理由をつけないと動き出せない。
 そんな彼だからこそ、結論はちゃんと導き出せる。

 ええい、と勢いに任せて行くこともある。
 けれど、心の中では次々と何かを考え続けている。

 きっとあの沈黙。
 心の中ではかなり焦ってたんじゃないかしら?
 ガレーやオスローには一言が長いというけど。
 彼が心の中で考えてる言葉は3倍以上ありそうね。

 それを考えると、とても可愛く見えて来る。
 とても愛おしくなって来る。
 そんな自分がいる。

「僕の目には作った武器はすごいですし、教師役もハマってましたから、器用な人に見えますけど」

「あー、寝る間も惜しんで家で練習してたから、上手くいってたんじゃないかしら?」

 私もポチもゴレオも、ちょくちょく付き合わされていた。
 絶対人前では言わないけど、大事なものには努力家である。

 人にはしっかり休めとか、休日を取れとかうるさいくせに。
 自分は平気で徹夜を続ける。
 そのせいで倒れたこともあるのに、人のこと言えないわね。

「寝る間も惜しんで……そうだったんですね、僕も見習わないと」

「でも大事なものに関して、って括りがあるわよ」

 どうでも良いことに関しては、とんでもなく手抜きだ。
 ライデンはよほど彼に大事にされていると感じる。
 黒髪な所とかも、色々と思うところがあるのかしら。
 彼の祖先は、もともと彼の故郷の人だと聞くし……。

「とにかく、選択肢っていうストレスをあんまり与えちゃダメな生き物なの」

「そうなんですね……余計なこと聞いてしまってすいません……」

「良いのよ。私が彼のことを好きだってことは本当だから」

 まだ彼女とか、付き合いが始まったわけじゃないけれど。
 その部分を否定するつもりは毛頭ない。
 さらっとそう告げると、ライデンは少し顔を赤くしていた。

「あら、ライデンくんには好きな子はいないのかしら?」

「えーと……気になる存在はいないこともないですけど……」

「へえ、誰なのかしら?」

「同じクラスの子で……って、僕のことは良いじゃないですか!」

 ハッと我に返って、首をブルブルと横に振りながら慌てるライデン。
 チッ、あと少しで聞き出せてたのに、残念。

「でも同じクラスの子と言えば、派手な制服の子とメガネ委員長よね」

「ちょ、ちょっと! もうその話はおしまいで! おしまいです!」

 さらに顔を真っ赤にしながら、ライデンは言葉を続ける。

「僕、ようやく勉強とかやりたいことが見つかって、今はそういうの考えないようにしてるんです」

「そうなの?」

「はい。一つに集中しないと、何もできないタイプですから」

「……それよ、それ」

「え?」

「トウジだって、ライデンくんと同じように今やるべきことをやってる最中なの」

「そうなんですか……?」

 器用にこなしているように見えて、実のところは人任せ。
 そうしないとパンクすることを彼は弁えている。
 だからこその距離感だって、私も理解している。

「トウジさんは、何をやろうとしてるんですか?」

「それは私もよくわからないけど。多分悪いことじゃないわよ」

 今の勇者たちと再会して、正直私はどうなってしまうのか心配だった。
 折り合いが合わなくて、そして何かを抱え込んでしまう。
 そう思っていたのだけれど、蓋を開けてみればやっぱり彼らを救おうとしてる。
 元聖女で今は骨のビスマルコだって、なんとかしようとしてる。

 そういうところが好き。
 これを見ていられるのって、ポチたちや私。
 パーティーの特権よね。

「すでにすごい職人なのに……さらにやるべきことがあるなんて……」

「ん?」

「やっぱりトウジさんってすごいですね!」

 目をキラキラと輝かせながらグッと握りこぶしを作るライデン。
 今の話聞いてたかしら……?
 私、失礼な話、トウジのことをくさしてたわけだけど……。

「あと僕、イグニールさんとトウジさんの恋路を邪魔しないように心がけますね!」

「いや、別にそんなに気張らなくても良いんだけど」

 まあ……。
 健気で素直な子だってことで、そっとしておきましょ。

 必ずどこかで、彼の中で、結論は出る。
 その時まで、私は待つつもり。

 外堀を埋めていくとか、無理して体を使うとか。
 いろいろな方法が取れないことはないけれど。
 私は彼が何かを諦めるような選択肢。
 それだけは絶対に取らないようにしようと、心に決めている。
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