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本編
693 追っては教団
「貴様たちは、何者だ。どこの誰に遣わされた。殺すぞ」
『殺すぞ』
目を血走らせた王室諸君が、ボコボコになった追跡者に詰め寄る。
恐ろしいぞ、うちの仲良し諸君は。
「うぅ、お、俺たちは雇われただけだっ!」
「誰にだ」
追跡者御一行を指揮していた奴に詰め寄るロイ様。
巨大な顔面に詰め寄られたら、追跡者と言えども恐怖に顔を歪めていた。
「そ、それは言えね──わぷっ!?」
情報を吐かない奴らは、一体のスライムキングの体内に入れる。
普段はこう言うことはしないのだが、今日は水責めの日だ。
「モゴモゴゴボ──ッ!!」
「吐け、吐けば見逃してやる。山を越えて魔国にでも行けばいい」
「きょ、教団だ! 俺らは指示されただけで、事情は知らねえ!」
「教団……か」
吐き出された名前を反芻する。
何となくだが、刺客を差し向けてくる理由はわからんでもない。
俺を面白く思わないデプリ上層部とズブズブ。
さらにギリスでも支援を受けるC.Bファクトリーとバチバチ。
加えて勇者という存在をクロイツに奪われ、形無しなのである。
何故、俺を狙って殺すのか。
それはわからない。
でも、相手が殺しにくる、それだけで十分じゃないか。
「手勢は何人だ。指示した奴の名前を吐け!」
『吐け!』
「ひっ、ひい! 依頼主の名前なんて一々覚えてねえよ!」
「嘘だ!」
『嘘だ!』
「ほっ、本当だ! 依頼は破格の報酬を前払いだったんだ!」
うーむ、わからんでもない。
前払い、そして破格の報酬。
依頼主の個人情報を聞かなくても何とでもなる。
それに、そもそも教団という名前があるからな。
報酬持ってとんずらされかねないかも知れんが。
それをやったら各地に広がる教団の手のものに殺されるだろう。
逃げ切れることはほとんど皆無と言っても過言ではないのだし。
「ロイ様……もう良いよ、処分で」
「……良いのか?」
再び聞き返すロイ様に、俺は頷いて返した。
これ以上、情報は取れそうもない。
敵対してきたのが教団だという事実で十分だ。
あとできっちりお返しするぞ。
まったく、どの世界でも宗教ってもんは恐ろしいな。
俺も一応、勇者と一緒にこの世界に来たんだけどね。
まるで背信者みたいな扱い。
それこそ教団の教義に反するのでは?
上層部に会う機会があったら、言ってやりたい。
俺を崇め奉り、お前ら全員土下座しろってね。
「では、適当な場所に捨ててくる」
「よろしく頼む」
そんな訳で、追跡者との戦いは終わりを迎えた。
あっけないが、戦力的にはこんなものだろう。
たかがスライムと侮るなかれ。
スライムはな、邪竜イビルテールだってぶっ殺すんだ。
昔やっていたゲームでもそうだった。
最強と言われる大魔法を覚えるんだよ、スライムは。
「ぷるぁぷるぁ」
「……いきなりなんですぞ、トウジ様」
「いや、自分を鼓舞してただけ」
ぷるぁぷるぁ言ってれば、何となく俺も強くなれた気がする。
気がするんだ。
「やるじゃねえか、トウジ・アキノ」
「?」
戦いが終わって、一息ついて飛空船に戻ろうとしたところで、奥から声が響く。
茂みがガサガサと揺れて、何者かが俺たちの前に姿を現した。
「誰だ」
月明かりに照らされた顔を見ると、蛇の入れ墨をした男だった。
こいつは、〈ヒュドラ〉のクランマスター。
「ハウザー……」
「よお、見てたぜ。やべぇスライムを従えてんのな、噂通りだ」
そんなことを言いながら近づいてくるハウザー。
自然体のまま片手剣の柄を握りながら骨に聞く。
「骨、気づかなかったのか?」
「……すいません、数が多かったので見落としてました」
「ハハッ、索敵スキルを持ってる仲間がいる様だが、俺たちは賞金狩りクラン。気配だっていつでも消せんだぜ?」
いや、見えてたがお前らのカルマが、追跡者と同じ感じだったと暗に言ってるのだけど。
まあ良いや、ブーメラン野郎には何を言っても通じないだろう。
「何の用だ。お前らも、さっきの連中と同じ感じなの?」
「ちげえよ。取引しに来た」
「取引?」
「俺はある方の命令でお前らを監視する様に言われている。さっきのバカどもの仲間連中を知ってんのさ」
「へえ……」
「悪くねえと思うぞ? これからのお前の身を案じて、俺は進言してやろうってんだからな」
「誰ですか?」
「先に俺からの要求を伝えて良いか? それを受けるなら情報を教えてやる」
どんな要求をつけられるかたまったもんじゃないな。
正直知らなくても良いのだけど、金で解決できればそれで良いか。
「お金が欲しいのなら、言い値で出しますよ」
1000万ケテルくらいだったら、ポンと出してやっても良い。
有益な情報じゃなかったら、さよならばいばいだけど。
「泡沫の浄水の在処をつかんだら、俺にも半分浄水を分けてもらおう」
「ええ……?」
「てっきり金目当てかと思いましたけど、そうじゃないんですぞ?」
骨の問いかけにハウザーは答える。
「金? そんなもん普通に働いてりゃ別に困らねえからなあ」
そんなことより泡沫の浄水だ、とハウザーは言葉を続ける。
「見た感じ、お前らはどの冒険者よりも泡沫の浄水に近い位置にいる。その勝ち馬に乗りつつ、浄水を恵んで欲しいのさ。一番の冒険者とかいう栄誉、そしてそれに伴った金なんてお前にくれてやるよ」
俺もそれは別に欲しくないのだけど。
一つだけ聞いてみるか。
「何でそんなに浄水を欲しがるんですか?」
「それを言っても、俺の中の価値なんか、お前には理解できないだろ? 価値は人それぞれだからな」
「まあ、確かに」
そこは話したくない、ということなので、素直に聞くのをやめる。
ともかく、情報を渡す代わりに取ってきて分けてくれとのことなので、頷いておくか。
「要求を飲むので、情報をください。でも、相応なものじゃないと分けませんからね?」
「約束だな? 一応、違うものを渡されたくねえから、俺らも少し離れてついてくぜ?」
「どうぞ」
隠れられるより、わかる位置にいた方が手っ取り早いのでそれはオッケー。
「成立だな。俺からの情報は、お前らを狙っている奴がやばい奴だってことだ」
「やばい奴?」
「さっきのバカどもとは話がちげえ、それくらいやべえ奴」
なんだろう、と構えていると、ハウザーは言った。
「教団の聖人様が、お前らを神敵と見定めて未踏挑戦に参加してんだ。ついでに、泡沫の浄水も最初に見つけた冒険者を殺して奪ってやろうだなんて算段も企ててやがる。転がってた死体は、基本的にはそいつらがやったもんで、もうこの山はこの世で一番危険な場所に様変わりってな」
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