装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

687 先人を見て、思うこと

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 隣にあるクラソンとフーリの部屋で、改めて男だけでくつろぐこととなった。
 女性陣、何を盛り上がると言うのか理解に苦しむ。
 だいたい、俺みたいに懐かしむのではなく、今日初めてあったばかりだぞ。
 何を話すというんだ……。

「トウジさん、言い忘れてました」

「はい?」

 エレンをあやしながら、アレスが言う。

「エリーサから聞きました。もうSランク何ですよね?」

「ああ、まあ……そうですね」

 途中で冒険者業を辞めてしまったアレスたちになんと言おうか迷った。
 しかし隠し通すことは無理なので、なんとなくで肯定しておく。

「おめでとうございます」

「俺からもおめでとう。まさか、一年足らずでとは思わなかった」

「ありがとうございます」

「僕たちはAランク手前で辞めてしまったので、代わりにSランクになってくれたみたいで嬉しいです」

 Aランク手前。
 冒険者として一流クラスになるところでのドロップアウトだったのか。
 少し気になったことがあったので、聞いてみることに。

「やっぱり、子供がいながらの冒険者って難しいんですか?」

 エリーサの話にもあった通り、アレスには冒険者が向いていると感じる。
 ソロでも、新しいパーティーでも、冒険者を続けるわけにはいかなかったのか。

「そうですね」

 あっさりとした返答。
 命の危険がつきまとうから、子供がいる状態では難しいのだろう。
 そりゃそうだよな。

「変な質問をして申し訳ないです」

 謝罪すると、アレスは首を横に振りながら言う。

「いえ、世の中子持ちの冒険者だっていますから、気にしないでください」

 それに、と彼は続ける。

「僕はこのメンバーとずっと一緒に居たいと思ってましたからね」

「そうだな。二人でパーティーを組むのも、新しい人を迎え入れてパーティーを組むのも、なんだか違うと思ったんだ」

 アレスに続いて、クラソンが話す。

「そうしてみんなで話し合って、冒険者業はこのくらいにして、家族として暮らすことにした。俺もフーリもその頃は良い関係だったし、それなりに貯蓄もできていたから、これからは自分のためではなく、家族のために戦うって具合だ」

 珍しく、饒舌に語るクラソン。
 その目には、確かな決意が見て取れた。

 色々と選択肢がある中の、一つである。
 危険を考えれば難しいが、子持ちで冒険者をする人だっているのだ。
 怪我をするまで、自分の夢を追って冒険者を続けた人を俺は知っている。

「で、トウジさん」

「はい」

 エレンをあやしながら、アレスが聞いた。

「パーティーメンバーってイグニールさんだけですか?」

「ええ、まあ」

 ポチは従魔だと思われているのだろう。
 一般的な常識としては、従魔は主人の戦力扱い。
 パーティーメンバーとしては扱われないのだ。

「アォ」

 少しだけポチに目配せをすると、気にするな、とポチは唸る。
 パーティーメンバーではなく、もう家族だ。
 だから、俺の答えはあっているはず。

 あっているはずなんだけど。
 こう言う扱いにも慣れたはずだけど。

 アレスたちに言われた一言が、少しだけ心をえぐる。
 ポチたちには俺と対等な形で接して欲しい。
 そう思うのは俺のわがままなのだろうか。

「今後、メンツを増やす予定とかはないんですか?」

「そうだな、Sランクならば組みたい奴らはごまんといる」

「そういうのは、担当受付のところで全て切ってもらってます」

「まだ、徹底的に他の冒険者との関わりは絶ってるのか?」

「ええ」

 クラソンのセリフを肯定する。
 多分、俺の知らないところでそういうのはたくさんあるだろう。
 だが、キリがない。
 そして、大きな秘密を抱えた現状、深く関わるのは良くない。

 こうしてアレスたちと喋っている今も、ボロが出ないよう喋る。
 すると、キリキリと胃が締め付けられる気持ちになる。
 彼らが良い人だけに、ね。

「でもそれだけ、イグニールさんが特別に見えてきますね」

「特別、ですか……」

「フーリやエリーサのように細かく聞くつもりはないが、彼女だけがメンバーなのは何か理由があるんだろう?」

「……あります」

 彼らの姿を見て、俺はそれなりに羨ましく思っていた。
 日本の価値観で言えば、そろそろ結婚して子供ができる歳である。
 だから自然とそういうものについて考えてしまうものなのだ。

 しかし漠然としている。
 今までこの先について想像ができなかったのだ。

 受け入れてくれる人がいたとして。
 俺が何かを結論を出せるのか?

 異物として。
 子供を作って良いものなのか。
 人を愛して良いものなのか。

 ポチたちのように、決定的な安心材料がないと、俺は決めれない。
 存在を肯定されることを欲しておきながら、自分の中では折り合いが未だについていない。

 ……矛盾だ。

 アレスたちや、ライデンのように、周りからはすでにそう言う目線を向けられる。
 それが“今”の側から見た関係性なのだろうとは、理解できる。

 このままなし崩し的に、このままの関係性が一番俺が気持ち良いと思っていた。
 だが、それでは筋が通らない。
 何かしらの結論を、結論を、結論を……ダメだな、足が前に進まなくなる。

「……クラソン、プライベートなことを聞くのは良くないよ」

「ああ、すまない。悪かったトウジ」

「あ、いえ……」

 考え込んでいるのが表情に出ていたのだろうか。
 アレスの一言によって、俺の思考はこの場に戻された。
 少しだけ、今後の参考として質問しておく。

「アレスさんと、クラソンさん、告ったのって、どっちからなんですか?」

 そう尋ねると。

「……えっ?」

「……はっ?」

 二人は目を丸くしてキョトンとしていた。

「え? なんですかその反応」

「ハハハハ、いや、トウジさんって王都でも追われてましたし、考え込む表情から何かすごい事情があるのかなって思ってたんですけど、出てきた言葉がどっちから告ったんですかって……そりゃ目も丸くなりますって」

「うむ、深刻な表情で何を聞かれるかと思えば、どっちから告ったかって……おいおい……」

 いや、大事なことなんだけどなあ……。
 結果的にこっちに骨を埋める覚悟だとして、どこかで折り合いをつけなくちゃならない。
 その時、俺は彼女に、今目の前にいる彼らのような関係性を求めるだろう。
 そこで大事になってくるのはどうやってその関係性に至ったか……なんだけど?

「アォン……」

 ポチもやれやれと呆れているようだ。
 なんだよ、なんだよ!

「でも、その質問をするってことは、やっぱり彼女は特別な存在なんですね?」

「ええ、そうです」

 一目惚れだ。
 思えばパーティーを組む前は四六時中彼女のことを考えていた気がする。
 なんとも甘酸っぱいことか、と今になって思う。
 俺の恋愛経験値は、高校より以前のままで止まっているのかと感じるくらいな。

「参考になるかわかりませんが、一応答えておきます」

「はい」

「なんとなく、お互いが惹かれあって、いつの間にか。です」

「そうだな」

「他人が関われば自然と友達になっている様に、ずっと一緒にいれば考え方はさらに深いものに変わって行きます。それが、僕たちの場合は結婚して夫婦となる、という物だったんですよ」

「なるほど……」

 参考にならないな、まったく。
 でも、そう告げるアレスの表情は幸せにあふれていた。
 それは結果ではなく。
 自分たちが決めた最良の選択だったから、ってもんだろう。

 俺も、選択を考える時が来たってことか。
 これは。





=====
次回、ガールズ。
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