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本編
686 何この雰囲気デジャブ
しおりを挟むそれから、エリーサの用意した夕食をいただきながらの懐かし談義となった。
冒険者を引退して、エリーサはギルド職員、クラソンは鍛冶場見習いをして生計を立てているらしい。
フーリは身重だから働くことはできないとして……。
「アレスさんは?」
「ぼ、僕は……」
「アレスってば、冒険者業以外はてんでダメだったから家で子守ね」
「な、なるほど」
要するに、専業主夫という形の立場になっているようだった。
一応就職活動をしてはいるものの中々上手くはいかないらしい。
「人が良いから、直ぐに働き口なんて見つかりそうですけども」
「逆よ、良すぎてダメになっちゃったわけ」
困ってる人に手を差し伸べすぎた結果、親切が祟って遅刻常習でクビ。
他にも、八百屋で手伝いをして見たものの果物を腹をすかせた子供にあげてクビ。
「店のものを人にあげるって、それ泥棒と一緒よねえ」
「ち、違うよエリーサ! ちゃんと給料から天引きして……」
「なおさらダメよ。これからお金たくさんかかってくるんだから! そう思うでしょ? トウジ」
「そ、そうですね……」
「い、いやあ……あの時は、これから僕にも子供ができるって思ったら……なんだか無性に大事にしなくちゃって思ってですね、ハハハ……」
エレンを大事に抱えながら、苦笑いするアレス。
うーん、笑い事じゃないと思う。
「まあ、そういうところが大好きなところなんだけどね、アレス」
「……ありがとう。僕も早いところ仕事を探さなくちゃだね」
すっかり尻に敷かれているアレスだが、なんだか幸せな家庭って感じがした。
アレスなら、俺と違って日頃の行いも良いからなんとかなるだろう。
「エリーサさんと一緒に、ギルドの職員はダメなんですか?」
「あー……」
俺の一言に、少しだけ間を空けるエリーサ。
アレスが答える。
「一応元冒険者の教官として働くことはできていたんですけど……その……」
「ま、まさか」
「そのまさかで、そこもクビになっちゃいまして……」
「ええー……」
冒険者業くらいなら、今までやってきた分上手くいくのではと思うのだけど。
いったいどうしたのかと聞いてみれば、答えは簡単である。
「基本的に命を落とさないように、って気持ちが先行して、基準に満たない人全員冒険者やめさせちゃったのよね?」
そう、呆れたように言うエリーサ。
なんとも熱が入りすぎて、かなり厳しい鬼教官のような形になってしまったらしい。
Cランク昇格依頼の監査を担当しても、納得がいかなかったら全員を降格。
その結果、やってらんねえと冒険者がやめて別に移ってしまったそうなのだ。
で、クビを言い渡されるという始末。
「なんとも、想像がつかないですね……」
「ハハハ……」
俺の記憶では、なんでもそつなくこなす超絶良い人冒険者ってイメージ。
アレスの隠された一面を知ってしまった。
失敗談によってガリガリと削れていくアレスの精神なのだが、その都度エリーサが「そこが好き」と言ってフォロー。
良い面も、良くない面も、丸っと愛して夫婦ってもんなんだな、と思った。
「で、トウジ」
エリーサの視線がアレスから俺に向く。
「あの時は忙しくて聞けなかったけど、パーティーメンバーの紹介をしてもらおうかしら?」
「そうだね、荷物持ちさんの隣にいる女性、僕も気になってたよ」
フーリも何やらニヤニヤとしながら話に混ざる。
き、来たぞ。
さて、どうやって答えようか……なんて思っていると。
「私はイグニール。トウジを助けたエリーサさんたちとは違って、助けられた側の人間ね」
イグニールがキリッと答えた。
助けられた側、か。
彼女は俺のことをまだ“命の恩人”だと思っている様だ。
「助けられた側? へー、どんな出会いだったのかしら?」
会話は続く。
「簡単よ。困ってたことの一切合切をトウジが全部持ってってくれた」
「ワォ、荷物持ちさん、中々刺激的な出会いをしたって感じだね」
どうどうと言い放たれたその言葉に、フーリが口笛を吹く。
まあヒステリックな最初の掛け合いは、刺激的かもな。
そのあとのオーク騒動とか、Cランク昇格依頼。
思い出しても、割と話に事欠かないネタばかりである。
「助けられてから、そのままなし崩し的にトウジとパーティーにって感じ?」
「荷物持ちさんとパーティー組めるなんて、かなりラッキーだったね!」
「いや、最初はお互いソロでたまたま依頼が重なることが多かった程度よ」
「ねえねえ、その時の話を良く聞かせてもらえる? 面白そう!」
「うん、僕も聞いてみたい。荷物持ちさん、誰ともパーティー組まなそうな雰囲気だったからさ」
「かなり長くなるけど良いのかしら?」
「結構結構! こういう話は大好きなの。子持ちになってから気軽に話せる友達フーリしかいないしね」
「そして僕自身もそう言う話はあまり得意ではないから、色々と仕入れておきたいさ」
「なら良かった。とりあえずパーティーを組んだきっかけは、私からよ。手紙で伝えたの」
「て、手紙? どう言う状況なの?」
「荷物持ちさんと文通でもしてた感じかな?」
手紙という言葉を聞いて、眉をあげるエリーサとフーリ。
これ、パーティーを組んだ時の話だよな?
なんだか少し毛色が違った雰囲気に聞こえるけど……。
本当にパーティーを組んだ時の話だよな?
「ちょっとイグニール。あんまり話が脱線しない様に……」
イグニールとパーティーを組もうと思ったきっかけとか。
その時目標としていたランクに俺だけ届いてなかったとか。
そういうことを話されると恥ずかしくなってくるので止める。
「何言ってんのよトウジ! 脱線してこそなんぼでしょこういう話は!」
「そうだよ荷物持ちさん。僕たちはイグニールさんに聞いてるんだからさ」
案に話の邪魔だからどっか言ってろって言われている気がした。
そんな様子を見たアレスがエレンを抱えたまま立ち上がって言う。
「まあ、こういう話の気恥ずかしさはわかりますよ、トウジさん」
「そうだな。とりあえず隣が俺のうちだから、そっちに居よう」
クラソンまで。
いや、たかがパーティーを組むか組まないかの話なのに。
どうしてこうなった!
なんだよこの雰囲気!
ジュノー残しで、俺はポチを連れてアレスとクラソンについていった。
=====
もうわかってると思いますが、パーティーを組む組まない問題は、トウジの失われた青春。
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