文字の大きさ
大
中
小
431 / 650
本編
731 これは高度な心理戦である
「じゃあ、結局誰なんだ……」
「知らん」
ウィンストも知らない奴になると、本当に謎が深まった。
迷宮入りだ。
とりあえず、事のあらましだけでも説明しておくとする。
「ウィンスト、ここに来たのは色々と話があったからなんだ」
「ふむ? それで家を訪ねたら誰かいたってわけか?」
「そうそう。鍵空いてたからね」
「閉めたはずだが……おそらくぶっ壊したんだな、弁償ものだぞ」
ウィンストはため息をつきながら言葉を続ける。
「で、何の話だ? 他に頼みたいことでもあるのか?」
「いや頼みごとと言うか……とりあえず俺、イグニールと結婚した」
「おお、おめでとう。親友の結婚報告はめでたいな」
「ありがとう」
「つまり、今は新婚旅行中ってことだろうか?」
そこまで言った後、ウィンストは少し悲しそうな目をした。
「親友であると言うのに、挙式に呼ばれなかったのが非常に残念だ」
「怒涛の勢いで結婚することになったから、正式な挙式はまだだよ」
この世界でウエディングドレスなんて着るのか知らないけど。
彼の言葉で、是非とも着せてあげなければいけないと思った。
そういうのって女性の夢だというし、俺も見てみたい。
「落ち着いたら是非挙式をあげるから、来てくれよ」
「良いだろう。必ず駆けつける」
俺とイグニールの結婚式かあ……。
誰を呼ぼうか。
全てが終わった時、平穏が来るのはもう少し先かもしれないね。
でも、悪くない忙しさなんじゃないかと、そう思った。
「世間話しながらグラグラするな! 下ろして!」
女の声がする。
で、結局お前は誰なんだ、という話に再び戻った。
「お前が自白しないと、永遠に世間話をし続けるぞ?」
「そうだ。これはトウジと私が仕掛けた高度な戦い方だ」
「え、そうなの?」
「む、そうじゃないのか?」
「「…………」」
そういうことにしておこう、と言う運びになった。
自白するまで、このままグラグラさせながら話を続行する。
絶対吐くもんか、みたいな手合いには良いかもね?
逆に。
ほったらかしにされることによって、不安を募らせる。
自分で考える時間、それは相手に活路を見出すことにもなりかねない。
だがしかし、しっかり実力差を見せた後ならば、一転して不安になる。
上司とか先輩が「ちょっと話がある」と呼び出すようなもんだ。
何もしてないのに「怒られるのかな……」と感じてしまう。
あの不安だ。
「で、結婚報告以外の理由だけどさ」
「うむ」
ちなみにこの間、ポチとチビは飽きて別のことをしていた。
一緒に本を読んだり、積み木みたいにして遊んでいる。
って、え?
本を積み木?
何してんだあいつら!
「こらっ、本を積み木みたいにしてお城を作るんじゃありません!」
「アォーン」
「ギャーオ」
「まあ怒るなトウジ。暇なのだろう、私は別に構わない」
「でもなあ……?」
とはいえ、人様を本を粗末に扱うのはダメだろう。
もっとも、買った本は全て分解する俺が言うのもなんだけどな。
「その辺の本は全て読んだし、あとは私が書いたものだから」
「え? ウィンストが書いたの? マジ?」
「ああ、万が一にも再び自我を失うようなことがあれば……と、日記がてらに物語を綴っている」
「小賢者の大冒険って感じか、後で読ませてもらってもいい?」
「構わないが、そんなに面白いものでもないぞ」
「そんなことはないと思う」
だって日記ってことは、ウィンストの私生活じみたことが書かれてるんだぞ。
多分「へ~」って感じで面白いと思う。
「で、話が逸れに逸れてしまっているが、他の理由は何だ?」
「ウィンストの師匠に、会いに行きたいんだ。だから話を聞きに来た」
「私の師匠? ……確かにトウジならば私も是非とも会わせたい」
だが、とウィンストは続ける。
「今はまだ無理だ。その理由に関しては、私も言えない。すまん」
「──ろくに魔法も使えないバカ弟子」
何やら事情があって言えないと首を横に振るので。
過去の賢者の手記に存在していたキーワードを言い放ってみる。
すると、ウィンストの目の色が少しだけ変わるのがわかった。
「む? 居場所についての規制が取れた……トウジ、見つけたのか?」
頷いて返答する。
「クロイツに再召喚された時、昔の賢者の情報を見つけたんだ」
そしたら、案内役として弟子がいるってのがわかった。
俺はおそらくウィンストのことだろうと思ったのだが、正しかった様だ。
「その言葉は、過去に私が師匠から言われたものである。懐かしいな」
いったいどれだけ前の話なんだろう?
そもそもウィンストはいつから生きてるんだ。
色々と謎が深まるのだが、それは良い。
長生きする魔物って無駄に多いし、上位種だったらさもありなん。
「よしトウジ、私が案内役をしよう。今すぐにでも向かうのか?」
「いや、一度タリアスに行くんだけど……その前のこの女だ」
「その素性もわからん得体の知れない下品な女か」
「や、やっとこっちに話題が向いてくれた……寂しかったよ……」
今まで「おい」とか「話聞け」とか色々煩かったのだが、無視していた。
そうすると、今にも泣き出しそうな感じになっている。
服すら着させてもらってない状況で宙吊り拘束だから情けなくもなるか。
だが、十分に考える時間はあっただろう。
それを踏まえた上で、ウィンストと一緒に今一度尋ねる。
「「お前誰?」」
「夢幻楼街から遣わされた者だよお……そろそろ服着させてえ……」
感想 9,840
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
「お前さえいなければ」と言われたので死んだことにしてみたら、なぜか必死で捜索されています(旧:いらないと言ったのはあなたの方なのに)
水谷繭※7/30書籍発売予定です!6/29まで公開します。
完結まで一括投稿済。
なろうの方では削除する予定はありませんので、読み途中たけれど読みきれないという場合はそちらでお願いします☺️
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました
◆小説家になろうにも投稿しています
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
処刑されるはずだった没落令嬢ですが、姫様の初夜を身代わりしたら子を授かりました
新 星緒没落伯爵令嬢のエルゼは大恩がある姫様を救うために、初夜の身代わりを引き受ける。
そして姫様や国を守るために誰にも行く先を告げずに国を去った。
三年後。初夜の晩に息子ヴァルターを授かっていたエルゼは、ひっそりと暮らしていた。ところが元婚約者に拉致られて、あわやというところに初夜の相手であるハインツ王子が現れる。
「ようやく見つけた。エルゼ、愛している」
「初夜の相手が君だと最初からわかっていたが?」
――身代わり初夜から始まる、純愛溺愛執着愛のお話!