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本編
717 最期
「……なんか、改めて顔を見ると恥ずかしくなってくるわね」
なんとも長く感じたキスの後、顔を真っ赤にさせるイグニール。
髪の色とほとんど同じような、そんな具合だ。
対する俺も、まさにそんな感じ。
「でも、俺でよかったのか」
「当たり前でしょ。何言ってんの。燃やすわよ」
「は、はい……」
若干これが夢ではないか、そんな心地にもなる。
だがしかし、すごい剣幕なので安心しておく。
夢ではない。
そして、燃やされたくもないのです。
「あ、あ……ぼ、僕ちんのイグニールちゃんがあっ!」
キングさんも、ロイ様も。
そして大精霊二人も祝福を送る中、騒ぐトゥワイス。
そうだ、そう言えばまだ話は済んでなかったな……。
「は? お前のじゃねーよ、アホか」
「ふぐううううう」
随分と悔しそうに涙を流してるけど、なんかもうどうでもよくなって来た。
イグニールとも、めでたく付き合う通り越して結婚。
結婚って何したら良いんだろう?
色々と準備するものあるのでは?
そっち方面に頭を使いたいので、こいつはさっさと終わりにしよう。
「ジュニア、聞こえてるならドアを出せ」
俺の声に反応して、目の前にドアが出現した。
「別のドアの指定位置は大聖堂の上空な、このドアと繋げろ」
「トウジ、まさか……」
隣で腕を組みながら、俺の考えを察するイグニール。
その通り。
やっぱ教団の連中を手にかけるのって、ややこしい。
だから俺ではなく、全て天に任せることにした。
大聖堂跡地にぽっかり空いた穴に、不良在庫は返品だ。
「な、何をするう! やめろお! はなしぇ!」
鼻水を垂らしながら泣くこいつの襟首をつかんで引きずる。
何をされるかわからないといった状況に怯えるトゥワイス。
「めでたい日だから、俺はお前を殺さない」
「じ、慈悲を! なんでもいうこと聞くから!」
「けど、な」
「けど……?」
「けじめはつけさせてもらうぞ。これまでお前ら教団には散々苦労したんだ」
殺されるような目にあって、相手を許す。
俺はそんなに広い心を持った人間ではない。
いや、むしろ心持ちは狭い部類に入る。
「は、離せえええええ! 離せえええええええ!」
俺の言葉のニュアンスから、何かを感じ取ったトゥワイスは暴れた。
だが、一発顔を殴ったら大人しくなった。
「じゃ、神が本当にお前に味方してるなら……多分死なないさ」
「あっ──」
そのままドアに放り込む。
ドアの向こうは、上空1万メートル以上の超高度。
耐久力から酸欠では死なないと思う。
だが、はたして……落下に耐えうるだろうかね?
今のあいつは、耐えられない。
ステータスのVITが1万くらいあれば、もしかしたらとも思う。
いろんな防御系のスキルを持っていれば、この世界ならありえる。
物理法則とか以前に、なんか別の法則だってあるんだからな。
しかし、結局この方法にもなんか限界がありそうな気がして来た……。
超高度から叩き落としても無意味な相手が今後出て来たらどうしよう。
まあ、その答えは難しいけど意外に単純だったりする。
さらに上……だな。
この世界が丸い星だってことがわかったので、そうしよう。
「さてと、もう終わったし、あとは自由にして良いぞ」
「ひいっ」
トゥワイスについて来ていた奴らは、俺の一言で散り散りに逃げ出した。
これに関してはもう追う必要もない。
「ロイ様、あいつらの後を王室諸君たちにこっそり追わせることは可能?」
「問題ない。すでにやっている。手出しできない範囲で脅しておく」
「ありがとう」
残すところは教皇のみだが、大聖堂を壊す時にはいなかったそうだ。
息子の窮地に、いったいどこにいるのやら。
まっ、ほっといても絡んで来そうだから、今は別のことを考えよう。
「イグニール、他のみんなは?」
「部屋で待機してもらってる」
「オッケー、とりあえずピーちゃんの様子を見にいってから、今後の話を──」
その時、外が唐突に光り輝いた。
方角は、大聖堂の方。
はるか上空より、俺がやったようなとんでもない光の柱が跡地に降りて来ていた。
「あれは……ロイ様、キングさん」
「うむ、盟主よ。わかっている。すぐに向かわせる」
「我も行こう」
◆
「ああああああああああああああ──!」
街が豆粒のようになってしまうほどの上空。
太った男が身体中からいろんな体液を撒き散らしながら叫んでした。
「なんで、なんで僕ちんがこんな目に!」
呼吸がし辛い、身体中が痛い。
「助けて、助けて神よ、神よ神よ神よ!」
男は神に祈った。
あとは神に任せる、その言葉の意味。
それが、超高度からの自由落下。
「ふぐうううう、し、死んでたまるか!」
この男は、ずっと神に祈りを捧げて来た一族である。
だが、その神がどうなのかは特にわかっていない。
聖属性という祝福をその身に得ているから。
何もしなくても厳しい修行を耐え抜いた聖人より強いから。
きっと神は味方してくれると確信していた。
「死んで、たまるかああああああああ!」
だから、必死にこの状況を打開する方法を模索する。
といっても、死にたくないから神に祈る。
味方しろ、と叫び続けるだけなのだが……。
「わ、僕ちんたちはっ! どれだけっ! 神のためにっ!」
祈る。
「神のためにっ! 心血注いで来たと思ってるんだっ!」
祈る。祈る祈る。
最期の神頼み。
その姿は、ひどく醜くいものだった。
「いいのかっ! 僕ちんたちが潰えたらっ! 誰も神を信じないっ!」
いいのか、と男は叫ぶ。
神が答えるはずもないのに、それが男を苛立たせた。
「僕ちんを──」
その時。
さらに言葉を続けようと思った男の上から、光が降り注いだ。
「神──」
光は、上から男に圧力をかける。
それが答えである。
もしかしたら耐えられたかもしれない状況で。
この“加速”は駄目押しの一手となった。
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