装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

716 今こそ、男を見せる時

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「──顕現せよ、イフリート」

 レベルが一つ下がる。
 俺の呼び出しに答えて、装備の中に眠る火の大精霊の一つが現れた。
 雌型のイフリータとは違って、猛々しい炎の巨人。
 イフリータの持つ純粋な炎というよりは、地属性も融合した融解した大地。
 つまるところのマグマである。

 これは、ここに来る前に用意していた。
 前にイグニールから、パーティーを組む時にもらったペンダントが材料だ。

 イグナイト家、という立場。
 正直言って、俺は釣り合わないんじゃないかと思った。
 それでも彼女を迎えに行く。
 そのためには、色々と覚悟や誠意を見せなきゃいけない。

 妻帯者のロイ様や、キングさんとジュニアに後押しされ。
 ちゃっちゃと成功させて、俺はイフリートを得た。

「イフリートを呼び出せる俺に、いったい何が足りないんだ?」

「うぐぐ……そ、そんなの嘘っぱちだ!」

 大精霊を前にして、そんな強がりを吐くトゥワイス。
 それがイフリートの逆鱗に触れた。

『私が嘘っぱち? 言ってくれるな、小僧』

「しゃ、喋ったあ!?」

『その無駄に蓄えられた脂ごと、消し炭にすることは容易いのだ』

 巨体を前に出して、ぐいっと顔を寄せるイフリート。
 その熱量は隣にいる俺もひしひしと感じていた。
 耐性持ちの装備を貫通して伝わるんだから、本気を出したらやばそうだ。
 それこそ、大地も何もかも根こそぎ溶けてしまうように。

「ひ、ひいっ」

 凄まれて怯えるトゥワイス。
 聖人並みだとは言え、実際の大精霊を目の前にしたら、恐怖を持つ。

「もういいぞ、イフリート。こいつは俺がけじめをつけるから」

『ふん、醜い豚め。私の愛するイフリータの加護を持つ家系に近付くな』

 憤慨するイフリートを下がらせて、次は俺が話す。

「確かに、お前のいう通り、俺には身分も何もない」

 保証するのは、ようやくSランクになったギルドカードだけだ。
 そのギルドが、俺とイグニールを出会わせてくれた。
 彼女はパーティーメンバーで、一緒のカードを持つだけでいい。
 俺はそれで十分だが、誰かに取られるくらいなら全部出す。

「それでも、他に必要なものがあるのならば、俺の全てを差し出すぞ」

 財産も、何もかも。
 持ってるものを全て差し出したっていい。
 社会に削られ、薄汚れてしまった心でも。

「お前なんかに盗られてたまるか。それでもダメなら奪い去るだけだ」

 ずっと心にくすぶってた思いだった。
 今後どうして行くか、それを考えると一歩も先に進めなかった。

 でも、と考える。
 もしかしたら、いつまでも答えが出せなかった俺は間違っていたのかもしれない。
 あのペンダントをもらった時から、彼女をずっと待たせていたかもしれない。

 いや、さすがにそれは俺の思い過ごしか。
 つーか、イグニールの実家みたいなところで、イグニールもらう宣言をしている。
 それも、勢いに任せて本人の目の前で……。

「……」

 やっべ、次なんて言えばいいんだろう。
 すごく恥ずかしくなってきた。

「……………………」

 気まずい時間が過ぎて行く。
 トゥワイスは、次何を言われるのかと、ずーっと怯えている。
 この沈黙が、なぜかとっても恐ろしく感じているようだ。

「トウジ、私の杖は持ってる?」

 そこへ、イグニールが俺の方へ歩み寄りながらそう言った。

「持ってるけど」

「貸して」

「あ、うん」

 大人しく杖を渡すと、イグニールは言う。

「顕現しなさい、イフリータ」

「イグニール……いいのか?」

 まだ100を超えてないから、今召喚するとイグニールのレベルは二つ減る。
 それを踏まえてそう言うと、彼女は微笑んでこう言った。

「火の二大精霊に囲まれた中で、って……すごくロマンチックじゃない?」

「え、それどうい──痛っ」

 ロイ様に後頭部をどつかれた。

「アホか。盟主よ、私が神父役を引き受けるからここで愛を誓え」

 えっ!?
 ……ええっ!?

 そんなつもりじゃないのだけど、まあ、覚悟はしていた。
 確かに、死なない精霊の前でってロマンチックだな。
 固く約束を誓うには、なんとも良いことかもしれない。

「お、」

 ……くそおおおお、言葉が出ないぞ。
 えっと、まずは付き合うことからだよな。
 貴族だから、それはつまり結婚を前提。

「イ、イグニール」

「うん」

「結婚を前提にお付き合いしてください!」

 言った。
 言ってやったぞ俺は!
 おいおい、ついにだぜ!

「………………は?」

 だが、目の前にはすげぇ剣幕のイグニールがいた。
 俺は、何かを間違えてしまったらしい。

「主よ、それはない」

「盟主よ、本当に情けない男だな」

『やれやれだわ……』

『そんなことよりイフリータ、久しぶりに私と一発』

 な、なんだよ!
 なんだよお前ら!
 こっちだって色々とあるんだよ。
 お付き合いなしに急に結婚はおかしいだろ!

 俺は何か間違ったことしたのか?
 言葉の中に、誠実なる貞操観念を持っていること。
 それに対しての真摯さを感じろよ。

「はあ……まあ、なんとなくこうなる予感はしてたけど、別にいいわ」

「ため息つかないで……」

 せっかく男見せたはずなのに、そりゃないよ。

「とにかく」

 イグニールは俺の袖を引っ張ってぐいっと顔を寄せた。

「付き合いはお受けします。それから?」

「えっと……あの……まずはデート……」

「それから?」

 笑顔が怖い。

「………………こんな俺でよければ、結婚してください」

「こんなあなたが私は好きなの……はあ、やっと言えた」

 そしてキスされた。
 酒の席でもなんでもなく、みんなの前で。







=====
図鑑の奴ら「場面的には、とてもロマンチックなはずだったのにね」
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