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本編
684 今の〈新緑の風〉は、
しおりを挟む──エリーサ・ラシカ。
この世界に来て、お世話になった冒険者パーティー、〈新緑の風〉のメンバーである。
久しぶりに再会したエリーサは、装備に身を包んでいた時より大人びていた。
俺が言うのもなんだが、大人の色気というものが漂っているように感じる。
「お久しぶりです。新緑の風もこの未踏挑戦に?」
「あー……」
エリーサは少し苦笑いしながら答えた。
「今ね、私たち解散しちゃったのよ」
「えっ、……解散?」
解散という言葉にあまり良い印象はない。
何かあったのだろうかと心配していると、エリーサは笑う。
「大丈夫大丈夫、別に揉めて解散した訳じゃないから」
「よかった……」
あんなに良いパーティーだったんだ。
離散するような事態に陥っても、自分たちで何とかするはず。
ふと。
怨嗟に取り憑かれたウィンストと戦った時のことを思い出した。
屍人の軍勢に紛れて、新緑の風のメンツがいる幻覚が見えた。
それだけ、俺の中の冒険者像として、彼らが強く残っている。
彼らがいたからこそ、良いもんだな、と前向きになれたのだ。
あの時、脱出も手伝ってもらったし、命の恩人なのである。
「今は色々あって、ギルドの職員やってるんだけど」
エリーサはバインダーに挟まれた紙をペラペラと捲りながら。
「ちょっと今は忙しいから、後で落ちあいましょ?」
「後で?」
「ええ、今日は大量の冒険者の受付のみで、開会式は明日なのよ」
「なるほど」
開会式なんてものがあるんだな、律儀なこった。
各支部のギルドマスターの他。
デプリや各国からのお偉いさん方も集まるらしい。
それだけ、この未踏挑戦は期待されているのだ。
「久しぶりにあなたの姿を見たら、たぶんみんなも会いたいはず」
「みんな……みんないるんですか?」
アレスも、クラソンも、フーリも。
すごく、すごく会いたい。
是非とも会いに行こうと思った。
「うん、デプリの冒険者って国を出なかったら大抵ここに流れ着くから」
「自宅の場所を教えてもらってもいいですか?」
「了解。そういえばトウジ……」
「はい?」
エリーサは、俺と後ろに控えるイグニールを見ながら言う。
「……パーティー、組んだのね」
「そうですね」
「意地でもパーティー組まないつもりっぽかったし、あの時も一人で街を出ちゃったでしょ?」
あの時、マイヤーに嘘をついて一人で街を出た時のことか。
彼女はその時のことを覚えているようだった。
「あの後、野盗が出たなんて騒ぎがあったから、みんなあなたのことを心配したのよ」
「ハハハ……なんとか逃げ延びて、マイヤーに途中で拾ってもらって生き延びました」
「良かった。生きてたらこうしてまた会えるから、お互い長生きしましょうね」
「はい」
死に別れ以外、別れじゃない。
生きてればまたどこかで必ず再会する。
ガレーの手紙に書いていた通りだ。
命を大事に、異世界を生きて行こう。
「こらー! サボってないで早く仕事しろー!」
「はいはーい!」
奥からエリーサに怒鳴り声が響いて来て、焦ったようにエリーサは仕事に戻った。
「まっ、色々と聞きたいこともあるから、後で私のうちに集合ね!」
「了解です」
「うふふ、本当に色々と聴かせてもらうわよ? 後ろのお嬢さんについても!」
イグニールについて?
……なんだか関係性について色々と言われそうな気がする。
今はパーティーメンバーとしか言えないんだけどなあ……。
「トウジ、あの人誰だし?」
エリーサが去った後、俺のフードからジュノーがひょっこり顔を出した。
「昔、お世話になったパーティー〈新緑の風〉のメンバーだよ」
「へー? パーティー組んでたし?」
「いや、ただの荷物持ちとしてついていっただけかな」
でも、と言葉を付け加える。
「エリーサたちは、俺の理想のパーティー像だよ」
おかげで冒険者という職業に、前向きになれた。
いや、この世界というものに対して……かな?
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