装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

709 イグナイト家 ※イグニール視点


「お嬢様、軽食をお持ちしましたので」

「……ありがとう」

 無駄に広い部屋、侍女がワゴンに茶菓子を乗せてやってくる。
 あまり受け取りたくはないのだけど。
 運んでくる侍女は悪くないので、素直に受け取るしかなかった。
 指示を出しているのは、この邸宅の主人であるイグナイト公爵。

「イグニール、お菓子食べてもいいし?」

「ええ、良いわよ」

「わーい!」

 ワゴンに飛びついて中にあった茶受けのお菓子を貪り出すジュノー。
 そんな様子を眺めながら、私はため息をついていた。

「はあ……呑気なものね……」

 でも、その呑気さが今はありがたいと思う。

「まさか、イグニールさんがこの家の娘さんだったとは驚きですぞ~」

「私もよ……それに娘ではなく、ただの血縁者ね」

 正しくは、私の母が今のイグナイト公爵の姉だったと言うべきだろう。
 要するに、とんでもなく地位の高い叔父さんがいたってわけ。

「まさか、こんなことになるなんて思っても見なかった」

「ですなあ~」

「あんたの相変わらず呑気なものね……」

「ここで色々と考えても仕方ないですぞ」

 肩をすくめて飄々としつつも、骨は急に真剣な素ぶりで言葉を続ける。

「で、わざわざ向こうの思惑に乗ってこの家まで来て、どうするおつもりですぞ?」

「さすがにトウジを巻き込めないから自分で対処するつもりよ」

 すでに教団とバチバチにやりあっているトウジに、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
 だから、私はハウザーの言葉に乗って、わざわざこの家に案内されたのだ。
 人質がいたとしても、今の私なら圧倒的火力でねじ伏せる事も可能だとは思う。
 しかし、そうしない理由が色々あった。

「今の当主であるイグナイト公爵には、跡継ぎが恵まれなかったみたい」

「だからわざわざイグニールさんを見つけ出して、呼び戻したんですぞ?」

「ええ、だいたいそうね」

 厳密には、監視されていたと言う形かしら?
 去年あたり、私はトウジではない三人とパーティーを組んでいた。
 あのブレイとフレイの他にもう一人いた女性が、監視役らしい。
 この屋敷に戻って来た時に再会して、少しだけ驚いたのを覚えている。

 監視の目はトガルだけで、ギリスに移ってからはトウジのおかげで監視は無し。
 でもそれが逆に、こうして戻って来たのを機会にイグナイト家を動かすことになった。
 どうやら、もう自由にさせてはおかないと、そんなところである。

「イグニールさん、対処するってことは、この家を継ぐおつもりですか?」

「……それで丸く収まるなら、考えない事もないわね」

「つまりは、ご結婚もしくはご婚約なさると言う事ですか」

「……」

 今まで縁を切ったように、別の国で生きて来た私が当主になることはない。
 きっと、どこからか引っ張ってきた貴族との婚姻を結ばせるために連れ戻された。
 そう考えるのが妥当である。

「貴族の結婚って、面倒臭いわよね」

「ですぞ~、しがらみが非常に多いですぞ~」

 普通に好きな人と好きなように、だなんてご法度。
 私の母という前科があるからだろうか。
 今の公爵は、その辺をすごく神経質に考えていて、トウジとの関係性を断つことに拘っている。

「でも、それで良いんですぞ?」

「良い訳ないでしょ」

 一応義理立てとしてついて来たけど、ただで乗っかるつもりはない。
 私が側にいたい相手は、もうずっと前から決まっている。
 その後の面倒ごとを考えると、ここでケリをつけて置かなきゃと思った。

「一番穏便に済ます方法は、私があえてじゃじゃ馬みたいに振る舞うことね」

「ありがちな手ですな~」

「形式だけの婚姻でも何でも良い。一線を越えるつもりも子供を作るつもりもない」

 貴族なんだから、そういうのは愛人とやれば良い、と私は思う。
 特別階級にのみ、重婚は認められているからこそできる手段だ。

「でも初めての結婚って、好きな人とやりたいですぞ~」

「そうだけど、立場が違うからそこは仕方ないわよ」

「思ったよりもドライですぞ」

「本当は嫌だけど。そういう血の繋がりがある上で、母の弟に対して非情にはなれない」

 世の中が敵か味方か、だったら楽だったと思う。
 しかし、そんな考え方ができるほど落ちぶれてもいない。
 この血縁というものが、もしかしたらトウジためになるかもしれない。
 何か力となり、脅威に対しての一手になることがあれば、それでいい。

「イグニール様、公爵がお呼びです」

 そんなことを考えていると、侍女が私を呼びに来た。
 見たことある顔。
 前にパーティーを組んでいた、影の薄い女性だった。

「様づけで呼ばれるのって、相変わらず慣れないわね。レミリオ」

「慣れてくださいませ」

 そんな言葉を交わしながら、私は公爵の元へと案内された。
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