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本編
791 希望は絶たれた
しおりを挟む(ほ、本当に髪の毛なのか? ちょっとそれを伝えるのは待って欲しいんだが……)
骨がすぐにでもイグニールたちに俺のことを告げに行きそうだったので止める。
毛の量が厳密に定まってない状況だったら、かなりやばい結果を招く気がした。
イグニールだったら、下の毛も、いや体毛全てをむしり取る勢いでやりかねん。
もうすでに息子は見られてるし、嫁だから気にしないわよってやっちゃいそう。
つーか、面倒だから全部毛を触媒にすりゃ良いのよって……なりかねないんだ!
(あのさ、もうちょっとしっかり話し合ってからにしない? ねえ? ねえって?)
(往生際が悪い社長ですね。汚職でもしたんですか? ああ、殉職ですか……ぷっ)
ここぞとまでに俺を馬鹿にするローディだった。
俺が何したってんだ、くそが。
(トウジ様~生き返るんだから良いじゃないですか~)
(いやでもさあ、出家したみたいになるのは嫌なんだよ……)
この歳で丸坊主になったら、もう2度と生えてこない気がした。
毛でまるっと事態が治まるのはわかるけど、やっぱりさあ……。
往生際が悪いって言われても、俺の気持ちは同じ年代の男ならわかると思う。
(大事なんだよ、大切なんだよ、宝物なんだよ)
(それはお姉様よりもですか?)
(ぐっ)
それは卑怯でしょ、全く別のものでしょ、比べないでよ。
イグニールの方が大事に決まってるよ、当たり前だろ。
でも髪だって同じくらい大事なんだってばよ……。
(トウジ様、髪っていうのは命と同じような側面を秘めているんですぞ)
(そうなの? 頭を守るためのものじゃないの?)
(それもあるかもしれませんけど、ほらかの有名な曹操を知ってますか?)
(中国の武将だっけ……よくわかんない……)
(30過ぎのおっさんが泣いてる……うわぁ……)
(うっせぇぞローディ、悲しいんだ俺は。あとお前クビで)
(!?)
苦笑いしながら骨が話を続ける。
(自分で定めたルールを破ってしまった曹操は、偉い人なのに髪を切って詫びたんですぞ?)
(……はしょり過ぎててわかんねぇ)
(とにかくそれだけ髪って重要な、体の一部、命なのですぞ)
(うぐぐ……)
なんだ聞き覚えがあるぞ、その逸話。
麦畑がどうたらってやつだろ。
でもそれって髪が命と同じくらいの価値を持つ話じゃねえ。
ルールは守りましょうって話だったはずだ。
(とにかく他の毛のアイデアを探してくれ頼む骨お願いだお願いします頼むから)
(もう支離滅裂な言葉になってますぞ……)
(って、あれ……社長?)
急にローディが訝しむような表情をしながら俺の方を見ていた。
(なに? クビにしてほしくなかったら案を出せ、案を)
(いやその……なんだか薄くなってないですか……?)
(ああ!? 髪のことか!?)
さっきからデリケートな部分にズカズカと。
こいつほんま、いわしたろか。
(違いますよ。なんだか社長の姿が前より一層薄くなっているような……)
(へ……?)
自分の手を見てみると、なんだか本当に薄くなってきていた。
(ちょ! えええ! 嫌だ嫌だ成仏したくないんだけど!)
(落ち着いてくださいトウジ様)
(うわああああ、骨えもん助けてくれ! なんか薄いぞ俺!)
骨の爆乳に飛び込んだら、スカッと透過してしまう。
(今、飛び込みましたね、骨さんの爆乳に)
(私はいつでもウェルカムですぞ~)
(縋ってんだよ! とにかくこのままだとまずいから速くなんとかしないと!)
く、やはり最終手段はあれしかない。
俺は髪を残すためだったら悪魔とでも契約を結ぶぞ。
結んでやるんだよ!
(うおおおおおおお!)
(あっ! 社長が一番行っちゃいけない方向に!)
リビングの神棚にある怨嗟の鎖の小瓶に走った。
それはもう、とんでもない勢いで走った。
怨嗟の鎖、俺を蘇らせてくれ、体はくれてやる。
でも髪だけは残す、そんな契約で頼む。
「ピーちゃん、あたしとコンコンゲームやるし?」
「ぷぴ?」
「一回ずつ叩いて先に悶えさせた方が勝ちだし!」
「ぴっ!」
「バレると怒られるから、向こうの部屋でやろ?」
(あっ!)
なんか知らんけど、変な遊びをやるジュノーとピーちゃんに持ってかれた。
チクショー!
(本当に往生際が悪いですね、社長)
(いざという時以外は基本ヘタレですぞ)
(うぐぐ)
希望は絶たれた。
もう好きにしろ。
毛、好きにしろ。
(では、断髪式の儀を執り行う準備ですかね)
(ですぞ、では色々とみんなにお知らせしてきますぞ)
=====
バイバイ毛~
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