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本編
722 筋は通したい
しおりを挟む「なんだあいつ」
飛び去ったジュノーを見送りつつそう零すと、イグニールが呟いた。
「まあ、立場が違えば私もそうなってたかもしれないわね」
「立場って……ダンジョンコアだから、俺はあいつに恋愛感情なんてないぞ」
「そうだけど、そんな問題じゃないわよね?」
そんな問題である。
俺は人間、そしてジュノーはダンジョンコア。
大きな隔たりがある分、ごっこくらいならば良い。
「なんにせよ、これでイグニールとの関係を見直すことになるのは嫌だ」
「……まあ」
そんなつもりはない、という彼女の反応だけど。
心の中には何か煮え切らないものがあるようだった。
俺が、少し浮かれ過ぎてたかもしれない。
確かにこの環境の変化が怖かった部分はある。
でも、曲げられない思いだってあるだろう。
昨日の今日で反故にするつもりは絶対ない。
いや今後も俺はイグニールを裏切ることはない。
「まあいい、とりあえず探しに行ってくる」
立ち上がって、ジュノーを追うことにした。
マップを確認すればどこに行ったかなんでわかる。
「行ってどうするのよ」
「甘いもの食べさせておけば大丈夫だろ」
「食べさせておけばって……トウジ……」
俺の発言になんだか呆れた表情をするイグニール。
だが、俺は彼女の目をまっすぐ見ながら言う。
「いや、ジュノーとの約束事はパンケーキだよ」
それ以上でもそれ以下でもない。
全ての始まりはそこ。
「あいつが何を言ってもな、家族ごっこにしないのは確かだよ」
恋心はないとしても、家族愛は感じている。
今まで一緒に冒険してきた仲間なんだから。
夫婦ごっこも全部あいつの中では本気だったのかもしれない。
だが、俺には複数人を本気で好きでいることなんてできない。
そんなに器用な人間じゃないのだ。
その辺は、はっきりとさせておく必要があるだろう。
良い機会だから、少し話をしようと思った。
ここでお互い道を別にする展開になったとしても。
本気で思ってるなら、俺はそれを飲む覚悟をする。
筋は通しておくべきだもんな、なんにせよ。
「なんだか気まずい話ですぞ」
「骨、操を立てるってのはそう言うことだろ」
「日本男児ですぞ~!」
ちなみに、と骨は言う。
「あっちでもこっちでも、別に罪ではないですけどね?」
「たとえ罪じゃないとしても、違うだろ」
貴族階級は認められてるとか、そんな話でもないだろ。
俺は平気で嘘をつくし、人を騙すし、本当のことを喋らない。
だからこそ、身内には偽りなくいたいと言う思いもある。
とかなんとか、綺麗事言って。
実はマイヤーに俺の出自を詳しく話してないんだけどな。
帰ったら報告がてら話すか。
色々と話すことがある中に混ぜてぽろっと伝えよう。
重っ苦しい雰囲気にするのは、正直好きじゃないんだ。
「そのくらいの筋は通すんだよ」
スローフから大切にしろと言われたが、してる。
でもそれは一人の男と女の話ではない。
家族と同じような意味合いでってことなんだ。
「だから、誰がなんて言おうと俺の気持ちは変わらん」
「誰も何も言ってないですぞ。何と戦ってるんですぞ」
「骨、後で、バラバラにする」
「おー怖っ」
「つーか、あいつはアホだけど、バカじゃない」
自分で自分の気持ちの整理とか、できるはずだ。
あいつの気持ちにまで、俺がズカズカと入れるわけがない。
入るつもりもない。
ただ伝えるのは、パンケーキ食べるかとか。
飯の時間だ、くらいである。
「じゃ、行ってくる」
「あんまり私が口出しできることじゃないから、任せた」
任された、と言えるほど俺も自信があるわけでもない。
だが、俺に思うところがあるなら言えば良いさ。
はあ……。
これ、もしかしたらマイヤーとも同じ展開あるんじゃないだろうなあ……。
なんか自分の人生じゃないみたいだぞ、これ。
なんとなく、モテ男って憧れじみたものがあったけど。
実際はこんな感じなんだな、としみじみ思う。
多分だけど、なあなあで済ませてきたんだろう。
それこそ罪じゃねーの?
俺はさすがにそんなことはできませんよ……。
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