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本編
786 旦那とストーカー
(はあはあ、なんとか逃げ切った……のか?)
(いいえ、後ろにいます)
くそが。
でも、結局のところお互いがお互い攻撃できない。
そんな状況だったので、逃げる逃げないの問題じゃなかった。
(まあ、別にいいでしょう)
ため息をつきながら、スイーッと再び風呂場に入って行くローディ。
(私としてはお姉様の話の方が気になりますので)
(ああ、ついに伝えちまったんだな)
(彼の方も貴方と一緒に暮らす、うら若き乙女ですが……)
ローディはまっすぐ俺の目を見ながら言葉を続けた。
(答え方によっては、いったいどうするおつもりですか?)
(……どうもこうもしねえよ)
この世界は、一部の階級によって一夫多妻制が認められている。
しかし、俺の根底にあるのは一夫一妻。
一人の男は、一人の女を一生かけて愛するっていう常識だけだ。
(仮にイグニールが平気だったとしても、俺は平気じゃない)
(そうですか、歳の割には童貞みたいなことを言うんですね)
(童貞じゃねーよ)
(は? まさかお姉様と……)
(それもちげえよ。つーか話を脱線させんな、クビにするぞ)
(ぐっ)
あまりこう言うことは言いたくないのだが、背に腹は変えられない。
イグニールが大事にしているから、ローディもある程度は許容する。
ただそれだけの話で、鬱陶しかったら容赦なく切ってもいいんだぞ。
(お前が変な妄想こじらせて、寝込みを襲われても俺は死なないから)
そのために装備を入念に作り込んで来ているのだ。
動物ってのは寝ている時が一番危険なんだからね。
(死んでますよね)
(……そうだね、死んでるね)
ハハハ。
(いやーまさかだよー)
(そうですよねー……って、死ぬのは老衰と病死以外は不測の事態です)
(はい)
彼女の言うとおりです。
使用していた秘薬類の効果が全部消えて、その後の持続ダメージで死ぬなんて。
まあ、HP1で耐える装備とか回復系の装備をつけている俺を殺す唯一の方法。
恐れてはいたが、まかり通ってしまうんだよな。
今更ながら、もっと気を配っておくべきだった。
そう実感する。
(貴方ねえ……私のお姉様を未亡人にするなんて許されませんよ?)
見てください、とローディに指さされたので見ると。
「ごめんねマイヤー……伝えるのが遅くなって……いや、何もかも」
「イグ姉……」
溢れる涙を手で拭うイグニールの姿があった。
「私がもっとちゃんとしてたらよかったのに……ぐすん……」
「で、でも生き返るんちゃうん? ウィンストも言ってたし」
「うんっ、トウジはゆっくりおやすみしてるだけなんだし!」
いつも姉御肌を前面に振る舞って来たイグニールの泣く姿。
マイヤーとジュノーは焦ったようにフォローを入れていた。
(お姉様を泣かせるだなんて、貴方の背負った罪を知りなさい)
ああお労しや、ともらい泣きするローディ。
こいつに関しては俺の状況ではなく。
イグニールが泣いてるから一緒に泣いてるだけで。
本当にしばいたろか、って思った。
(まあでもさ、犠牲が俺でよかった……とも思ってるんだ)
(はあ?)
(もしこれでイグニールとか他のみんなが犠牲になったら)
俺は耐えられないと思う。
こうしてなんの因果かわからないが、死後の可能性もある。
(これでなんとか霊体から体に戻れれば、万事収まるんだ)
(生き返れなかったら、ただ死んだようなものですけどね)
(うぐっ)
それを言ってしまっては元も子もない。
俺はこのままで終わるなんて絶対に嫌だぞ。
まだ色々とやり残したことがあるんだ。
(まっ、ずっと引きずられるのも癪に障りますから、お手伝いしましょう)
(お? どういう風の吹き回しだ?)
(旦那との死に別れだなんて、お姉様の心に一生残ってしまう大問題です)
付け入る隙がなくなってしまう可能性は排除したいそうだ。
(ふーん)
(勘違いしないでください。貴方がこっち側にいると落ち着いてお姉様ウォッチできないんです)
(復活したらどんな手を使ってでもお前を締め出すから覚悟しとけよ)
いろんな邪魔が多すぎてイグニールとの夜が遠すぎる。
でも、協力してもらえるのはありがたいと思えた。
生き霊になってまでストーカー行為に勤しむ、いわばプロ。
プロフェッショナルの意見は大いに参考にしよう。
感想 9,840
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