446 / 650
本編
746 実はただの社畜引き抜きである
しおりを挟む「力になれることは、正直に言うがない」
俺は良い雰囲気をぶった切るように、ガレーとノードを見据えてそう告げた。
「……」
「そ、そんな」
ガレーは、ただ俺の目をじっと見返して黙っており。
ノードは、少しだけ焦ったような表情を見せる。
もっと良い言い方があったかもしれないのだけど。
……彼らは、友達だから。
「強いて言うなら、だけど……トガルからギリスに活動拠点を移して欲しい」
「どう言う意味だ、トウジ」
「そのままの意味」
今までトガルの守護はウィンストに任せていた。
けど、彼も一緒に行くから、安全な場所に行け。
ただそれだけである。
「だいたいの敵が今日みたいにいきなり来るんだ」
今から行きますよ、だなんて警告してからは来ない。
かと言って、来るかもしれないと毎日気を張るのも疲れる。
国をまたいでも安全かどうか、それは定かではない。
ただギリスにはダンジョンがある。
他の奴らもいて、マッドサイエンティスト親子が物騒なものを作っている。
手立てを尽くすこと。
それが現状俺に一番必要なことではないだろうか、と。
「トウジ、お前……」
ガレーはアホだがバカじゃない。
むしろ、頭はすこぶる回る人物でもある。
俺の言葉の意味を理解したようだった。
同時に、熱い人物でもある。
だからこそ。
その曲がった口から出るセリフは真摯に受け止めなければならないと思った。
ナメるなよ、とか、見くびるな、とか。
それでも俺はぶっちゃけイグニールすらも置いていく気持ちでいるんだ。
面倒ごとは、あくまで俺個人に降りかかる火の粉なんだから。
「ここで熱い奴ならば、俺たちを見くびるなと立ち上がるだろう」
「ん?」
「しかし、話はもっともだった。俺には、お前が何と戦ってるのかも想像できん」
「ガレー……」
「Sランクは俺たちからすれば雲の上のような存在」
ガレーは言葉を続ける。
「評価で行けばその最高峰にも近いお前が戦う舞台に、もう時期Aランクの俺たちがどうやって立つ。舞台袖どころか、観客席側だ」
「で、ででででもでもガレーさん!」
場の空気に飲まれたのか、ノードが久しぶりに吃りながら言う。
「トウジさんは大事な友達なんですから、なんかここで決別みたいな空気にしないでくださいよ!」
「……は? 別にそんなつもりじゃないぞ?」
「あれ? そうなんですか? トウジさんも?」
「え? うん、そんなつもりじゃないけど?」
「あれぇー?」
首をかしげるノードをほっといて話を進める。
「掻い摘んで言いたいのは、あんまり関わるとろくな目に合わない、だろう?」
「うん。万が一に備えて避難しといて欲しいだけ」
「ならば言う通りにしよう。Sランクのお前が危険だと判断するなら、Bランクはその指揮下に入らねば」
「ついでに色々と手伝って欲しいことがあるんだけど、それも良いかな?」
「む? まあ必要なことがあれば力にはなろう。だがお前の力になれるかはわからないぞ」
「いや、戦闘するとかじゃないから良いよ」
俺は、ガレーの管理能力には素直に感心している。
Cランク昇格依頼の時の情報収集能力。
そして、それを元に日程を決めて遂行することはとてつもない力だ。
冒険者じゃなくても、どこでだって通用する能力なのである。
自己管理能力。
簡単そうに見えて、完璧にこなすって意外と難しいからね。
それができるガレーは、異世界を生きる社畜。
面接で「潤滑油です!」って宣言して、本当に潤滑油パターン。
「冒険者以外にも、ギリスで商会を設立してそこにお金出してるんだけど」
「そんなことまでやってるのか、トウジ……」
「うん、まあ成り行きでね。で、そっちに力を貸して欲しいんだよ」
「なに? 冒険者をやめて商会に入れと言うのか!」
「そうそう。冒険者にプライドがあるなら別に俺は良いんだけ──」
「──いいだろうやろう」
お?
二つ返事だった。
=====
明日からコミカライズ連載スタートです。
あと8万pt下回ったので、明日から更新速度遅くします。
1日一回更新で気が乗ったら二回です。
61
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。