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本編
771 。 ※ジュノー視点。
「何するし! 離すし! むがー!」
フードで顔を隠した男の腕の中で、バタバタと手足を動かし暴れる。
レベルは100を超え、ステータスはトウジの装備でちょっとは強い。
それなのに、このフードの男はビクともしなかった。
「なんだし! 何か言えし! 黙るなし!」
とにかく声を出してアクションを取り続ける。
何が目的なのかはわからないけど。
攫われたのがあたしだったのは不幸中の幸いかも。
今は分体。
迷惑をかけるくらいなら、さっさと本体に戻る方がいい。
でもその前に。
何故あたしを連れ出したのか色々と聞きたかった。
理由がないなら、そのまま分体を消す。
そっちの方がトウジの迷惑にならないから。
「……初めまして、では無いですねジュノーさん」
聞き覚えのある声。
あのおバカな守護者アンダンテの口から出たものとそっくりだった。
「まさかビシャスだし!?」
「ご名答。そうです私がビシャスです」
フードを取っ払うと、黒髪の糸目男が姿を現した。
「それがビシャスの本当の姿だし?」
「いいえ、借り物ですよ。親近感が湧くように、彼に少し似せています」
確かに……少しだけ、トウジに似ているような気がした。
でもその表情は作り笑いが行き過ぎて、どこか気持ち悪い。
「ぜんっぜん似てないし!」
「おやおや」
「トウジの作り笑顔はそんなに出来過ぎたものじゃないし!」
もっとこう、なんか無理やり作ったような感じ。
頬の方が微妙に引きつってて完璧じゃない。
あ、この人無理やり笑ってお世辞並べてるな……って。
「辛辣ですね。それアキノさんにも失礼では?」
「そんなことないし!」
ぎこちないのが良いの。
変に完璧すぎる作り笑いを見て、一層そう思った。
「つーか、ずっとここに居たんだし!?」
「ええ、いましたよ」
ビシャスは言う。
「彼は警戒心が強く、なかなか本気を出してくれませんからね」
ある程度、力の一端を見ることはできた。
しかし、それでもまだ足りない。
だからこうしてわざわざ足を運んだのだそうだ。
「敵情知るなら、やはりこの目でしかと見定めませんと」
「大胆だし」
「ええ、それが一番手っ取り早いです。だからスタンバってました」
「アホだし」
「私が死んでも、別の私がこの世界にはスタンバってますからねえ」
目まぐるしく移り変わるこの状況を隠れ蓑に。
ビシャスはあたしたちに接近していたらしい。
下手に接近しても誰かが気づく。
すでにビシャスの勢力がいるという状況。
そしてそのあとの憤怒の支配域。
「そこまで考えられるなら、悪いことしないで甘いものの創造に力を発揮するし」
そしたら世界はもっと楽しくなるのに。
「クフフフ、甘いものはもうこりごりなんですよ。私は辛いものが食べてみたい」
「うげー、苦いのでも食べてれば良いし」
あたしはなにか情報を引き出すことができないか、話を振った。
「あたしをどうするつもりだし? 人質だし?」
「分体の貴方が人質になる? 何かの間違いでは?」
「っ! な、なんでそれを知ってるし!」
「私も管理権限を持たされた守護者の一人ですよ。そのくらいわかります」
「むぅ」
「それにいつもガヤを入れるタイプの貴方がこんな状況で落ち着いている」
すなわち、と続ける。
「特にリスクはないと、心の中で安心しきってる証拠ですから、故に分体」
「お、思ったより頭良いんだし……で、でも、あたしを連れてっても仕方ないし!」
「そんなことはありませんよ」
ビシャスは走りながら言葉を続ける。
「少しばかり、お話したかったもので……憤怒を交えて」
言い終えたところで、最奥の一番でかい扉にたどり着いた。
その奥から、強烈な魔力が伝わってくる。
「開けてください、ヒューリー」
ビシャスがそう告げると、ゆっくりと最奥の扉が開き始めた。
押さえ込まれていた魔力が、解放され。
熱気のように陽炎を作りながらムワッとあたしを包み込む。
「──帰れ、失せろ、私の怒りに触れたくなければな」
「拒絶するなら、開けなければ良いじゃないですか」
クフフと笑いながら、ビシャスは中へとつかつか歩いていく。
「話ってなんだし!」
「クフフ、それは聞いてからのお楽しみですよ──」
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