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本編
700 泡沫の浄水の泉
しおりを挟むさて、すべてのハイオークとエルフたちを埋葬し終えた。
酷いもんだ。
でもこの事実を受け止めないと、前には進めない。
ピーちゃん……。
どうするべきか、非常に悩むところである。
ここが本当にピーちゃんの故郷かどうか、という可能性。
しかし、あの怒り様。
あれを見ると、本能が故郷だと告げていた様にも感じる。
「キングさん」
「プルァ?」
「ピーちゃんに会ったら、なんて言えばいいんだろうな」
「……プルァ」
自分で考えろ、だとさ。
とりあえず、泡沫の浄水は後回しにして、さっさと家に帰るべきか。
結局、情報も得られなかったし、こうなったら未踏挑戦どころじゃない。
ここは危険地帯で、いつまでもいる訳にもいかんのだ。
「帰って、美味しいものを食べよう。それが一番良い」
励ましとか、そういう部分で下手に突くと逆効果かもしれない。
いつもと同じ日々を過ごしつつ、美味しいご飯を食べるんだ。
ここがピーちゃんの家だよ、居ていいんだよ、と全力で伝える。
「うん、そうしよう」
「プルァ」
キングさんも、それが良いと頷いてくれている。
「よし、ならみんなの場所に戻ろう」
土で汚れた手を洗おうと、惨状とは打って変わったように綺麗だった泉に手をつけた。
すると、手の汚れが一瞬のうちに綺麗になってしまった。
汚れが、泡に変わってブクブクとかき消えていくような感じである。
「……ん?」
「プルァ?」
どうした、と俺の声を聞いてキングさんが近寄ってきた。
「なんか普通の水じゃないっぽくないかな、と思って」
「プルァ」
見てみろ、と言うので、一応確かめて見ることに。
【泡沫の浄水の泉】
泡沫の浄水が湧き出る泉。
ハイオークが手入れをしないと、すぐにただの浄水の泉になってしまう。
「う、泡沫の浄水だ!!」
「プルァ!!」
キングさんと顔を見合わせて驚く。
まさか、探していたものがこんなところにあるなんて!
しかも説明書きにハイオークが手入れをしないと、とある。
これは、これは、これは!
ピーちゃんがダンジョンの浄水の泉を何とかすれば、無限確保可能じゃないか?
いや……。
ピーちゃんがうちにいて良い理由がそれだと、なんか使ってるみたいで嫌だ。
この事実は伏せておくことにして、今ある分をポンプで汲み上げよう。
泡沫だけに、汲み上げたとしてもすぐにただの浄水になるかもしれない。
だったら実質泡沫の泉は誰も手に入れられない、そんな代物かもな。
この情報が公になると、それこそハイオーク狩りみたいなことになりかねない。
胸の内にしまっておこう。
泡沫の浄水自体は、あとあと新たに情報を仕入れたとして、ピーちゃんに告げる。
そして、ごくごく自然に作れる方法を模索していけば良いのだ。
「とにかく、もう未踏挑戦とかどうでもよくなったな」
帰ろう。
浄水よりも、大事なのは、優先すべきなのは、ピーちゃんの心のケア。
こんな国に長居してたら、こっちまで心が腐って変な匂いがつきそうだ。
やっぱりロクでもねえ国だよ、ここ。
元〈新緑の風〉の人たちも、ギリスに引っ越しさせて雇おう。
できる限り、俺の知り合い連中は守る方向で考えるのだ。
確かに、キングさんの言う通り。
遠くで起こってることには対応できない。
しかし、近場だったらどうだ?
手の届く範囲、目を光らせられる範囲。
それをもっともっと広くしていくと、良いんじゃないか?
俺は、そのためだったら何でもやるぞ。
こんな悲しい気持ちには二度となりたくないし、させたくない。
それが俺の覚悟ってもんである。
「それじゃ、キングさん」
「プルァ」
仕事は終わったから図鑑に戻せという圧力を感じたので戻す。
俺はグリフィーに乗ってさっさとみんなの場所に戻るだけだが──
「──ッ」
図鑑のスロットに一つ空きが出来ていた。
=====
泡沫はうたかたと読みます。
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