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本編
780 HP0デッドマン ※イグニール視点
「……ひどい怪我ね」
「え?」
最奥の部屋を後にして。
肩を貸しながらそう言うと、トウジは自分の腕を見て言った。
「あ、思い出したら痛くなって来たかも知れん」
左足は切れて、右手は指輪装備以外が焼け焦げて爛れている。
普段は全くそんな怪我ひとつしない人だけど。
ダンジョンコアを相手にした戦闘となると、厳しかったみたい。
私は何もできなかった。
だからその分、この後労ってあげなきゃね、と思っていた。
「あっ」
「ん? 何よ? どうしたの?」
片足失ってるから肩を貸していた旦那が、唐突に青ざめた表情を作る。
「やばい、死──」
「やばいし?」
そして、ジュノーがふざけて反応した瞬間のことだった。
「またあたしの真似してどうしたしトウ──」
私の肩から、座れこむように崩れ落ちる。
あの時みたいに、寝不足とか、風邪とか。
満身創痍の戦闘後で疲れて寝てしまった、と。
最初はそう思ったのだけど。
「──ジ? ……トウジ?」
座り込んだトウジの膝の上に乗り、首をかしげるジュノー。
「あれれ、疲れて寝ちゃったし?」
言い知れない不安が、私の背筋を伝っていた。
力を失ってするりと崩れる瞬間。
まるで時間が止まったような、そんな感覚に陥る。
「む? いかん!」
そんな様子を見たウィンストが、チビを連れて駆け寄って来た。
すぐにその場でトウジを寝かせ、容体を確認する。
「あれ、ポチ公? おーいポチ公!」
キョロキョロとしながら、ポチと二人で先を歩いていたパインが戻って来た。
「おかしいな、ポチ公がいきなりいなくなっちまいやがった……」
どこ行ったんだと呟くパインも、トウジに目を向けて驚く。
「って、おいトウジ! どうしちまったんだ!」
「こらトウジ! 寝るなし! トウジってば!」
駆け寄って、寝かされたトウジの胸の上で飛び跳ねるジュノー。
「怪我人だから胸の上で暴れるな」
「寝てるだけだし! 寝てる、だけ!」
少しだけ、ジュノーの口ぶりが震えている。
座り込むようにして崩れ落ちた彼を見て。
私と同じようなことを思ったのだろう。
同時に。
信じたくないから寝てるだけだと思っているのだろう。
「チビ、竜化」
「ギャオ!」
ウィンストの指示で、チビが力を解放して巨大なドラゴンとなった。
「状態を確認しつつ、すぐに家に連れ帰るぞ!」
「お、おい……まじかよ……」
「おおマジだ。ここだと回復阻害があるからな」
パインも、ウィンストの表情を見て固まっていた。
快活に笑ういつもの表情とは打って変わって。
その顔には、焦りとか他の色々な感情が浮き出ていた。
「こ、これからみんなで飯食うんじゃなかったのかよ!」
「落ち着けパイン、宴は後だ。早く戻るぞ、みんな乗れ」
至って冷静に振舞おうとするウィンストからも、見て取れる。
確かな焦り。
「あ、ぅ……ね、寝てるだけだし……」
震えながら呟くジュノーを抱き寄せる。
ここは私が、気をしっかりしなきゃ。
そう思ってるのに……。
足が固まってしまったように動かなかった。
「大丈夫だ、イグニール、ジュノー」
ウィンストが先にチビの背中に乗れと手を伸ばす。
「寝てるだけだ。しっかり処置すれば蘇生できる」
「あ、うん……そ、そうよね……」
最悪の考えは、良くない。
きっと、疲れて寝てるだけ……なのに。
……。
ダンジョンの天井を向く彼の目は、光を失って開いたままだった。
そして、ポチが消えた。
この事実が表すことは、一つだけである。
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