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本編
743 もんもんもん。
しおりを挟む「……は? え?」
サルトへ戻って、ガレーやノード、そしてレスリーも交えて談話中のイグニールを呼び出し、俺の身に起こったことを話した後の、彼女の反応である。
「ゴレオがダメージ受けて、その後コレクトを戻したから何かあったのかと思ってたけど……え? なんて?」
「性欲を奪われてしまった」
「??」
片眉を潜めて、俺の言葉を反芻するイグニールだが……いまいち理解されていないようだった。
いや、確かにいきなり性欲無くなっちゃいました発言は、理解の範疇を超えている。
「先月結婚して、ガレーとノードにトウジが戻ってきてから報告しようと持ったのに」
「うん」
「戻ってきたらいきなりレス宣言って、ふざけてるのかしら?」
「えっとその」
レスのつもりは毛頭ない。
でも、図鑑の連中が俺の目を通してと考えればだな……ちょっとな。
俺だってその時は独占欲が湧いていたと言っても過言ではないのだ。
「つーか、ふざけてないぞ。本当に話した通りっていうか……」
「何にも変わってないじゃないの」
「見た目じゃなくて」
くっ、説得が難しい。
俺だってこんなこと言いたくないのだが、夫婦だから説明すべきだろう。
これ、キングさんを召喚して、承認になってもらうしか方法はないのか?
「トウジ」
「はい」
「今から私とキスできるかしら?」
「しようと思えば全然できるぞ」
「したいとは思ってる?」
「ん? いや、特には……あっ」
それが必要ならオッケーって感覚である。
なるほど、性欲を奪われるとはこう言う感覚なのか。
熱烈的に貪りたい。
そんな欲求を我慢し、せめぎ合う気持ち。
ま、ままま、まったく無い!
少しだけ俺は焦りを覚えていた。
例えばガレーやノードとキスしろって言われたら、絶対に嫌だと答える。
でもお金1兆ケテルくれるよって言われたら、普通にするぞ、俺は。
俺がイグニールの唇に感じている気持ちは、現状その程度だった。
事実として夫婦であるという形、そして大事にしなければいけないという形。
それは残っている。
がしかし、胸の内から湧き上がってくるような、猛烈な感情は……。
ぽっかり胸の内から消え失せてしまっていた。
「これは、やばいかもしれんな」
「はあ……」
ため息をつきながら、額を抑えるイグニール。
「とりあえず書面で残しておくぞ、離婚絶対しませんって」
「そういう問題かしら?」
「いやでも取り返しがつかなくなる前に、先手を打っておくべきだよ」
離婚したいって言われたら、俺は普通に返事をしてしまう気がする。
色々考えた上で、そういう事情なら仕方ないと心を痛める前に。
何の感情もなく、それならそれでと軽いノリで言ってしまいそうだった。
「ま、私から言わないから安心して」
「オッケー」
「で、どうやったら戻るの? さすがに今後もこのままは許さないわよ」
「うーむ……」
凄まれている、プレッシャーを感じている。
でも俺、何も悪いことしてないけどなあ……。
「原因になったグリードから取り返せばいいんじゃない?」
「ならさっさと行くしかないわね」
「待って待って、行くとしたら色々と戦力を整えないと」
もとより、行くことは確定している。
骨の体とか元に戻すきっかけがあるかもしれないのだから。
だが、相手は八大迷宮の一つ。
この世界の管理者とも言える存在。
そして色々と裏で暗躍しているビシャスも噛んでいる。
正面から仕掛けても、色々と面倒な展開になると思っていた。
裏の裏を読む、だなんて難しいことはできない。
けれど、どんだけ手段を用いても圧倒する。
それくらいの戦力を整えることは可能だと判断していた。
圧倒的。
どんなゲームでもそうなってしまえばこっちのワンサイド。
どれだけ策略を考えたとしても、ねじ伏せてしまえば問題ない。
「あのねえ、ちょっと不公平じゃない?」
「え、何が」
「今の私たちは夫婦になりました、一緒のベッドで寝ることになりました、でしょ?」
「あ、はい」
「別にそれから先なんて、トウジがまだだって言えば私は構わないんだけど」
「うん。まだっていうか、立たないんだけどね」
「黙りなさい」
「はい」
魔力のオーラが熱気を帯びた。
これ怒ってますね、ええ。
「あんたが何も考えずにぐっすりって状況で──」
「ワハハハ、トウジ久しぶりだな! 一体そこで何をやっているんだ?」
「そうですよトウジさん! 僕たちに二人から報告があるんですよね?」
しびれを切らして俺たちを呼びにきたガレーとノード。
「──隣で寝てる私が毎晩悶々としてるのは不公平よ!」
何とも間の悪いことか。
俺とイグニールの夜事情をバッチリ聞かれてしまった。
=====
夫婦になって変わったことと言えば、とりあえず同じベッドで二人で寝るくらいです。
最初の1週間くらいはポチ、ピーちゃん、ジュノーも気を使ってくれてました。
ですが、結局はトウジのベッドに全員集合して寝てます。
理由はトウジが悶々してどうしても寝付けないからです。
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