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本編
710 イグナイト家当主 ※イグニール視点
しおりを挟む「よく来たイグニール。イグニアの娘よ」
案内された部屋に入ると、かっちりとした服に身を包みを赤髪オールバックにした壮年の男がいた。
この男がイグナイト家現当主、イグニス・イグナイト。
「その燃えるような赤毛、良い色だな、美しい」
「……」
唐突に言われたその一言。
どうやって返答しようか考えていると、イグニスは続ける。
「何を恐れている、ここは今日からお前の家だ」
「恐れてなんかいません」
ただ、目の前にいる殺気に満ち溢れた男が、私の血縁者であること。
それに対して、少しだけ嫌悪感が湧いただけ。
「それより、約束は聞いているのでしょうか?」
「……パーティーを組んでいた男には、手を出すなと言うことか?」
「ええ。そして話が全て済んだら、ここに連れて来た仲間の解放も」
ジュノー、骨、ピーちゃん。
私と一緒にこの邸宅に連れてこられた仲間、いや家族たち。
骨やジュノーはともかく。
ハイオークの子供であるピーちゃんだけは守らないと……。
今は泣き疲れて眠っているけど。
起きた時が心配ね。
まだ子供なのに、色々と状況が変わり過ぎてついていけなくなる。
大きなストレスを抱えさせることだけは、避けたいところだった。
「検討しよう。姉と同じで、お前も再び逃げ出す前科を持っている」
故に、まだ解放はできない、とイグニスは言った。
逃げ出す、とは私の母、イグニアのことだろうか。
「イグニス様は、長男ですよね? だったら母は関係ないはずでは?」
「……それが関係あるのだよ。家宝を持ち逃げしたという事実がな」
「家宝……?」
確かにあの杖はトウジの力によって大きな変貌を遂げた。
家宝、いや国宝に近い存在である。
だが、私が聞かされていたのは形見の杖だということだけだった。
「で、杖はどうした?」
この男は、杖を欲しがっている。
どうやら、私を連れ戻した理由はそこにあるのかもしれない。
「質に出したわよ、あんな古びた杖」
「なんだと?」
私は、価値がわからない風を装いながら返答する。
聞き出そう、この男から。
本当の目的がわかれば、他にも色々と打つ手が増えるかもしれない。
「私を連れ戻した理由は、他の貴族との婚姻を結ばせるためでしょう?」
イグニスに言う。
「あんなボロボロの杖に興味はないし、さっさと贅沢させてもらえる?」
お母さん、ごめん。
でも、あの杖はコフリータを通したイフリータに言われて、置いてきた。
きっとポチがトウジに持って行ってくれているはず。
トウジの従魔だってバレている状況だと、ポチは私と一緒に来れなかった。
だけど、だからこそトウジに私の状況は伝わっていると思う。
これ以上。
彼に敵が増えてしまうと、本当にいっぱいになって壊れてしまう。
それがわかっているから、私は一人で来たのだ。
全く今まで関係がなかったとは言え、これはうちの問題である。
だったら、ここは一人で何とかしなきゃね……。
こういう時に助けてくれる英雄って、すごくときめく存在だけど。
そんなのいらない。
一人で漠然とした敵を相手にしている彼の隣に立つために。
私も、ここは一人で切り抜けないと、いけないのだ。
「精一杯の虚勢か? あの杖は精霊の力を宿していることは知っている」
イグニスはぎろりと鋭い目を向けながら続ける。
「豪炎と呼ばれたお前の名は、もちろん私にも届いているのだぞ」
「……」
「精霊の力を宿す杖を質に出した、そんな嘘が私に通じると思うかね」
ゆっくりと立ち上がり、イグニスは近づいて来る。
「お前相手に腹芸なんぞしない。知りたいなら教えてやる、私の目的をな」
燃えるように全身から迸る魔力。
これは、脅しなのだろうか。
でも、今までもっとすごい脅しを見て来たから、そこまでだった。
「皮肉なものだ」
私がそう感じているとはつゆ知らず、イグニスは続ける。
「私の息子が加護を宿しておらず、お前が持っているとはな」
「子宝に恵まれなかったって聞いたのだけど……?」
接近されると、熱を帯びた巨大な魔力が私を包み込んだ。
「加護なき者は、イグナイト家には必要ない」
「……つまり?」
「例え血を分けた息子であっても、そこは譲れんのだよ」
「私が聞きたいのは、息子さんはどうしたのってことよ」
「訓練中に焼け死んだ」
……クズ親め。
こんなのが私の血縁者だなんて、信じられない。
やり返す様に、私は自分の魔力を解放した。
押し返す。
「なっ──」
「母が何故この家を捨てたか、なんとなく理解できたわよ」
=====
お姫様的な感じにしようと思ったけど
イグニール強くなり過ぎてそんなことにはならなかった(反省)
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